Forecast:次の10年で起きるイノベーション

Forecast:次の10年で起きるイノベーション
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Image: Sophi Gullbrants

日本の皆さんには毎週金曜日にお送りしているニュースレター「Forecast」では、グローバルビジネスの大きな変化を1つずつ解説しています(これまでに配信してきたニュースレターはこちらからまとめてお読みいただけます)。

今週は普段とは少し趣向を変えて、5つのテーマに注目しました。

Quartzは今年9月に10歳の誕生日を迎えますが、これを機に、ウェブでは「The Next Ten Years」という特集をお届けしています。第1章は「Innovation Everywhere」と題して、ディープフェイクロボット工学バーチャルイベント物流フィンテックを取り上げてきました。

特集は、これらの分野が今後10年間でどのように変わっていく可能性があるかをお伝えしようとしていますが、今日はこれら5つのテクノロジーを見ていきましょう。


Deepfakes in your feeds

ディープフェイクの普及

Tom Cruise deep fake conceptual imagery
Image: Photo-illustration by Quartz

TikTokで白いTシャツを着て緑の野球帽を被ったトム・クルーズがギターを弾いているのを見たことはありますか。上半身裸のクルーズが洗面所の鏡の前で話をしたり、白いポロシャツにパナマ帽でゴルフをしている動画もあります。

しかし、クルーズはTikTokユーザーではありません

これらはすべて「ディープフェイク」。コンピューターを使って誰か(TikTokの動画ではマイルズ・フィッシャー[Miles Fisher]です)の顔や声、姿を別人のものに変えてしまった動画なのです。

偽情報やサイバー攻撃がまん延する時代、ディープフェイクのテクノロジーを巡る最大の懸念は、対立を煽るようなプロパガンダの拡散に悪用されることです。誤った抗議デモや暴力につながる可能性もあります。ハーバード大学などの研究者が行ったある調査では、偽の政治スキャンダルについて報じるディープフェイクの動画を見た人の約半分がこれを信じたという結果が出ています。

では、この技術を倫理的に活用することはできるのでしょうか。ディープフェイクであることを明示した上で、暴力や偽情報とは関係のないところで活用していくというのですが……TikTokのクルーズのディープフェイクを作成した企業は、それは可能だと考えています


Robotics rising

ロボット工学の進化

A humanoid robot shakes a human's hand
Image: REUTERS/Hannah McKay

カリフォルニア大学バークレー校のロボット・ラーニング・ラボ(Robot Learning Lab)でディレクターを務めるピーター・アビールPieter Abbeel)はベルギーで育ったのちに、ハリウッドの映画産業に近い場所で仕事をしてきました。そんなアビールにとって、人間の仕事を奪うのではなく、わたしたちを助けてくれるロボットを想像するのは簡単なことでした。

アビールは「振り返ってみれば、ロボットに初めて触れたときにポジティブな関係を築くという体験をしたために、日々の生活をより楽しくするマシンをつくりたいと思うようになったのでしょう。ロボットが人間と共に日常の些細なことをこなしていくというのが、わたしがつくり上げたかった世界なのです」と書いています。

彼は現在、自分がかつて想像していた世界が現実のものになりつつあると強く感じています。僻地への医療用品の配達リサイクルの自動化危険な仕事の処理など、生活を快適にするためにロボット技術が実際に活用されているのです。アビールは、10年以内に職場でも家庭でもスマートマシンが使われるようになると予想しています


Events for everyone, everywhere

ハイブリッドイベント

K-Pop band BTS performs on ABC's "Good Morning America" show in New York in 2019.
Image: REUTERS/Brendan McDermid

ライブイベントに行く価値なんかあるのか?と疑問に思ったことはないでしょうか。チケットを購入して、会場では普段より高い飲食物にお金を払い、苦労して自分の席を見つけたところでステージからあまりに遠くて、結局はすべてを大型モニターで観るはめになったというような経験をしたことは? さらに、この2年、パンデミックによって大人数のイベントは開催されることもありませんでした。

しかし、この措置が解除されたいま、わたしたちはそもそもなぜライブイベントが存在したかを思い出しつつあります。それは集団のエネルギー、そして同じ体験を共有するという魔法のためなのです。

BTS(防弾少年団)のライブイベントなどを手掛けるキスウィー・モバイルKiswe Mobile)の最高経営責任者(CEO)マイク・シェイベル(Mike Schabel)は、「ハイブリッドイベント」という名の下、「参加者が実際に同じ場所にいる、バーチャルで集う、もしくはテレビや劇場で観るといったやり方だけでなく、これらすべてを同時に実現することが可能」だと書いています。ハイブリッドイベントという未来に、大きな期待をもてるというのです。

しかし、シェイベルはリアルイベントのよさも失わないようにしたいと述べています。そして、ハイブリッドのイベントを成功させるためには、「参加者全員のニーズを満たし、世界のどこからでもライブなコミュニティとして参加できるような新しい種類の体験をつくり上げていく」ことが必要だとも。

それを可能にするテクノロジーはまだ完成してはいませんが、現実のものになりつつあることは確かです


Shipping showdown

二大巨頭の物流改革

A man inspects trucks before they enter an Amazon storage facility on the outskirts of Mumbai, India.
Image: REUTERS/Francis Mascarenhas

つい最近まで海運で世界最大手だったA.P. モラー・マースクA.P. Møller – Mærsk)は、過去5年間はサプライチェーンのさまざまな部分で事業の多角化を推進してきました。この結果、現在では航空貨物輸送からトラック輸送、倉庫での物品の保管、ラストマイルの配送まで、あらゆるサービスを提供することが可能になっています。

一方、アマゾンは2006年に倉庫とラストマイル事業に参入しました。現在はこれに加えて長距離のトラック輸送と航空輸送を行うほか、貨物船のチャーターまで始めています。このまま行けば、工場から商品購入者の玄関先までオールインワンの物流サービスという両社の野心は真っ向からぶつかる可能性が高く、この先10年以内にEコマース分野での顧客争奪戦が始まるはずです


African telcos take on fintech

アフリカのフィンテック

A billboard advertises an MTN service for businesses that use WhatsApp in Nigeria
Painting the town yellow
Image: Reuters/Afolabi Sotunde

ナイジェリアではモバイルインターネットの重要性が増しており、携帯電話大手MTNグループはここにビジネスチャンスを見出しています。同社の4Gサービスのカバー率は70%に達しているほか、仮想空間で不動産を取得したり、5Gサービスを提供する計画も明らかにしました。

ただ重要なのは、MTNは特にZ世代にとっては金融サービスを提供する企業という地位を確率している点です。ナイジェリアでは成人の36%が銀行口座をもっておらず、この割合はサハラ砂漠以南のサブサハラアフリカでは最大となっています。しかも、その多くは18〜25歳なのです


それでは皆さん、よい週末を! このニュースレターはQuartzのScott Nover、Pieter Abbeel、Mike Schabel、Nicolás Rivero、Alexander Onukwueはじめ、メンバーシップエディターがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。


One 🔮 thing

ちなみに……

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Image: AP Photo/Eric Risberg

Quartzは10年前の2012年、当時もっとも革命的と思われていたテクノロジーを紹介する記事を掲載しました。そこには「こうしたテクノロジーは今年に登場したものでなくても、いつかは記事で取り上げられたはずです。多くの場合、2012年はわたしたちとマシンとの関係を書き換えていく旅路において、大きな進展があったというだけで十分なのです」と書かれています。

この記事で取り上げられたテクノロジーには以下のようなものがありますが、これまでの10年間でもっとも大きな影響を及ぼしたのはどれだと思いますか?

  • ジェスチャーインターフェイス:リープモーション(Leap Motion)、ポイントグラブ(Pointgrab)、エリプティック(Elliptic)
  • 拡張現実(AR):グーグルグラス(Google Glass)、ゼナラルモーターズ(GM)とダイムラーの自動車のフロントガラス
  • 圧縮空気の蓄電システム:ライトセイル・エナジー(LightSail Energy)
  • 自動運転の電気自動車(EV):アーキモト(Arcimoto)、グーグルの無人運転車
  • 超低価格のインターネットデバイス:ジャナ(Jana)、ヨーラ(Jolla)、フェイスブック、データウィンド(Datawind、現Jeotex)、深圳にある無数の中小メーカー

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