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ネットゼロエミッションはどうすれば達成できるのか──。この問いに解を導き出せるか次第で、世界経済の次の100年が決まると言ってもいいでしょう。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、脱炭素化を実現し、地球の気候を安全な軌道に乗せるには、2050年までに少なくとも年間1.6兆ドル(約170兆円)の投資が必要だとされています(リンク先PDF)。
人類はいま、その約2割をエネルギー部門にのみ投資しています。しかし、再設計されるべきは、農業から輸送、建設にいたるまで、地球規模のシステムのほぼすべての業界におよびます。「Climate Economy」(気候にまつわる経済)は、いまを生きるわれわれの時代における最大の課題であり、チャンスでもあるのです。
新しいニュースレターシリーズ「Climate Economy」では、この分野を定点観測。チャートや数字で読み解くほか、気候変動テックスタートアップを取り巻く投資の動きや、用語解説やこれからのビジネスを見通すためのインサイトをお届けしていきます。
Brief History
ことば:気候変動テック
実際のところ、地球温暖化は毎年、過去最高気温を更新しています。そして、その原因は人間の産業活動によるGHG排出です。そして、ネットゼロエミッション、つまり温室効果ガス(GHG)の排出量を「実質ゼロ」にするための解決策のひとつが、climate tech(気候変動テック)です。
気候変動テックには、太陽光や風力、バイオ燃料といった再生可能エネルギー技術もあれば、エネルギー最適化ソリューションには、スマートメーターなどのハードウェアを活用するものもあれば、ソフトウェアでのアプローチもあります。家畜に頼らず代替肉を生み出すテクノロジーは従来の畜産によって生じるGHGを削減できるし、多様なアグリテックは食糧生産のプロセスの効率化を進めています。CO2を化学物質や燃料に変換するほか、大気中のCO2を除去するだけでなく、コンクリートに混ぜて強度を高めようというスタートアップも存在しています。
⏬ 大気中のCO2捕集:カーボンエンジニアリング(Carbon Engineering)、グローバルサーモスタット(Global Thermostat)、クライムワークス(Climeworks)、ヴァードックス(Verdox)、モザイクマテリアルズ(Mosaic Materials)
🔄 廃棄物フロー:オーパス12(Opus12)
💰 製品化:カーボンキュア(CarbonCure)、ソリディア(Solidia)
🌏 ジオエンジニアリング:プロジェクトヴェスタ(Project Vesta)、オーシャンベース・クライメイトソリューションズ(Ocean-Based Climate Solutions)
Pro VS. Con
コロナが進めた時計の針
COVID-19は地球環境にも大きな影響を与えています。ロックダウンや渡航制限によって企業の活動が減り、ヒトやモノの移動が減りました。結果として、GHG排出量の減少が確認されています。しかし、一方で感染対策として用いられる個人用防護具(PPE)や注射器などのプラスチック製品は「使い捨て」が基本。プラスチック消費量の増加ならびにリサイクル率の低下は、環境負荷の点で見過ごせない数字を記録しています。
パンデミックを経て、人びとの環境保護意識は高まっています。一方、パンデミックで気候変動テック企業に起きた変化を少しみてみましょう。
🙂 LanzaTech:微生物を利用したガス発酵でエタノールを生成する米国のバイオテック企業のLanzaTech(ランザテック)のエタノールは、米ジョージア州全域で消毒用に使用された
😇 Bboxx:アフリカを中心とする地域に電力を供給する英国のBboxxは、コロナ期間中、太陽光発電システムの支払いプランを変更し、支払い困難な家庭をサポート。短期間、無料での電力供給も
😫 Hydroster:カナダに拠点をおくHydroster(ハイドロスター)は、空気を圧縮してエネルギーを貯蔵する技術を商用化しているスタートアップ。パンデミック中の混乱を背景に、オーストラリアでの同貯蔵施設の建設計画を断念
😢 Oxford PV:オクスフォード大学からスピンアウトした太陽光発電のOxford PVは、コロナ関連規制による機器出荷の遅れから、生産スタートが1年延期されたことを発表
Charting total funding for LDES
チャートでみる
太陽光や風力などによる再生可能エネルギー網が拡がる一方で欠かせないのが、長期間かつ大容量のエネルギー貯蔵テクノロジーです。近年とくに投資が集まっている「長期エネルギー貯蔵(LDES: Long duration energy storage)」は、ひと言で言えば「一度に10時間以上のエネルギーを貯蔵できるシステム」のこと。2021年、LDESを担うスタートアップは10億ドルを超える資金を調達していますが、この流れは2022年も続くと予想されます。
LDESの分野で最右翼にいるのが、フォーム・エナジー(Form Energy)。テスラ元幹部のマテオ・ジャラミ(Mateo Jaramillo)とMIT教授イェット-ミン・チェン(Yet-Ming Chiang)らが2017年に創業したFormは昨年7月、100時間の電力供給を可能にする鉄空気電池を発表。従来のリチウムイオン電池の10分の1のコストを実現する新しいテクノロジーを背景に、同社はシリーズDで2億4,000万ドルを調達し、商業化に向けた動きをスタートさせています。
その他のプレイヤーとして、EOS Energy Storage、Energy Vault、Ambriなどが2021年に1億ドル以上を調達しています。
DEALMAKERS
今週のディール
- Soelectが1,100万ドルを調達、EV向けの次世代バッテリー技術の拡張に。次世代バッテリー技術のスタートアップSoelect(ソエレクト)は、2018年創業。ロッテケミカルが主導するラウンドにはKTB Networkが参加したほか、ゼネラルモーターズのCV部門であるGM Venturesも加わっています。
- Marvel Fusionは3,500万ユーロを調達し、核融合エネルギーを推進する。ドイツの核融合エネルギースタートアップであるMarvel Fusion(マーベル・フュージョン)は、2019年創業。これまでにもシーメンス・エナジーやトルンプフなどと共同研究を行っています。
- スマートタグで家畜を管理するProTagが67万ドルを調達。ニュージーランドのスタートアップProTag(プロタグ)は、牛の耳に取り付けたセンサーを用い、機械学習やGPSを用いて牛の健康状態や行動パターンを監視するテクノロジーを提供しています。今回の調達は、製品開発と実証実験に充てられます。
💎 ニュースレター「Climate Economy」は、毎週月曜日に配信します。次週は、最新ニュースのほか、気候変動に取り組む先端企業のCSO(チーフサステイナビリティオフィサー)のインタビューもお届けする予定です。
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