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ニュースレター「Forecast」では、グローバルビジネスの大きな変化を1つずつ解説しています(これまでに配信してきたニュースレターはこちらからまとめてお読みいただけます)。
「Call of Duty」にしろ「Fortnite」にしろ「Grand Theft Auto」にしろ、この手のゲームでは、プレイヤーは「経験値(XP)」を得るために、さまざまなミッションやタスクに挑戦します。XPはゲーム内で街を歩き回ったり、目的地までクルマで行く、謎解きをするといったことで獲得できます。XPを上げれば必ず勝てるというわけではありませんが、もっているXPはもっといい武器や技、新しいアバターなど、ゲーム内の商品と交換できるのです。
それではここで、まだ実態を掴みづらい「メタバース」について考えてみましょう。メタバースの実装は、このゲームの世界の仕組みを、わたしたちの生きている現実世界に発展させていくかたちになるでしょう。しかし、家や高速道路、歩道、小売店といったもので構成されるリアルな世界は、現時点ではその大部分が細分化された非効率的なシステムによって運営されています。
メタバースでは、人びとは簡単なタスクをこなしてポイントを獲得していきます。ここではどんなことも「タスク化」され、例えば、買い物をするのに店に足を踏み入れるとレベルが上がったり、公園に行くとポイントがもらえたりするのです。
この未来は、さまざまな異なるテクノロジーが連携して支えられています。具体的には、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)からなる高速空間コンピューティング(spatial computing)や、高速のワイヤレスインターネットによるクラウドコンピューティング、ブロックチェーン技術といった技術です。
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わたしたちが本当にそのような世界を望んでいるのか、という問題は残ります。しかしそれも「Pokémon GO」の成功によって、ある程度は証明されたのではないでしょうか。このARのモバイルゲームでは、プレイヤーは世界に散らばるバーチャルキャラクターを「集めて」いくのですが、その過程でさまざまな現実の出会いが生まれています。
一方、ビットコインやイーサリアムのような暗号通貨が一般の人たちの間だけでなくウォール街でも注目されるようになったいま、暗号ベースの無料のポイントを求めて街をさまよう集団を想像するのは、それほど難しくはありません。さまざまなブランド、プロスポーツリーグ、映画やテレビなどのフランチャイズ、地方自治体のイニシアチブが、こうしたポイントを提供するようになるのです。
このポイントを「人生経験値(Life Experience Point、LXP)」と考えてみましょう。すべてがゲーム化した(もしくはそうなる可能性のある)世界では、LXPこそが普遍的な通貨なのです。
A BRIEF HISTORY OF LOYALTY FOR SALE
「ポイント」小史
- 18世紀:一部の商店が顧客のリピート率(再来率)を上げるために、店で売られている商品と交換できる銅製のトークンを配布するようになる。このトークンはその後、トレーディングスタンプとなっていく
- 1981年:アメリカン航空(American Airlines)が世界初のマイレージサービスとなる「AAdvantage」を導入
- 2009年:スターバックスがリワードプログラムの提供を開始。会員登録してポイントを貯めるとドリンクが無料になる仕組みで、会員数は2,000万人近くに上る
- 2016年:任天堂とナイアンティック(Niantic)、ポケモン(Pokémon Company)が共同開発した『Pokémon GO』が発売
- 2018年:仮想生物バーチャルペットを育てて対戦したり、NFT(非代替性トークン)として販売できるモンスター育成ゲーム『Axie Infinity』が登場
SCIENCE FICTION’S CHEATSHEET
SFの世界観
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ケイイチ・マツダ(Keiichi Matsuda)監督の短編映画『Hyper-Reality』(2016年)では、メタバースがどのようなものになり得るかが描かれています。街を歩いていると、視界にはスマートグラスを通じて秒刻みでAR広告やプロモーション、リマインダーなどが表示されるという世界観です。
現実世界やネットでの広告の歴史を振り返ると、ビジネスと日常生活が交差する場所では面倒な事態になる可能性があるということは証明されています。商取引の未来は、LXP獲得の終わりなき旅路になるかもしれません。しかし一方で、バーチャルスパムのディストピアを防ぐためには、この先に何がやってくるのかを理解し、それを制御する方法を準備しておくことが重要になるのです。
🔮 PREDICTIONS
今後の見通し
SFはさておき、このLXPというシナリオが今後どのように展開していくのか、Googleマップを例に考えてみましょう。どこかに出かけるのにスマートフォンでGoogleマップを使う人は多いと思いますが、グーグルは2019年、Googleマップに「Live View」というARのナビゲーション機能を追加しました。
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Live Viewでは、スマホのカメラで風景を写すとそこに進む方向を示す矢印やピンなどが表示されて、ユーザーを目的地に導いてくれます。Live ViewはStreet Viewのデータと連携しており、道路標識や建物を認識することも可能です。現時点では、Live Viewの目的はナビゲーションのみですが、もちろん次はここに広告が入ってくることが予想されます。
例えば、シカゴで評判のいい寿司屋を探しているとしましょう。まずはGoogleマップで「寿司屋」と検索して、表示されたレストランから良さそうな店を選んで、店までの行き方を確認します(Street Viewが使えればLive Viewも利用可能であることはあまり知られていませんが、アプリのLive Viewボタンをタップするだけで、スマホの画面上に3DのARナビが表示できるのです)。
ここに他の寿司屋の割引情報が表示されたり、もしくはグーグルで人気が高い寿司屋10店をすべて制覇するとポイントがもらえるというようなゲーム化は、簡単に想像できます。そして、これはLive ViewのようなAR技術を使ったアプリがあれば実現可能なのです。
WHAT’S CRYPTO GOT TO DO WITH IT?
クリプトはどうなるのか
「LaaG(Life as a Game、ゲームとしての人生)」の時代が到来する上で、AR技術は高速ワイヤレスの普及とクラウドコンピューティングのおかげで、すでに実用化段階に入っています。一方で、暗号通貨がここに組み込まれていくかについては、未知数な部分があります。
これまでのロイヤルティプログラム(ポイント)によって、消費者はブランドごとの体験に基づいて、金銭的にメリットのある提案には積極的に参加することが証明されています。ただ、個々の組織や企業(例えば、スターバックスやロブロックス[Roblox]、ディズニーなど)の間の壁を取り払い、どこかで獲得したポイントを別の場所でも使えるようにするには、統一のトークンが必要です。
これは既存のブロックチェーンを利用したかたちか、もしくは政府が支援するデジタル通貨によって実現するかもしれません。バーチャルの資産の所有権や価値の証明、取引を巡っては、NFTがすでに実際に使われています。ただ、現在は細分化されたままの複数のブロックチェーンをひとつにまとめていくことが当面の課題となるでしょう。
ONE 🎮 THING
ちなみに……
「哲学者のジョン・デューイ(John Dewey)はすべての芸術の形態について、わたしたちが人生で行うことには、それを結晶化して抽出し統合するための芸術形態があると考えました……」
ユタ大学准教授のC・チ・ングェン(C. Thi Nguyen)、ポッドキャスト『Ezra Klein Show』でこんなことを語っています。
「絵画はものを見るという経験を結晶化して純化したものです。わたしたちは日常のできごとを語り合いますが、小説はこれを結晶化して純化したものなのです。(中略)
ゲームは演じることの楽しさを結晶化し純化しています。ゲームをやっているとき、わたしたちは人生で一度だけ、自分が何をしているか、何ができるのかを正確に把握しています。そして、それをするためにちょうどいい分量の能力を保持しているのです。濃縮され結晶化された行動という感覚です。
わたしはパズルを解いたり、ロッククライミングでうまくバランスを取ったり、チェスで相手が仕掛けようとした罠を事前に見破ったときに非常に興奮します。これはゲーム外の生活でたまに感じることのあるエクスタシーです。ただ、ゲームデザイナーたちがこの小さなゲームの宇宙をつくり上げたことで、わたしたちはそこに足を踏み入れて、エクスタシーを何度も体験できるようになったのです」
今日の担当はQuartzのメディア&エンタメ記者、Adario Strangeでした。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。それでは皆さん、よい週末をお過ごしください!
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