Africa:白人のアフリカンスタートアップ

Finding affordable food in Nairobi has set off startup drama.
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2021年6月、ケニアのナイロビに拠点を置くスタートアップの白人創業者が、地元の人びとから大きな反発を受けました。この事件は、「アフリカのテックシーンにおける権力は誰の手にあるのか」という長年の議論を表沙汰にするものでした。

2021年6月16日に『Techcrunch』に掲載されたロビン・リーチト(Robin Reecht)のインタビューは、たったひとつの残念なコメントさえなければ無難に終わっていたでしょう。それは、ケニア人が愛してやまないローカルメニューについての発言でした。

The hell is this nonsense?

こんなバカな話、ある?

フランス人のリーチト曰く、「ケニアに来て3日目、安くておいしい食べ物はどこで手に入るのか尋ねて回ったところ、誰もが『それは無理だ』と答えた」「安いが味はまずまずのローカルメニューを食べるか、Uber EatsやGlovo、Jumiaで美味しい料理を注文する代わりに最低10ドル払うかのどちらかしかない」。リーチトが「届いたらすぐに食べられる料理を手ごろな価格で製造し個人や企業に配達する」スタートアップ、Kuneを創業したのはその経験があったからこそ、というわけです。

さらに、リーチトはこのインタビューのなかで、半年前に創業したばかりのKuneがプレシード投資で100万ドル(約1億1,584万円)を調達したことを明らかにしました。この事実は、一部の人をさらに憤慨させることとなりました。

ケニアの人びとはTwitterで不満を訴えました。Kuneが「解決した問題」は実際には存在せず、さらに事業がまだ稼働していないにもかかわらずリーチトがこれほど早く資金を調達できたのは「白人の特権」によるものだ、と。

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Image: 「この街では何でも注文できるし、2時間後には家に届くよ。しかも住所不定でも」
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Image: 「彼のビジネスモデルは、ケニアに住む植民地出身者が、ケニア人ではないケニア人の方法でケニアを経験するためのものだ」

Quartzに対してリーチトが伝えた声明によると、彼は、自身の発言が世間にどう映ったかを後悔しているとしています。同時に、Kuneのビジネスと今回の資金調達に対する熱意も表明しています。

「この業界は、オペレーションに重きを置いた労働集約型となる。今回調達した資金は工場の新規建設と生産者30人、配達ドライバー100人、マーケティング担当者10~15人、そしてUX担当者10~15人の採用などに使う予定だ」

ケニアには、Twitterで「#KenyansonTwitter(KOT)」と呼ばれる、強大な力をもったケニア人がいます。彼らは過去にはケニアを「テロの温床」と表現した『CNN』の副社長を謝罪に追い込んだほか、痛みやかゆみを誘発する生理用ナプキンを販売したことについてP&Gに抗議するオンラインキャンペーンを成功させるなど、いくつもの勝利をあげてきました。

White privilege

白人の特権

リーチトの発言の何が、ここまでケニア人の神経を逆なでしたのでしょうか? その答えは(食べものに敏感な国民性を除いて)数字を見れば明らかでしょう。ケニアの企業Viktoria Venturesの分析によると、2020年に100万ドル(約1億1,590万円)以上を調達したケニアのスタートアップのうち、地元の人が率いる企業はわずか6%に過ぎません。アフリカのスタートアップへの投資は増加傾向にありますが白人が創業した企業が依然として資金の大半を得ているのです。

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Image: 「1) 白人のテックスタートアップは、米国よりもケニアで資金を得る確率が50,000%高い。2) 創業者の65%は米国人。3)そのうち65%は、ケニアに住んだこともない」

「なぜ反発が起きたのか、完全に理解している」と、リーチトはQuartzに語っています。「巨額の資金を調達したアフリカのスタートアップに目を向けると、創業者が黒人よりも白人である場合のほうが多い。ただ、わたしは自分の発言のせいでチームのほかのメンバーたちの仕事を危うくするようなまねはしたくない。ケニア人のメンバーたちはこの資金を調達するために一所懸命に働いたし、最大の投資家のひとりもナイジェリア人だ」

この事件は、笑いのネタにもなりました。この出来事を機に、ナイロビ在住のドイツ人が風刺的なウェブサイトを立ち上げ、資金を調達したい地元のスタートアップに自ら「ムズング(白人)」として雇われるサービスを提供し始めたのです。「Hire a Mzungu」と名付けられたこのウェブサイトには次のようなメッセージが書かれています。

「アフリカは投資先としてあまり広く認識されていません……別の白人が登場するまでは。いわゆる『アフリカンスタートアップ』が創業されて初めて、あるいはムズングがスタートアップを共同創業して初めて、資金が殺到するようになるのです。そして 時には しばしば  大抵の場合、適切なデューデリジェンスがなくともそれが成立するのです」

今回の騒動がリーチトやKuneに与えた損害が長期にわたるものではないでしょう。しかし、アフリカのスタートアップシーンにおける権力と特権の議論は、すぐには消えそうにありません。


Ecosystem

2021年はいい年だった

2021年は、アフリカのスタートアップによる1億ドル(約116億円)規模の資金調達がスタンダードになった年でした。第1四半期にはTymeBankFlutterwaveが1億ドル調達の扉を開き、Chipperは半年の間に1億ドル以上の資金調達を2度も成功させています。またセネガル発のWaveが1億ドルを調達したことをきっかけに、これまで見過ごされていたサブサハラアフリカのスタートアップにも光が当たるようになりました。

前述した企業のほか、2021年には6つのテック企業がそれぞれ異なるラウンドで1億ドルの調達に成功し、アフリカのスタートアップによる「メガラウンド(1億ドル以上の資金調達ラウンド)時代」の到来を告げています。

スタートアップの資金調達データベースである「The Big Deal」によると、これらの企業が計11回のラウンドで調達した資金の総額は17億ドル(約1,968億円)で、これは2021年にアフリカの全スタートアップが調達した42億ドル(約4,863億円)の40%以上にあたります。

2020年に1億ドルの調達に成功したアフリカのスタートアップはありませんでした。話題になったPaystackとSendwaveの買収劇を除けば、2020年はアフリカに対する投資家の無関心が懸念される年だったのです。パンデミックによる経済の荒廃で欧米の投資家が撤退し、万が一に備えた資金をリスクの低い先進国市場に集中させるのではないかと不安視されていました。

しかし、2021年のアフリカのメガラウンド・ラッシュはこうした懸念が杞憂に終わったことを示しています。それどころか、新旧の投資家が過去最大の賭けに出た年となったのです。

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ONE 📺 THING

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米国市場が飽和状態になりつつあるなか、ストリーミング配信各社は、加入者および提供コンテンツを増やすべく、世界中に目を向けています。10億人以上の人口を抱え、インターネット普及率が向上しているアフリカに目を向けるのは当然です。

王者Netflixから地元の雄Showmax(南アフリカ)まで、アフリカでは大小の配信企業が市場争いをしています。コンテンツづくりに関して言えば、地元企業は別として、Netflixに一日の長あり、といった観。昨年、Netflixはいくつものアフリカオリジナル番組を制作しています(ナイジェリア「King of Boys: The Return of the King」、南アフリカ「Queen Sono」「Blood and Water」)。

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かたやAmazon Prime Videoは昨年、ナイジェリアの制作会社Inkblotとパートナーシップを組みました。いわゆる「ノリウッド」の名で知られるナイジェリア映画産業の第一人者との契約の一環として、Amazon Prime Videoは、劇場公開後の同スタジオの作品を世界中で独占的に上映する権利を得ています。


💌 今週の「Weekly Africa」は、翻訳・川鍋明日香、編集・年吉聡太でお届けしています。トップストーリーはQuartz AfricaのコントリビューターCiku Kimeriaによる2021年6月のものです。


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