
2月第3週の気候変動ニュースレター。今週は、米コストコでの株主決議をめぐる動きを、いくつかのチャートとともにお送りします。先週から今週にかけての、気候変動テックをめぐる調達・買収のニュースもお届けします。
業績は好調なコストコ(Costco)ですが、気候変動についてはライバルたちに大きく遅れをとっています。昨年12月にも、S&Pの上位50社のうち、「気候変動への取り組みを行っていない3社」のひとつであると報じられています。
同社の遅れに敏感に反応したのは、投資家たちでした。先月27日に開催された年次総会では、株主の実に70%が、コストコが2050年までにバリューチェーンから温室効果ガス(GHG)排出を削減する戦略を立てるよう要求したのです。
投資家支援の非営利団体であるCeresは、こうしたかたちで「ネットゼロ」に向けた提案が可決されたのは、企業として初めてのことだとしています。
米国では、株主総会において株主提案が過半数の賛成票を獲得したとしても、そこに法的拘束力はありません。しかし、だからといってそれを無視すれば、取締役会は統制を失い、機関投資家の資金援助を失うリスクも生まれます。つまり、企業のアクションを変えるための手段として力をもっていることに変わりはないのです。
今回のコストコのケースが象徴するように、2022年は、気候変動に高い関心を払う「モノ言う株主」にとって歴史的な年になりそうです。いま、株主としての彼らの提案には支持が集まり、着実な勝利を積み重ねようとしているのです。
Charting shareholder resolutions
転換点は2021年
気候変動活動家にとって2021年最大の勝利といえば、石油大手エクソンモービルのケースでしょう。この年の5月、活動家ヘッジファンド「エンジン・ナンバーワン(Engine #1)」が提出した4人の候補のうち3人が、同社の取締役会の席を獲得することに成功しています。
同年、米国企業において、環境問題や社会問題に焦点を当てた株主提案のうち22%が可決されていますが、これは過去最高の数字です(RBC Capital Markets調べ)。

トランプ大統領時代の米国では監視・規制を司る組織が弱体化されたものの、2021年1月に発足したバイデン政権下ではルールメイクが進んでいます。
同年11月には、米証券取引委員会(SEC)の規制当局が、「企業に対して、気候変動に対処するための時間枠や目標を採用するよう求める決議案」を、今後は差し止めることはないと声明を出しています(従来は否決されることも多かった)。この変更は、株主からすれば、より野心的な決議案を提出しやすくなることを意味します。

Bloomberg IntelligenceのシニアESGアナリストであるRob Du Boffは、「2022年には、株主提案件数は大幅に増加するだろう」と語っています。
Another chart
大口投資家は動くか
今後数カ月にわたり、石油メジャーや銀行、テック企業などにおいて、数十の気候変動関連の株主提案が提出される予定です。
これらの大半は、少数の株式しかもっていない活動家グループによるもので、決議に至るには、大口投資家を説得し賛同を得る必要があります。
多くの大企業に対して大株主として票を握っているのは、ブラックロックをはじめとする大手資産運用会社ですが、彼らはESG決議の少なくとも半分に反対票を投じ、他のほとんどの問題では企業経営を支持する票を投じているのが現状です。

Quote
こんな発言も……
「資産運用会社は、気候に関する株主提案に賛成するのが既定路線であるはずだが、いまは真逆になっている。それじゃダメだ。企業は投資家からの声──気候変動対策は単なる『あったらいいもの』ではなく、『なくてはならないもの』だとする声を聞く必要がある」
──Peter Uhlenbruch(英国のESG投資推進NGOのShareActionの金融セクター基準担当ディレクター)
Dealmaker
今週のディール
- 英国の核融合エネルギースタートアップのFirst Light Fusionが、シリーズCで4,500万ドルを調達。核融合エネルギー発電所の商用化に向けた開発に使用される予定です。
- アニマルフリーな乳製品スタートアップChange Foodsが、シードラウンドの追加拡張投資として1,200万ドルを調達。Change Foodsのテクノロジーのカギとなる「精密発酵」は、微生物をつかって動物性タンパク質を量産する技術です。このラウンドには、グーグルのAIリードであるジェフ・ディーンやサッカー英国代表のクリス・スモーリングも参加しています。
- インドア・ファーミング(室内農法)で注目されるBowery Farmingが、イチゴなどの果物を収穫するロボットを開発するアグリスタートアップのTrapticを買収。Bowery Farmingは、都市の食糧不足を解決する垂直農場の旗手として注目を集めています。今回の買収額は明らかにされていません。
- カーボンニュートラルな繊維素材を開発するスタートアップのRubi Laboratoriesが450万ドルを調達。Rubiのテクノロジーは、製造工場から排出される廃棄物から改修したCO2を分解しビスコース糸(レーヨン素材の一種)をつくるもので、その環境負荷が問題視されるファッションアパレル企業からも注目されています。
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