Obsessions:人事評価の理想と現実

Obsessions:人事評価の理想と現実
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もし、あなたの会社が従業員を年1回の業績評価でフィードバックするだけなら、それは間違ったやり方だといわざるをえません。そんなやり方が「あまりに偏った評価しかできない」と不評を買うようになってもう何年も経っており──、従業員の業績やゴールをより生産的に評価するための方法が、まさにいま再考、改訂、刷新されています。

パフォーマンスレビュー人事考課、あるいは人事評価)につきまとう最大の問題は、それがあまりにも主観的なものであることにあります。つまり、評価者の固定観念や偏見に大きく影響されてきました。

一方で、外的要因も影響します。例えば「近接バイアス」。従業員がオフィスでの業務に戻りつつあるなかで、上司と直接会っている従業員は、遠隔地にいる同僚に比べ好意的な評価を受ける可能性が高くなる傾向があるといいます。

人事評価とは本来、雇用主が進捗状況を評価し、従業員が自分の希望を共有するための足がかりとなるべくして行われます。ただし、企業はもっとうまくやれるはず。今日のニュースレターで“評価”してみましょう。


DEPARTMENT OF JARGON

用語解説

  • フォースド・ディストリビューションForced distribution】 従業員のパフォーマンスを決められた分布通りに評価するプロセス
  • クラウドソース・レビューCrowdsourced reviews】 不特定多数の評価者によるレビュー
  • 360360】 上記のクラウドソース・レビューに、部下や同僚からの意見を取り入れたプロセス
  • 徹底した率直さRadical candor】 相手のことを思いやりつつ、遠慮せずに問題点などを伝えること
  • 経験バイアスExperience bias】 過去に自分が解釈したモノコトが、すべて客観的にみても真実だと信じる(誤った)傾向
  • SMARTゴールSMART goals】 目標設定のための一般的なフレームワークを指す。Specific(具体性)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Realistic(関連性)、Time-Bound(起源)の頭文字をとったもの

ORIGIN STORY

軍隊から始まった

Image: Giphy

いまわたしたちがよく知る人事評価の歴史は、第二次世界大戦まで遡ることができます。当時、アメリカ陸軍が将来性のある兵士をランク付けしていたことにヒントを得て、管理職が給与に関して正当な判断を下せるように、企業が職場に構造化された評価システムを採用したのです。

やがて雇用主たちは、給与だけが従業員のパフォーマンスを上げる動機となる要因ではないと気づきます。説明責任と成長を重視した評価制度が世界中の企業で定着するまでに、そう時間はかかりませんでした。

ある時期の人事評価は、会社の財務状況が悪化しても成長支援に重点を置くかどうか、一進一退を繰り返していました。2010年代初頭には、テック企業を皮切りに、人事評価は新しいアプローチに取って代わられ始めます。プロジェクトや具体的な目標に紐付いた、より定期的な対話などの手法が用いられるようになったのです。ある調査によると、2016年には企業の82%が年次レビューを採用していたのに対し、現在ではわずか54%の企業が採用しているに留まっています。


BRIEF HISTORY

「レビュー」小史

1980s:ジャック・ウェルチがGE(ゼネラル・エレクトリック)で「forced ranking(強制ランク付け)」を導入し、企業業績評価のスタンダードを確立する(ただし、のちに問題視されることに)

2012:アドビが年次評価制度を廃止。定期的な人事評価を導入するテック企業の先駆けのひとつに

2012:『New York Times』のレストラン評論家が皮肉に満ちた疑問文だらけの衝撃的な“レビュー”を発表し瞬く間にバズる。レビューは料理タレントのガイ・フィエリがタイムズスクエアにオープンしたレストランについてのもの

2015:同じく『New York Times』の暴露記事によって、アマゾンでは従業員に対し、同僚に関する内通めいた「フィードバック」を送るよう促していることが明らかに

2019:フェイスブックは、社会的な評判を取り戻そうと、人事評価で策定されるボーナスが、従業員の「社会貢献活動」への取り組みによって決定されるようになると発表

2021:プロジェクト管理ソフトウェア企業のBasecampでは、360度評価が取り止めに。この年、同社のプラットフォーム上での社会的・政治的な意見を表明することを禁止していた


CHARTED

台頭する中間管理職

A line graph showing the increase of middle managers from 2015 to 2020, with a slight dip from 2019 to 2020, most likely related to the covid pandemic.

米国企業では中間管理職が増え、評価とフィードバックに費やす時間が右肩上がりを続けています。一方で、お互いを評価し合うプロセスに時間を費やすことを厭う人たちも増えています。縛られることを嫌う管理職や従業員の多くが、既存の評価プロセスを変えるよう求めて始めています。


THE WAY WE ☑️ NOW

人事評価のない世界へ

Image: Giphy

2020年、COVID-19によるロックダウンの最中、人事評価を中止/延期した米国企業はわずか5%でした(マッキンゼーの調査による)。また、パンデミックによって生じた課題を反映させるために評価内容を調整したと答えた企業数は、全体の約3分の1に留まりました

雇用者レビューサイト(なんともメタな!)のエコノミストであるローレン・トーマスは、次のように指摘します。「人事評価について多くの従業員が感じているのは、正式なプロセスや正確さがないこと、あるいは受け取った評価に建設的な批判が含まれていないという不満です。新型コロナの感染が拡大して以降、その感情はさらにネガティブになりました。そして、おそらく職場管理に対する満足度の全体的な低下をも反映しているでしょう」

年1回の人事評価をなくしてしまうと、気の利かない管理職が野放しになってしまうと危惧する人事担当者もいます。ただし、この心配は、あくまで「人事担当者」の都合に過ぎないと、Peter CappelliとAnna Tavisは『Harvard Business Review』に書いています

とはいえ、多少は共感もします。従業員と雇用者の目標を一致させ、業績に報い、業績不振者を法的に正当な方法で管理する方法を考えようとするとき、「構造化された年次レビュー」がないとかなり厄介なことになるでしょうから。


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