オート三輪のライドヘイリング(配車サービス)から電動バイクの生産、自動車販売、食料品の宅配、金融サービスまで、インドの「オラ(Ola)」(ANI Technologies)はあらゆることに挑戦しようとしています。地場のスタートアップだったオラは配車サービスでインド国内最大手に登り詰めましたが、新型コロナウイルスのパンデミックが起きてからは減速を余儀なくされています。
2020年4月には、インド全国でロックダウンが始まったために配車サービスの提供を停止せざるを得ませんでした。ロックダウンが解除された後も在宅勤務を続ける企業が多く、イベントや多人数での会食は禁止されたままで、需要は1年後の2021年3月時点でもコロナ前の水準の70%にとどまっています。
主力のライドヘイリング事業が落ち込んだことで、Olaの少数株を保有する米国の資産運用会社バンガード・グループ(Vanguard Group)は、同社の評価額を2019年の65億ドル(7,402億円)から半分以下に引き下げました。そして、需要がようやく持ち直しつつあった2021年4〜5月には、感染拡大の第2波がインドを襲ったのです。オミクロン株による感染者の急増で再びロックダウンになれば、配車サービスからの収入は間違いなく落ち込むでしょう。
ただ、Olaは配車プラットフォームだけに依存しているわけではなく、将来的にはインド最大の電気自動車(EV)メーカーになるという目標を打ち出しています。
2017年5月にはEVと電動オート三輪合わせて200台を投入し、配車アプリで「EVでの大移動」というプロジェクトを始めたほか、充電インフラの構築にも取り組んできました。2019年3月にはこのプロジェクトをスピンオフして、オラ・エレクトリック・モビリティ(Ola Electric Mobility)という会社を立ち上げました。この会社はわずか4カ月後には10億ドル(1,139億円)の評価を受けています(現在の評価額は30億ドル(3,416億円)に上ります)。
Olaはオラ・エレクトリック・モビリティのような成功を目指して、金融サービス、自動車販売、食料品の宅配などさまざまな事業に手を伸ばしており、グループ全体の業績も黒地回復をしているようです。最高経営責任者(CEO)のバービッシュ・アガルワル(Bhavish Aggarwal)は昨年9月、配車事業の流通総額(GMV)がコロナ前の水準を上回ったとツイートしました(ただ、ここで示されたグラフにはY軸の数値がなく、信憑性を疑問視する声もあります)。また、2021年3月通期は前期比65%の減収となったものの、積極的なコスト削減と人員整理が奏功し、初の営業黒字を達成しています。すべてがうまくいけば、オラは以前から計画していた新規株式公開(IPO)を今年はじめにも実施する予定です。
BY THE DIGITS
数字でみる
- 1億人:自動車、オート三輪、二輪車を合わせた配車サービスの利用者数
- 10億ドル(1,139億円):IPOでの調達額の目標
- 80億ドル(9,110億円):IPOでの評価額の目標
- 150%:コロナ前と比べたオート三輪事業の成長率。オート三輪にはドアがなく車体側面が開放された構造であるため、感染という観点からは自動車より安全だと考えられている
- 3,000体:オラの電動バイクの製造および修理に使われているロボットの数
- 1万人:中古車販売事業で新規採用を予定する人数
- 3,079人と2,661人:Olaのドライバーで、ラメシュ(Ramesh)とスレシュ(Suresh)という名前の人の数。ラメシュとスレシュは2016年のドライバーの名前ランキングのトップ2だった
- 52%:2020年11月時点でのインドの配車アプリ市場におけるOlaのシェア
IPO ON THE WAY
上場に向けた準備
Olaは2010年の設立ですが、何年も前からIPOを計画してきました。2016年に初めて上場する方針を示した後、2018年7月に向こう3〜4年でIPOを行うと発表。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックが始まる前の2019年11月には、2021年3月に株式公開すると宣言しています。
昨年8月の報道によれば、彼らは2022年始めの上場を予定しており、10億ドルを調達したい考えです。昨年末にはCEOのアガルワルもこれを認めています。
オラはIPOに先立って経営陣の刷新を進めているようで、ロイター通信が入手した内部メモによれば、最高財務責任者(CFO)のスワヤム・ソーラブ(Swayam Saurabh)と最高執行責任者(COO)のゴーラブ・ポーワルが離職することが決まっています。また、子会社のオラ・ファイナンシャル・サービシズ(Ola Financial Services)、オラ・カーズ(Ola Cars)、オラ・エレクトリックで新しい経営トップが任命されました。
ただ、IPOの前に達成しなければならない課題がひとつあります。それは電動バイクの量産です。
SCOOT OVER
電動バイクで世界へ
Olaの電動バイクは昨年7月に事前予約の受付が始まり、24時間で10万人が499ルピー(約620円)の予約金を払って購入を申し込むという人気を見せつけました。インドの独立記念日に当たる8月15日にはスペックなど全貌が明らかになり、9月の発売日には12時間で8万台を売り上げています。
ただ、当初は10月が予定されていた納品スケジュールには遅れが生じ、初出荷は最終的に12月15日にずれ込みました。それでも年末には販売分はすべて納品が済んでおり、CEOのアガルワルは今年の早い段階で米国への輸出も始めると述べています。そのためには製品の改良が必要になるかもしれません。購入者の一部は、外装の破損や充電スタンドの設置の遅れ、保険の契約内容といったことについて文句を言っているようです。
EV-ERYTHING OLA NEEDS
EVを巡るインドの現状
- インドでのEVの普及を後押しする要素のひとつに、ガソリンが過去最高水準に値上がりしていることがあります。現状では最も燃費のいい二輪車でも100kmを走るのには100ルピー(約150円)かかりますが、電動スクーターであれば同じ距離を走るための充電費用は6分の1で済むのです。こうした状況を受け、ヒーロー・モトコープ(Hero MotoCorp)のようなスタートアップからホンダ(Honda Motor)をはじめとする大手まで、各社がインドのEV市場に参入しています。
- EVの普及を妨げるのは公共の充電インフラの不足とある種のNIMBY(Not In My Back Yard、家のそばではお断り)主義です。民間主導の充電スタンドの設置が拒否されることも多く、電動スクーターを所有するベンガルール(Bengaluru)在住のある男性は、自分が住んでいるマンションの管理組合が駐車場に充電スタンドを設置するのに反対したために、キッチンで充電していると話しています。
- EV普及の鍵となるのは製品価格でしょう。オラの電動スクーターは10万ルピー(15万4,000円)ですが、インド人の平均年収は1,990ドル(22万7,000円)にすぎません。世界資源研究所(World Resources Institute)のインド支部で統合都市交通部門のディレクターを務めるアミット・バット(Amit Bhatt)は、「電動車両の運用コストが低いことはよく知られていますが、同時に初期費用の高さも周知の事実です」と言います。「革新的な財務モデルを導入して初期費用を下げれば、業界に大きな変革が起きるかもしれません」
EVS ARE JUST THE BEGINNING
Olaの拡がる可能性
Olaは電動スクーター以外にも事業の多角化を進めています。注目の取り組みをご紹介しましょう。
- 🚗 中古車の販売プラットフォームの「Ola Cars(オラ・カーズ)」では、ディーラーではなくアプリを使って自動車を購入できます。立ち上げから1カ月で5,000台が売れており、将来的には新車も取り扱う計画です。オラはインドで人々の日常生活により深く浸透していくために、モビリティサービスの開発に力を注いでいます。
- 🛒 Olaは「クイックコマース(quick commerce)」と呼ばれる分単位の即配サービスに参入する方針です。ベンガルールではビッグバスケット(BigBasket)やネイチャーズ・バスケット(Nature’s Basket)といった企業が15分以内に食料品を配達するサービスを試験的に提供しています。オラが食品や雑貨の宅配に挑むのは実は2回目で、2015年7月にオラ・ストア(Ola Store)として始めた宅配事業は、需要と利益率の低さのために1年足らずでサービスを終了しました。
- 🥡 食べ物と言えばフードデリバリーも行っており、自社運営のクラウドキッチンもあります。
- 💸 Olaは2015年、「Paytm(ペイティーエム)」のような決済サービスに対抗するためにウォレットアプリの提供を始めており、今後も金融サービスを拡充させていく計画です。
A PRETTY PICTURE
ウーマンパワー
インド南部タミルナドゥ(Tamil Nadu)州にあるオラ・エレクトリックの電動スクーター工場では、エンジニアから生産ラインで働く組立要員、管理職まで、従業員はすべて女性です。スタッフの数は将来的には1万人を超える見通しで、フル稼働後の生産台数は1日1,000台(なんと2秒で1台!)、年間では1,000万台を予定します。
ONE 🛵 THING
最後に…クイズです
2010年の創業当初、Olaはどの都市を拠点にしていたでしょう。
- ベンガルール
- ムンバイ
- ハイデラバード
- デリー
正解はムンバイです。オラの最初のオフィスはムンバイのアパートの一室で、アガルワルが登録ドライバーの写真を撮ったり利用者からの問合せに応対する隣で、共同創業者のアンキット・バティ(Ankit Bhati)が黙々とコードを書いていたそうです。オラはその後、インドのシリコンバレーと言われるベンガルールに拠点を移しています。ベンガルールには投資家やテック関連の人材が多く集まっているだけでなく、オフィスの賃料もムンバイより安かったためです。
今日の「The Company」ニュースレターは、インドのレポーターAnanya Bhattacharyaがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。
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