2月第2週の気候変動ニュースレター。今週は、シティグループのCSO(チーフ・サステイナビリティ・オフィサー)へのインタビュー/チャートでみる「石油メジャー vs. 新エネルギー」/注目の人、インドの大富豪/北京五輪のアイススケートリンクをお送りします。
化石燃料会社が気候変動に対して大きな責任を負っているのは確かですが、彼らの仕事(そしてそれによる炭素排出)は、彼らにお金を貸している銀行なしには成り立たないのもまた事実。昨年11月に開催されたCOP26では、金融機関数十社がそのポートフォリオの長期的脱炭素化を約束しました。
しかし、いまのところ、2020年だけをみても融資は増加しており(リンク先PDF)、その規模は実に5,750億ドルに及びます。
環境団体Rainforest Action Networkの調査によると、そのトップパフォーマーのひとつがシティグループ(Citigroup)で、2016〜20年の同社の化石燃料企業への融資/引き受けは少なくとも2,370億ドルと目されています。
今年1月19日、シティグループのCEOであるジェーン・フレイザーは、2050年までにネットゼロエミッション(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するという新戦略を発表しました。その内容は、他の大手銀行よりも積極的なもので、エネルギー分野について、「投融資に係る温室効果ガス排出量(financed emissions)」を2030年までに29%削減する目標を掲げています(他の金融機関は、シティグループのように「総量」ではなく、生産量当たりの排出量を示す「原単位」を目標として設定しており、アクティヴィストの間では批判的な見方もある)。フレイザーは、クライアント企業に対して、この条件に満たない場合、融資を打ち切る可能性も否定していません。
炭素集約型産業(石油・石炭製品や鉄鋼、パルプ・紙など)のクライアントに深くコミットし、よりクリーンな収益手法への移行を担う──といえば、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)のCEO、ラリー・フィンクの今年初頭のメッセージも記憶に新しいですが、シティグループも同じ道を選ぼうとしているようです。
シティグループはどんな戦略を描いているのか? QuartzではCSO(チーフ・サステイナビリティ・オフィサー)のヴァレリー・スミスを直撃しました。
※ この続き、CSOのインタビュー本文はニュースレター最後に掲載しています。スクロールしてチェックしてみてください。
Charting clean energy stocks
チャートでみる
現在、世界では商品価格の多くが高騰しています。これにより、化石燃料企業に勝利が、一方の自然エネルギーには大きな後退がもたらされているようです。
ここ数カ月、石油・ガス会社の株価は、原油価格の高騰をはじめとする要因によって上昇しています。一方、再生可能エネルギー企業は、原材料のコスト高と国際輸送の長期的な遅延に足を引っ張られています。
11月初旬と比較して、シェルやBP、エクソン、シェブロン、トタルなどの石油・ガスメジャーの株価は平均で17%上昇しました。一方、ファーストソーラー(First Solar)、シーメンス・ガメサ(Siemens Gamesa)、ヴェスタス(Vestas)など太陽光・風力発電のトップ企業の株価は25%近く下落しました。
自然エネルギー企業にとって最大の問題は、風力タービンの製造コストの70%を占める鉄鋼の価格で、パンデミック前に比べて2倍近い高値がついています。さらに出荷の遅れや輸送費の高騰、さらに新型コロナによる工期の遅延によって、計画されていたプロジェクトの納入が阻まれているとのこと。
もっとも、これは自然エネルギーにとって「死刑宣告」というわけではありません。先月も、モルガン・スタンレーのあるアナリストは、いまこそ自然エネルギー企業の株を買う良い時期だと述べています(「クリーンエネルギーへの世界的な移行が加速する中、今後上昇する可能性は高い」)。
Person in interest
注目の人物
インドの石炭王ゴータム・アダニ(Gautam Adani)が、リライアンス・インダストリーズのムケシュ・アンバニ(Mukesh Ambani)を退け、「アジアで最も裕福な人物」となりました。
アダニ・グループを率いる会長兼創業者アダニの推定資産額は約885億ドル。Bloomberg Billionaires Indexによる「世界で最も裕福な10人」の仲間入りを果たしたことになります。テック系起業家が名を連ねるなか、アダニは唯一の実業家です。
アダニ・グループの事業は、石炭生産、火力発電、インフラストラクチャーなど。インド最大の民間港湾事業者であり、空港事業も拡大しています。アダニがその富をさらに拡大したのは、再生可能エネルギー分野への投資攻勢によるもので、パンデミックの発生以来、アダニの純資産は着実に増加しています。
アダニは、今後10年間で「世界最大の再生可能エネルギー生産者」になることを目指し、新エネルギー分野全体で700億ドルの投資を計画しています。
using natural refrigerants
北京の氷はエコ
北京で競技に挑むスケーターやカーリング選手が、五輪史上初めて経験しているもの。それが、「自然冷媒」を使用したリンクの氷です。北京オリンピックでは、9つのアイスリンクのうち5つのリンクで、冷媒としてCO2が使用されています。
国際オリンピック委員会(IOC)によると、今大会で導入されている自然冷媒システムによって約2万6,000万トンの温室効果ガス(GHG)排出が削減できるようで、これは自動車3,900台が1年間に排出する量に相当します。
一般的な家庭用冷蔵庫やエアコンは、冷媒として「Fガス(フッ化ガス)」を使用しています。Fガスにはハイドロフルオロカーボン(HFC)などが含まれていますが、いずれも強力なGHG。CO2の地球温暖化係数(GWP)は〈1〉なのに対し、例えば、エアコンの冷媒で最も多く使われている「HCFC-22」のGWPは〈1,810〉です。半導体産業の洗浄や超低温冷凍機などに使われる「HFC-23」に至っては、GWPが〈1万4,800〉にもなります。
世界が温暖化の一途をたどるなか、当然エアコンの使用量は増えると予想されます(米国エネルギー情報局(EIA)は2050年までに世界のエアコン在庫は現在の3倍の56億台になると予測)。自然冷媒への移行を進めなければ、2030年にはGHGの13%をFガスが占めるようになり(現在2.1%)、「部屋を冷やして地球を暑くする」事態に陥る可能性があるともいわれています。
Interview with CSO of Citi
CSOに訊いてみた
今月2日、QuartzではシティグループのCSOであるヴァレリー・スミスにインタビューする機会を得ました。同行の「ネットゼロ」へのコミットはどんなプロセスで決まっていったのでしょうか。
──まず、CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)の仕事について説明してください。
シティグループでは2019年にCSO職を設けました。レポートラインとしては、広報のグローバル責任者に報告するかたちです。わたしたちはチームで、サステナビリティ戦略を立て、事業を通じて推進することに取り組んでいます。
そのとき欠かせないのは、コーポレート、投資銀行およびリスク部門との密接な連携で、お客様や投資家などステークホルダーと関わることに多くの時間を費やしています。社内だけでなく社外の視点を取り入れて、戦略はじめ実際の取り組みを伝えることは、シティグループにとって本当に重要です。
──社内全員が同じ方向を向いて取り組むのは、ひじょうに難しいのでは? 化石燃料企業に対する貸付業務ひとつとっても、これまでとは異なる優先順位が求められるわけですから。
シティグループは歴史的にみても、こうした分野において、さまざまなパートナーと早い段階から頻繁に関わることができる立場にありました。ESGおよび気候変動は、わたしたちのビジネスや顧客とのエンゲージメント戦略の中心にあります。初期にあった摩擦の多くは解消されていまよ。より迅速に行動し、求めるレベルも高められる段階にあります。
──「総量」を削減目標として設定することになった経緯は?
CEOはその就任初日、シティグループはネットゼロにコミットすると宣言しました(ジェーン・フレイザーは2021年2月にCEOに就任。米金融大手として初の女性CEO誕生となった)。それで、まずはエネルギーと電力のローン・ポートフォリオについて2030年の目標を設定しました。
わたしたちは、気候科学の見地や国際エネルギー機関(IEA)の「ネットゼロ・シナリオ」にのっとる必要性を感じていました。結果として設定した目標は、信頼性が高く、気候科学と整合しており、かつ野心的でもあります。シティグループは各分野のクライアントと深く、長い関係を続けてきましたが、気候科学が排出量についてどんな示唆を与えているかを理解しクライアントの(ネットゼロへの)移行を支援するかたちで、クライアントとより深く関わることができるのです。
──ジェーン・フレイザーは、気候変動目標を発表した際、「最後の手段」ということばを使ってクライアントとの関係を絶つことも視野にあるとしました。何がそうさせるのでしょうか? また、ビジネスプランがIEAのシナリオに沿わないクライアントがいた場合、どの時点でその企業との関係を終わらせるのでしょうか?
2~3年かけてクライアントごとに深く掘り下げたアセスメントを実施したうえで、クライアントそれぞれの移行計画を理解するつもりです。そして、それがシティグループの脱炭素化目標にどう合致するかを見極めたいと考えています。
わたしたちにとって「2030年」という目標は非常に重要ですが、同時にサステイナブルな開発や発展途上国におけるエネルギーへのアクセスなど、他の重要な課題に対して目を向けていないわけではありません。
もちろん、すべてのクライアントがシティグループと歩みをともにできるわけではないでしょう。しかし、この分野におけるシティグループのポジショニングを考えると、クライアントがいま置かれている地点でお会いし、その歩みを加速させるお手伝いをする必要があるとも考えています。わたしたちの目標は、シティグループの脱炭素化目標を実現にありますが、同時に世界経済全体の脱炭素化を実現することでもあるのです。
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