Startup:職場も社会も救うボランティアSaaS

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。土曜昼にお届けするこの連載では、定期的にひとつ「次なるスタートアップ」を紹介しています。今年最後の配信となる今回は、SDGsとテックをキーワードに勢いを増す、ボランティアプラットフォーム「Deed」を取り上げます。

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Image: PHOTO VIA DEED

Deed

・創業:2016年
・創業者:Deevee Kashi、Steven Liu、Aske Ertmann
・調達総額:1,280万ドル(約14億6,000万円)
・事業内容:企業向けボランティアSaaS

superficial SDGs

うわべだけのSDGs

SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)に企業の熱い視線が注がれています。企業の社会的責任や新たな事業機会の発掘の観点から、さまざまな取り組みが進んでいます。

しかし実際のところ、馴染みのない団体への寄付や、トップダウンによる制度導入など、表面的な取り組みにとどまっている例も多いのが実情です。社員の参加や賛同なきまま、企業イメージ先行の「やらされ型」なSDGsも少なくないようです。寄付やボランティアに興味のある従業員がいたとしても、企業にその気持ちを受け止めるだけの十分な仕組みはありません。

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Image: PHOTO VIA DEED

とはいえ、個人でボランティアを始めるには、ハードルが高いのが現実です。募集や中身に関してまとまった情報も入手しにくく、どんな人が参加しているかも不明です。参加には紙と郵送の煩わしい手続きが必要で、寄付しようにも銀行振り込みオンリーでカード決済は未対応だったり。寄付で集まったお金がどう使われたかのフォローアップも乏しく、体験はイマイチです。

Who is Deed?

Deedとは

Deedは社会貢献活動と企業を結びつけるプラットフォームを提供しています。

Deedを導入した企業では、社員や企業の担当者が、寄付やボランティアのプロジェクトの立ち上げと管理を行えます。高齢者施設でのボランティアから海外の自然災害の義援金まで、あらゆるプロジェクトを簡単に組成し、運用を一元管理できるツールです。

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Image: PHOTO VIA DEED

例えば「フィリピンを襲った台風の被害者を援助したい」と思ったら、Deedのプラットフォームから該当する寄付を選択し、目標金額や期間などを設定するだけ。リンク入りのメールや社内のイントラ経由で社員向けに公開すれば、なぜ助けを必要としているのか、自然災害が起きた背景に至るまで、ビジュアルでわかりやすく解説されています。

申し込みフォームはウェブ上で完結し、寄付の支払いオプションもカード、振込など様々で、あらゆる通貨にも対応しています。ボランティアの参加者への案内や出欠もクラウドで一元管理できます。寄付は目標金額への進捗がリアルタイムで確認でき、自分の貢献も見える化されています。賛同している同僚に連られて参加したり、自分が支持するプロジェクトに同僚を誘うなど、やる気を誘発するソーシャルな要素もあります。

あらかじめ関心テーマや支持する団体をフォローしておけば最新情報が提供され、募集が始まれば通知を受け取ることができます。特定のテーマでグループをつくって仲間を募ることも可能です。自ら支援に声を上げて、職場の仲間を巻き込み支援の渦を作ることもできます。Slack連携しているため、Slackチャンネルでの情報共有や議論も容易です。

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Image: PHOTO VIA DEED

ボランティア後は、参加者の満足度調査やサーベイを通じて、次回以降の運営に活かすことができます。イベント後は問題意識の高まった社員同士で、テーマに沿った議論も活発に行われ、次回の計画も練られます。当日の写真や動画も参加者に共有され、体験価値やモチベーションも高まります。

The volunteering DX has arrived

ボランティアのDX

Deedが面白いと思える理由は、いくつかあります。

まず、Deedの表向きは「ボランティアSaaS」ですが、本質は社員のコミュニケーション活性化ツールである点です。

コロナ禍で強制されたリモートワークでは、同僚とのリアルな接触の機会は減っています。組織の活性化に「社内運動会」が見直されているというもありますが、ボランティアで同僚と一緒に汗をかくことで、いままで接点のなかった人とも部署を超えた関係性を構築できます。BBQやゴルフではなく、社会貢献という誰もが共感できる目的に向かって職場の仲間が協力することで、コミュニケーションを誘発してチームビルディングに貢献します。

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Image: PHOTO VIA DEED

次に、寄付やボランティアは、誰かを助けているように見えて、実態は「助ける側」が救われている点です。

デジタルに浸かり切った若い世代ほど、現実世界での人との関わりが薄れ人生の目的意識や生きがいを見失うケースも多いそうです。ボランティアは参加者に「人生の充実感」や「誰かに必要とされる喜び」を与えてくれます。企業は地に足のついたSDGs活動を推進しながら、社員のメンタル面の支えになってモチベーションを高める一石二鳥なツールと言えます。

そして、「社会貢献」という、テクノロジーが未開拓な成長市場に狙いを定めた点です。

ボランティア産業は自然災害や医療福祉など社会課題は増える一方な成長市場です。Deedはテックに慣れた若い世代ほどボランティアの意識は高い一方で、社会貢献産業全体がテックに遅れをとっているという矛盾を突いています。ボランティア団体などNPOのDXに繋がるサービスを、ペイヤー(支払い者)を企業に置き換えてマネタイズするビジネスモデルも秀逸です。

market potential

日本で秘めた可能性

Deedの創業者兼CEOのディービー・カシ(Deevee Kashi)はNYで生まれ育った生粋のニューヨーカーです。哲学を学んだのち、10年間ナイトクラブを経営しながら自分の価値観とのズレに悩んでいました。

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Image: ディービー・カシ PHOTO VIA DEED

「生計を立てるため、毎晩パーティを開いていた」と振り返るディービーは、心の空虚感を解消しようと、意を決してボランティアに参加します。情報を取るのに一苦労で、申し込みも複雑でわかりにくい。主催者は若者の参加を求めているのに、テクノロジーがまったく活用されていないことから、自ら立ち上がりました。

当初は個人向けに展開しながら、企業からの問い合わせが相次いだことを受けて法人向けにシフト。狙いはピタリと当たり、アディダスやBox、 Airbnb、Stripeなど、グローバルな大手企業から相次いで採用されました。今年夏のYコンビネータのバッチに参加し、 9月にはシリーズAラウンドで1,000万ドル(約11億円)を調達しています。

地震など災害大国な日本では、人口減少・少子高齢化により、社会保障サービスの担い手不足も深刻化します。ボランティア需要は今後も増加の一途をたどることは間違いありません。企業のSDGs熱が社員の賛同を巻き込んだ大きなうねりに繋がれば、こうした社会課題の解決に貢献できるはず。Deedは「ボランティア後進国」で「課題先進国」な日本でこそ、大きなポテンシャルを秘めています。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi等。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。本連載のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas


Column: What to watch for

振り返りはすべき?

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来年に向けて「こうしたい」という理想を具体的にイメージするために、欠かせない今年の振り返り。大切なのは、課題にどれだけの価値があるか理解することです。成功した起業家たちへのヒアリングから、彼らが「やってよかった」と太鼓判を押す5つの取り組みを紹介します。

ネットワーキング
良い人と繋がることで良いエネルギーに囲まれること。イーロン・マスクも良い人と働く重要性を説いている(願わくば、個人の力を弱め士気をくじく「ボス」でなく、人徳のある「リーダー」を)。

ジャーナリング
起きたこと、それに対し何をしたか、出来事から学んだこと、感じたこと、考えたこと。毎週、この5つを自分に問いかけ記録し、方向性を自覚する習慣を身に付ける。自分を消耗させるだけの部分は外に頼めばいい。

メンターへの投資
来年、ビジネスオーナーができる賢明な投資とも言える。メンターは、経営者が無意識に自分自身に課していたリミットを打ち破るチャンスを与え、より大きいスケールで思考するための助けになる。

タスクを合理化するための目標定義
タスクやプロジェクトを他の人に割り振ることでビジネスは拡大する。休息も取りやすくなるはず。壮大な絵空図を描くか、小さくとどまるか、選択はあなた次第……。

「憂鬱な月曜日」の再考
1日を時間のブロックに分けて分割したブロックにひとつのタスクを割り当てる、タイムブロッキングのアプローチを習得すれば、やるべきことをやるべき期間内にすべて達成できる。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


📆 年末のニュースレター配信は12/28夜まで。12/29〜1/3は、朝・夜の配信をお休みさせていただく予定です。

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