月曜夜のニュースレター「Climate Economy」は、今回からちょっとアップデート。毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのか、どんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。今日3月28日は「森林」について、いくつかの論点をお届けします。
わたしたちは、さまざまな資産に金融的な価値をつけてきました。そうすることで、その資産が人類にもたらす恩恵を理解し、評価し、行動に反映させてきたのです。
英国の大蔵省は2021年2月、報告書『生物多様性の経済学』（通称「ダスグプタ報告」）を発表し、従来の人工資本と人的資本に加え「自然資本」の会計方法を整備する必要性を訴えました。事業者による自然環境への影響をコストの一部として扱うことによって、生態系サービスを資産として扱い、より持続可能な行動をとる動機をつくり出す狙いがあります。
なかでも世界の森林が提供する生態系サービスの価値は高く、1ヘクタール当たり約2,800ドル（約33万円）という高精度の試算すらあります。ところが、2020年には世界各地で約2,600万ヘクタールの森林が失われました。
アマゾンの熱帯雨林は、世界有数の生態系サービスです。科学誌『Nature Climate Change』に3月7日に掲載された学術論文によると、アマゾンは2000年代以降から着々と「耐久性」を失っており、このまま「臨界点」に到達してサバンナに変化した場合は、約900億トンもの二酸化炭素が排出されると試算されています。
Keywords
用語集
- 人工資本［produced capital］：労働によってつくり出された物理的な生産力や資産
- 人的資本［juman capital］：教育や訓練、健康や人脈など、経済的な価値をもつ能力
- 自然資本［Natural Capital］：動植物や景観、空気や水から、地球全体の気候まで、人間にとって価値がある自然物
- 耐久性［Resilience］：生態系の自己修復能力
- 臨界点［Tipping Point］：ある地域の生態系の抜本的な変化が確定した状態
By the Digits
数字でみる
- 22兆ドル: 森林破壊によって2025年までに失われる世界GDPとして、国際通貨基金（IMF）が2020年に発表した試算
- 20倍：世界最大の発電所である中国の三峡ダムの発電能力（約22.5GW）に対して、中国がゴビ砂漠に2030年までに設置する予定の再エネ発電所（主に太陽光と風力）の発電能力は450GW。森林を破壊せずに再エネを拡大する上で参考になる、野心的な事例
- 14名：メジナ虫症の2021年の感染者数。1980年代には感染者が年間300万人以上もいた感染症が、ついに根絶一歩手前のところまで。世界の感染症の大半は動物由来であり、森林破壊は動物から人間への感染のリスクを高める
- 16.2%：米国における石炭火力発電の伸び率。石炭の発電総量に占める割合は2020年に再エネに追い抜かれていたが、2021年には天然ガスの価格高騰なども追い風となり、市場シェアを再び拡大。化石燃料の燃焼を主な原因とする気候変動は、山火事や立ち枯れのリスクを飛躍的に増大させる
Quiz
ここで問題です
森林破壊を防ぐために個人がとれる最も有効な行動として、IPCCの著者たちが2019年に挙げたものはどれでしょう？
環境保護団体へ寄付をする
食生活を見直す
地域で森林保全のボランティアをする
最新技術やアプリを積極的に使う
答えは、②の「食生活を見直す」。牛肉や乳製品の生産は、世界の森林破壊の原因のトップです。飼料の栽培や牛の放牧には、それだけ膨大な土地が必要だからです。植物由来のハンバーガーやオーツミルクなどへ投資が集まっている背景にも、森林破壊の問題を解決したいという思いがあります。
米国の企業が上位を占めていますが、トップ10にはチリやシンガポール、カナダの企業も食い込んでいます。
International Actions
国際的な取り組み
世界の森林を保護するための公的な取り組みも進められています。第26回気候変動枠組条約締約国会議（COP26）において、「森林保護に関するグラスゴー宣言」に世界141カ国、世界の森林面積の90％以上を有する国々が署名をしました。関連して、米英ノルウェーの3カ国が中心となる「LEAF連合」は、2021年10月の時点で計10億ドルを主に中南米や東南アジア、またアフリカにおける森林保護事業へ提供する意向を固めました。
さらに国連は「国連森林戦略計画2017-2030」の進捗状況をまとめた報告書『世界森林目標報告書2021』を発表し、各地域における6つの「世界森林目標」の達成度を26個のターゲット数値をもとにして総括しました。日本に関しては、2,500万ヘクタールの森林面積の維持や森林環境税の導入など多くの取り組みが評価されています。
また、今年の4月下旬〜5月上旬にかけて、第15回国連生物多様性条約締約国会議（COP15）の第二部が開催されます。そこでは2010年10月に合意された「愛知目標」を受け継ぎつつ、生物圏を保護するための「昆明宣言」が新たに採択される予定です。
One Big Number
再エネの気になる数字
1,000万トン
欧州連合（EU）が2018年に輸入した木質ペレットの総量です。主に人工林から収穫される木材は、EUでは「再エネ」として分類されていますが、これは森林破壊による排出量が燃焼時ではなく収穫時にカウントされるからであり、「本当に」ゼロ排出であるからではありません。
こうした問題も考慮に入れつつ、欧州連合は3月8日に「REPowerEU」計画を発表し、農業廃棄物ベースのバイオメタンなど、より持続可能な素材への資金供給額を増やす方針を発表しました。バイオメタンはロシアからの天然ガス輸入量の20％を代替すると見込まれています。
Local Solutions
世界の解決策
- 👣 大きな一歩。マダガスカルでは、日本の住友商事と韓国のKomirがニッケルとコバルトの採鉱事業のために約2,000ヘクタールもの天然熱帯雨林を伐採し、大気や飲み水の汚染など多くの問題を引き起こしてきました。他方で、最新研究によると、同社はオフセット事業として2021年までに約2,200ヘクタールの熱帯雨林の保護に成功しました。オフセット事業の成果が細かく評価された事例は世界的にも稀です。
- 🐨 ユーカリの森を復活。オーストラリアでは2019〜20年にかけて大規模な山火事が発生し、多くの森林面積が失われました。森林回復を図るために、非営利団体One Tree PlantedはAstraZenecaらと共に2025年までに2,500万本の植林を約束しました。
- 🐋 森林は生命の源。スコットランドでは気候変動の影響でサケの生息域が失われる見込みです。この問題を解決するために、River Dee Board & Fisheriesは数百万本規模の植林を進めています。
- 👪 60年越しの植林の成果。中国では世界最大の人工林である「サイハンバ国立森林公園」が2021年国連「Land for Life」国家部門賞を受賞しました。3世代60年間にわたる植林努力の結果、同地域における森林被覆面積は11.4％から80％へと拡大されました。
One 🐦 Thing
ちなみに……
ニューギニア島には世界で3番目に大きい熱帯雨林があり、その約80％が現在でも保全されています。森林破壊を必要とする事業ではなく、森林保全に根ざしたエコツーリズムによって経済を発展させようという運動が盛り上がっています。
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