Africa:いまこそ「AI」に足りないもの

Africa:いまこそ「AI」に足りないもの
Cover image for a newsletter on Icog labs in Ethiopia. The text reads, "Robotics' early days in Africa."

「アフリカの今」を伝える週イチのニュースレター「Weekly Africa」を、内容を新たにお届けします。このニュースレターは特別に無料で公開していますが、内容にご興味をおもちいただけたら、ぜひ7日間の無料トライアルで購読してみてください!

※ Weekly Africaは、来週から毎週火曜日の配信となります。

Africa’s AI horizon

アフリカのAI事情

アフリカはいま、人工知能(AI)活用のチャンスで溢れています。ナイジェリアケニアではフィンテックスタートアップが独自のAIモデルを用い、ユーザーごとにカスタマイズされた即日融資を提供しています。南アフリカのAeroboticsは、衛星画像とコンピュータビジョンを組み合わせて樹木作物の生産の効率化を図っています。同じような取り組みにはカメルーンのAgrix Techも挑んでおり、作物の病気を10秒で診断する技術を農家に提供しています。

この波にはGAFAMも注目しています。グーグルは2019年にガーナに新たなAIラボを開設しましたが、これはアフリカが新興テクノロジーの次のフロンティアであるという同社の見方を象徴する出来事でした。同じ年にはマイクロソフトもアフリカでAIセンターを開設しています。

アフリカ大陸の開発目標を加速させ、国際競争力を高めるためには、この地域の企業や政府がAIに注目すべきだというが多くの専門家の意見です。例えば、政府は自然言語処理を利用することで土地固有の言語の教育を推進できるでしょう。黒人の顔を正しく認識できる顔認識技術の開発を進めているCharlette N’Guessanのようなエンジニアは、さらなる支援を受けるべきです。また、アフリカの個人向け保険市場がこれから花咲くかどうかは、保険金の請求を機械学習を使って処理するサービスを提供するナイジェリアのCuracelのようなスタートアップにかかっているのかもしれません。

もうひとつ、アフリカで将来有望なAI関連分野として挙げられるのがロボット工学です。2015年3月、 コンゴ民主共和国の首都キンシャサに身長約2.3mのロボット警察が3台設置されました。コンゴ人エンジニアが設計したこのロボットは、市内の交通整理に一役買っているといいます。また南アフリカやボツワナでは、採掘作業の安全性を高めるためにロボットが使われています。

アフリカではこの10年で、ロボットがすでに低迷している製造業にさらなる打撃を与えるのではないかという懸念も広まりました。その一方、2012年には10ドル(約1,150円)以下でつくれる教育用ロボットのアイデアを募る「$10 Robot Challenge」も開催されています。その目的は、学校や教育機関で教材として使える低価格なロボットを考案してもらい、アフリカのロボット教育を充実させることでした。

いまのところアフリカのロボット市場の規模を推計するデータはありません。国際ロボット連盟(International Federation of Robotics)が毎年発表している業界データでも、アフリカについてはほとんど触れられていないのです。しかし近年、アフリカのスタートアップがこの大陸のロボット工学の力を世界に知らしめようとしています。


CHEAT SHEET

AI事情、虎の巻

💡 どんな可能性が?:アフリカ各都市は交通や医療(ヘルスケア)におけるインフラ上の課題を抱えていますが、ロボットはよりよいソリューションをもたらすでしょう。人間への依存を減らせるので、汚職や不適格な人材配置といった問題も起きにくくなるはずです。

🤔 課題は?:高度なロボティクスを実装するには、同じく高度なハードウェアへの投資や膨大なデータ、長期にわたって訓練された専門的な人材が必要となります。しかし、残念ながらアフリカではSTEM教育への投資が少なく、正確なデータ収集も難しくなっているうえ、機械部品は中国などに依存しているといった問題を抱えています。

🌍 ロードマップは?:ロボット開発に興味をもつ政府は長期的な視点のもとで人材育成、インターネットやデータストレージといったインフラ整備に巨額の投資をする必要があります。アフリカのロボットビジネスに注目しているベンチャーキャピタルは、彼らがフィンテックに対して行ったのと同様に、この未開拓の分野で活動する起業家の動向を注意深く見守っていかなければなりません。

💰 ステークホルダーは?:2012年、African Robotics Network(AFRON)は米国のIEEE(電気電子学会)の支援のもと「$10 Robot Challenge」を開催しました。その頃から、エチオピアのiCog Labsのような民間企業がアフリカにおけるロボット工学の普及をリードしています。


BY THE DIGITS

数字でみる

  • 300万台:世界の工場で稼働している産業用ロボットの数
  • 160万ドル(約1億8,416万円):アフリカのロボット企業に対する過去最大の投資額(2019年にチュニジアのEnova Roboticsに対して行なわれた投資)
  • 6.2%:アフリカの農業用ロボットおよびメカトロニクス市場の2022年から2027年までの予想成長率
  • 38万4,000台:2020年に世界で出荷された新型ロボットの台数
  • 71%:2020年に出荷された新型ロボットのうち、アジア向けに輸出されたものの割合

THE CASE STUDY

ケーススタディ

企業名:iCog Labs

創業:2013年

本社所在地:アディスアベバ(エチオピア)

創業者:ゲトネット・アセファ(Getnet Aseffa)

最新の評価額:非公開

エチオピアのテック業界の中心地、シーバ・ヴァレー(Sheba Valley)に本社を構えるiCog Labsは、同国のAI人材が注目するスタートアップとしてその名を馳せています。iCog Labsが参加したプロジェクトのなかで最も有名なのは、人型AIロボットの「ソフィア」の開発でしょう。しかし、同社はこの歴史的なプロジェクトの一員で終わる気はありません。

Getnet Assefa, Founder, iCog Labs and a Quartz Africa Innovator 2019, with humanoid robot Sophia at the Ethiopian National Museum in Addis Ababa.
Image: AP Photo/Elias Meseret

「iCog Labsのビジョンは、高度なコグニティブ(認知)ブレイン・システムを開発し、あらゆる知性を模倣することにあります」と、同社の創業者で最高経営責任者(CEO)のゲトネット・アセファはわたしたちに語っています。

iCog Labsは現在、人間や動物、植物がもっている認知機能をAIで再現する研究などを行っています。同社では企業向けのアルゴリズム開発も行なっており、ソフィアの開発者のひとりであるデイビット・ハンソンらが設立したAIマーケットプレイス「SingularityNET」もそのクライアントの一社です。これに加え、iCog Labsは将来的に独自のハードウェアの開発も目指しているということです。

いまのところ、iCog Labsのビジネスはほぼ自己資金で成り立っています。2013年の創業当初に5万ドル(約575万円)の出資を受けたきり、iCogは外部から資金を一切調達できていないのです(ただし2018年に20万ドル[約2,302万円]の助成金を受領)。これは、同社の努力不足によるものではありません。エチオピアのテック・エコシステムはナイジェリアやケニア、南アフリカと違って資金に乏しく、特にAIのようなニッチな産業のスタートアップは特に困難な状況に陥っています。さらにiCog Labsは人材の確保にも苦労しており、パンデミックにあたっては同社のプログラマーの75%が米国やカナダ、ヨーロッパに流れました。

しかし、それでもiCog Labsは歩みを止めません。「機械的な仕事も知的な仕事も、すべてロボットに取って代わられるでしょう」と、アセファは断言します。ヘルスケアや製造業、農業といった分野におけるアフリカの問題を解決することをモチベーションに、iCogは1兆ドル規模になると予測されるAI市場で0.001%のシェアをとることを狙っています。


IN CONVERSATION WITH

キーパーソンの発言集

A stylized image of Getnet Assefa

コンピューターサイエンティストのゲトネット・アセファGetnet Aseffa)は、2013年に4人のプログラマーと共にiCog Labsを立ち上げて以来、長い道のりを歩んできました。アセファとのインタビューの内容の一部を紹介します。

  • 💰 資金調達について:「資金へのアクセスのしづらさは、この国が抱える最大の問題のひとつです。融資やシード資金を得られないのですから。国からの支援制度はありますが、iCog Labsのようなコンセプトは考慮されないうえ、ほとんどが中小企業向けです」
  • 🙃 規制について:「概して政策面は非常に遅れています。規制によってイノベーションが阻害されているわけではありませんが、支援もしていません」
  • 🤖 AI人材に関する格差について:「エチオピアの大学には人工知能の学位やAI人材を育成するコースがありません。iCog Labsの社員は全員が社内で教育を受けているので、転職の際には課題になります。しかし、AIに関するスキルには高い需要があり、社員たちは転職先で私の3倍近い給料をもらえるので転職していくのです」

AI STARTUPS TO WATCH

こんなスタートアップも

チュニジアのロボット企業であるEnovaは、2018年にチュニスの投資会社であるCapsa Capitalから160万ドル(約1億8,405万円)の資金を調達しました。創業者であるアニス・サーバニ(Anis Sahbani)がロボットの設計と製造を行う企業として同社を興してから4年後のことです。Enovaは現在、フランスでも事業を展開しています。

モロッコのAtlan Spaceは、Maroc Numeric Fundが主導するラウンドで2020年に100万ドル(約1億1,504万円)を調達しました。Atlan Spaceは自律型ドローンを動かすためのソフトウェアの構築を専門としており、同社の技術は違法漁業の警備などに使われています。


🎵 今週の「Weekly Africa」は、Fally Ipupa(コンゴ民主共和国) feat. Olivia(米国)による「Chaise Electrique」を聴きながらお届け。翻訳・川鍋明日香、編集・年吉聡太でお送りしました。


One 🛎️ thing

ちなみに……

Image for article titled Africa:いまこそ「AI」に足りないもの
Image: REUTERS/Sumaya Hisham

南アフリカ・ヨハネスブルグのホテル・スカイは、2020年にロボットを「スタッフ」として導入宿泊客の荷物を引き取ったりルームサービスを提供したりするアフリカ初のホテルとなりました。マネジングディレクターのポール・ケリーは、ロボットが人に取って代わることはないものの、「今後、ホスピタリティは、そういったかたちをとるようになる」と述べています。このロボットは、シンガポールに本社を置くCtrl Roboticsが設計・開発しています。


💎 「Weekly Africa」は、アフリカの地で新たな産業が生まれる瞬間を定点観測するニュースレターです。次回からは毎週火曜に配信します。3月1日(火)にお会いしましょう!

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