3月第1週の気候変動ニュースレター。今週は、フォードの電気自動車(EV)への新戦略をお伝えします。その他、ロシアから輸入される天然ガスに依存するEUの「代替案」のほか、先月末に発表されたIPCCの新しい報告書が伝えるポイントを紹介します。
フォードは2日、電気自動車(EV)の量産を加速させるべく、EV部門を独立させ、従来の自動車部門と別事業として分離することを発表しました。
この再編により、両事業は同じフォード傘下で運営されるものの、個別に業績報告することになります。フォード・ブルー(Ford Blue)がガソリン車に特化する一方で、フォード・モデルe(Ford Model e)と呼ばれる部門はEVに特化することになります。
フォードのCEOであるジム・ファーレイ(Jim Farley)はかつて、EV部門のスピンオフを伝える報道を否定していました。しかしこの日の彼は、「お互いに補完し合う独立した事業を立ち上げることで、スタートアップのスピードとイノベーションを実現する」と述べています。
2020年10月にフォードのCEOに就任したファーレイは、同社をEV業界の主要プレイヤーに育てることをそのメインテーマとして掲げてきました。フォードは昨年11月、EV生産能力を2023年までに60万台に引き上げる計画を発表し、「テスラに次ぐ米国第2位のEVメーカー」になると宣言しています。そしていま、同社は2026年までには200万台のEV生産が可能だと考えています。
ちなみに同じ日、EV投資の加速を発表していたゼネラルモーターズ(GM)は、所有していたEVスタートアップ、ローズタウンモーターズ(Lordstown Motors)の株式を売却することを発表しています。
By the Digit
数字でみる
- 150%:ファーレイのCEO就任以降のフォードの株価上昇率。2日の「再編」を伝える報道後には5%以上上昇した
- 500億ドル:フォードが新体制の下でEV戦略に投じる資金
- 1万ドル:ライバルであるGMが昨年10月に投入したEVの新モデルは、テスラ「モデル3」より1万ドル安い
- 3番目:2021年、フォードの「マッハE」の販売台数は、EVとしてテスラ「モデルY」「モデル3」に次ぐ米国第3位に
Person in Interest
重要人物
「勝算はあるのか? 100%ある。われわれは、古いプレイヤーに勝ちたい。新しいプレーヤーにも勝ちたい」
──ジム・ファーレイ(フォードCEO、2日の発表の際のコメント)
2007年にフォードに引き抜かれた際、ジム・ファーレイは米国トヨタで、ゼネラルマネージャーとして同社の高級ブランド「Lexus」(レクサス)の販売、マーケティング、顧客満足を担う重責をこなしてきました。フォード入社後は、新規ビジネスやテクノロジー部門の代表を務めてきましたが(2019〜20年)、21年からはハーレーダビッドソンの取締役にも名を連ね、同社のEVブランド「LiveWire」にもコミットしているとされています。
a few good alternatives
ロシアの代わりに
経済制裁が発動され、エネルギー企業の多くがロシアの石油・天然ガス生産者との関係を断つ一方で、EUは依然として、ロシアからの天然ガス輸入に1日あたり数億ドルを費やし続けています。ロシアから欧州諸国に輸入される天然ガスは、全供給量の約45%を占めており、発電や暖房、工業にとって、変わらず不可欠な存在なのです。
しかし、国際エネルギー機関(IEA)の新しい報告書では、欧州のロシア産天然ガス輸入への依存度を3分の1に減らすための方策が提唱されています。
まずは、ロシアの国営石油会社であるガスプロムとの新規契約をやめること。IEAによると、ガスプロムの欧州向け輸出量の約12%に相当する契約が、2022年末までに期限切れとなる予定です。加えて、代替エネルギー源を確保すること。さらに、企業や政府、個人がビル・工場のエネルギー効率を上げるよう投資すること。最後の手段として、政府が低所得世帯に対するエネルギー料金補助の支出を増やすことが挙げられています。
Today’s Story
よかれと思って……
気候変動の影響は科学者の予想以上に深刻で、世界の政府・企業はいずれも、気候変動に対して十分な対策を行っていない──。これは、2月28日に発表された「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の新しい報告書による現状分析です。
これまでのところ、気候変動に対する世界の対応は、主に「緩和」、つまり温室効果ガス排出を「減らす」ための措置に焦点が当てられてきました。しかし、報告書は、これら緩和策の中には「意図しない結果」をもたらすものもあるとして注意を促しています。
例えば、企業がカーボンオフセットの取得を目的として、森林がなかった土地に植林することで何が起きるのか。そこでは食糧不足・水不足が悪化し、生物多様性が損われ、低所得の農村地域から住民の生きる権利を奪う可能性すら出てきます。山火事を抑制しようと立てられた計画が、その後に起きる火災を拡大してしまう可能性もあれば、防潮堤などの保護施設がむしろ洪水を都市に閉じ込めることにもなるのです(その最も有名な例がハリケーン・カトリーナ後のニューオリンズだった、と言えばよくわかるでしょう)。
こうした事態を避けるために、報告書は政策立案者に対して、大規模な計画を立てる際に経済学者、社会科学者、地球物理学者と協力してリスクを予見するよう求めています。
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