ロシアからの撤退を求める批判の声が高まるなか、スイスの食品飲料メーカーのネスレが(ようやく)ロシアでの一部商品の販売を停止することを発表しました。販売が停止となるのはキットカットバーやネスプレッソポッド、サンペレグリノボトルウォーターで、全製品の販売停止には至っていません。乳児用の離乳食や医療用栄養剤など生活必需品の販売は継続するとしています。
ネスレは、当面の間、ロシアでの利益は人道支援団体に寄付する予定としています。ちなみに昨年、ネスレは同社売上の約2%、17億スイスフラン(約2,215億円)を、ロシアから得ています。
グローバル企業の「ロシア・ボイコット」が相次いでいますが、食品企業が考慮すべきは消費者からの圧力だけではありません。世界中に張り巡らされたサプライチェーンをはじめ、民間人の「基本的人権」としての食料アクセス確保など、検討材料は多岐にわたります。
食品飲料メーカーがこの危機をどう扱い、どう乗り越えるか次第で、彼らの企業ブランドの認知度や収益を大きく左右することになるでしょう。
ネスレ以外にも、ダノンとペプシが一部事業の停止を決定しています。ただし両者とも、牛乳や粉ミルクなどの生活必需品のロシアでの販売は継続すると発表しています。
Quotes
こんな発言も……
「グッドフード、グッドライフ」。これがネスレの──ロシアからの撤退を拒む、あなたたちの国の会社のスローガンだ。
──19日、ライブストリーミングでのゼレンスキー大統領の発言
ネスレのマーク・シュナイダーCEOとロシア市場に残ることの影響について対話したが、残念ながら、彼はまったく理解を示すことはなかった。テロ国家の予算に資する税金を払うことは、無防備な子どもや母親を殺すことを意味する
──17日、ウクライナ首相のデニス・シュミハリのツイート
major companies severing ties
ボイコット企業リスト
🛢 石油・ガス
- 石油大手3社のBP、シェル(Shell)、エクソンモービル(ExxonMobil)は、2月末時点でロシアからの事業撤退計画を発表。BPは250億ドルもの損失を被る可能性が指摘されている
- ノルウェーのエクイノール(Equinor)も2月28日に、約12億ドル相当のロシアとの合弁事業からの撤退を発表
- フランスのトタル・エナジー(Total Energies)は3月1日、ロシアでの新規プロジェクトに対する資本提供を停止すると発表
✈️ 運輸・海運
- ボーイング(Boeing)は3月2日、モスクワでの「主要業務」を停止し、キエフの事務所を閉鎖すると発表
- 米国の自動車メーカー、ゼネラルモーターズ(General Motors)とフォード(Ford)は2月28日、ロシアへの輸出を全面的に停止すると発表。フォードは合弁事業を停止するとした
- ドイツのフォルクスワーゲン(Volkswagen)は、すでにロシアに輸出されている自動車について、現地販売店への納入を停止
- ドイツのトラックメーカー、ダイムラー(Daimler)はロシアを代表するトラックメーカー、カマズ(Kamaz)の株式15%を売却する意向
- メルセデス・ベンツ・グループ(Mercedes-Benz Group)もカマズの株式売却を模索
- オートバイメーカーのハーレーダビッドソン(Harley Davidson)は、ロシアへの出荷を停止
- 海運大手のマースク(Maersk)は3月1日、ロシアとの航路を一時的に停止すると発表
- 日本の自動車メーカー、トヨタ(Toyota)は3月3日、ロシア工場の生産を停止し、輸出を無期限停止すると発表した。
- 日産、ホンダ、スバルも同国への輸出を停止。マツダはロシア工場への部品出荷を停止
📺 エンタメ/テック
- ディズニー(Disney)は、公開予定だったピクサー映画『ターニング・レッド』を含むロシアでの映画公開を停止すると発表
- ワーナー・メディアとソニー・ピクチャーズもロシアでの映画公開を一時停止すると発表
- メタ(Meta)は、欧州のFacebookプラットフォームにて、ロシアのメディア『RT』『Sputnik』をブロックすると発表
- アップル(Apple)はロシアでの販売を停止し、Apple Payを含むサービスの利用を制限
- ナイキ(Nike)はロシアへの配送を保証できないとしてオンライン販売を停止
- デル(Dell)、エリクソン(Ericsson)も出荷・販売を停止
- H&Mは3月2日、「ウクライナの悲劇的な動き」に懸念を示し、ロシアでの販売を一時的にすべて停止すると発表
- イケア(Ikea)はロシアとベラルーシでの事業を停止
🍔 ファストフード
- 1990年にロシア1号店をオープンしたマクドナルド(McDonald’s)は、3月8日にロシア国内の全店舗を一時的に閉鎖すると発表したが、現地で働く6万2,000人の従業員への給与支払いは継続するとしている
- バーガーキング(Burger King)は3月17日までに、ロシアでの事業を停止しようとしていると述べたが、800店舗を管理する現地のビジネスパートナーはいまのところ閉鎖を拒否している
How does it end?
いつ終わるのか?
企業の「ロシア・ボイコット」はどうすれば終わりを迎えるのでしょうか。Quartzでは、ハーバード大学のエドモンド・J・サフラ倫理学センター所長代理でハーバード・ビジネス・スクール教授のNien-hê Hsiehに尋ねましたが、即答できるような「解」を得ることはできませんでした。
Hsieh教授は、各企業の対応に「道徳的ご都合主義」の臭いがすると指摘。彼らが複数の可能性に賭け、リスクを分散しようとしているかのようだと言います。また、「どうなればロシアでのビジネスを再開するのか」が明確にされておらず、声明をみても、倫理的な理由付けが極めて弱いというのです。
企業として満足のいく態度を示すにはどうすればいいのか。企業は問題が起きてから対応するという姿勢をやめ、自分たちにとっての真の価値が何かをもっと考えるべきだ、というのが、Hsieh教授が出した答えだといえるかもしれません。
THINKING ABOUT CORPORATE ETHICS
必要なのは「倫理」
Quartzのインタビューの中でHsieh教授は、彼が学生にビジネス倫理を教えるために使っている6つの価値観(5つは個人向け、1つは企業向け)について説明しています。
- 📜 権利。「わたしたちが他者に対して行えることを制限する権利」や「わたしたちにある種の要求をする資格を人びとに与える権利」などの基本的権利が守られているか?
- 🌼 ウェルビーイング。特定の状況下で幸福・健康を促進するために、どんな責任があるのか? 例えば、顧客との関係において、あなたの会社の製品やサービスによって彼らの幸福・健康を損なわないようにするためにどんな責任があると思うか?
- ⚖️ 公平性。人びとの幸福・健康や利益に関わる利害関係をうまく管理するには、どうしたらいいか? 例えば、職場において、人びとへの給与支払いはどうすれば公正になるのか? 異なる方法で人びとを扱うのは、どういった場合ならば公平といえるのか?
- 🤝 信頼。わたしは学生たちに、信頼について考えるとき、2つの概念を考慮するよう伝えている。一つは、「頼りにする」という意味での信頼だ。「頼りになるから」、または「これから何をするかをきちんと表明しているから」、お互いの信頼が生まれる。もう一つは、ビジネスの根幹をなす、「より深い信頼」だ。それを表す一例が「受託者義務」だが、それは例えばあなたが投資マネジャーだった場合、「あなたはわたしの利益を考えてくれるはずなので、わたしはあなたを信頼する」という考え方だ。
- 🕴️ 自主性。あなたはどの程度まで、人びとの自主性を促進したり高めたりしているのか?
- 👊 パワー。企業は個人にはない力と社会への影響力をもっている。そのため、企業の行動の正当性や社会における企業の理想的な役割について、もう一段階考えを深める必要がある。
One 🍻 Thing
ちなみに……
米国では、この20年でクラフトビール業界が急成長しています。この業界の担い手、現在9,000件近いともいわれる小規模独立系醸造所(とそのファンたち)にいま、危機が迫っています。
オランダの金融サービス会社Rabobankの報告書によると、ロシアとウクライナの大麦生産量は、それぞれ世界では13%/5%で、両国を合わせると世界輸出の30%を占めています。これら大麦の輸出が途絶えることで、小規模な醸造所は特に大きな打撃を受ける可能性があるというのです。
ビール製造に使用される麦芽の原料は大麦で、小規模ビールメーカーは大規模ビールメーカーに比べ、実に3〜4倍を使用していることがその理由です。さらに、小規模メーカーの多くが穀物調達に関する長期契約を結んでいないことも深刻な影響を与えそうです。
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