アフリカのいまを知ることは、世界のビジネスの未来の可能性を知ること──火曜夜にお届けしている「Africa」ニュースレターでは、毎週ひとつのスタートアップを取り上げ、彼らが社会の何をどう解決しているかをレポートしています。
アフリカでスタートアップが興隆したこの10年、起業家たちはレガシー企業よりも早く、大陸が抱える問題をイノベーションによって解決してきました。この手のイノベーションには資金が必要となります。低金利と次のブームに乗り遅れまいと、欧米のベンチャーキャピタル(VC)もアジア・中東の投資家も、猛烈な勢いで買い付けを始めました。
しかし、そこにはある重要なプレイヤーが欠けています。現地アフリカの投資シーンがテックシーンほど成熟していなかったのです。それゆえ、グローバル展開しようとする野心的なアフリカのスタートアップが資金調達をしようとするとき、自ずと海外に目を向けることになります。
2021年にはアフリカのスタートアップ4社が評価額で10億ドル(約1,225億円)以上、6社が1億ドル(約122億円)以上を達成しています。そのことだけを取り上げれば、スタートアップにさほど大きな制約はないように感じられるかもしれません。
しかし、まだ注目されていないスタートアップにとって、地元の投資家は必要不可欠です。後半の資金調達ラウンドで巨額の資金を得る以前のスタートアップにとって、2万5,000ドル(約306万円)〜5万ドル(約612万円)の勇気ある投資を行なうのは、地元の投資家であることが多いからです。
ローカルな資金が、取り残されてしまったかもしれないスタートアップを救うこともあります。2021年1月に創業したFirstCheck Africaは、女性が創業/共同創業した企業に(同社曰く「異様に早い段階で」)投資を行なっています。なお、VCによるアフリカへの投資額のうち、女性が創業した企業に対するものの割合は現在わずか3%だといいます。
多額の資金をもつ欧米の金融機関の多くは、将来性や規模拡大の可能性が不透明な創業初期のアフリカのスタートアップを支援したがりません。しかし、創業初期に投じられる資金は、企業の一生のなかで最も困難な時期かもしれない時期を乗り越える余裕をスタートアップに与え、大きな違いを生むのです。言い換えるならば、地元の資金提供者からの支援の有無が、会社をたたむか、それともニュースの見出しになるような投資を受けられるほど成長できるかの分かれ目になるということでもあります。
CHEAT SHEET
業界・虎の巻
- 💡 どんな可能性が?:アフリカでは日々新しいスタートアップが誕生しており、そうした企業への早期の投資は大きな可能性を開きます。投資先のひとつが大きな成功を収めれば、ほかの企業への投資が失敗に終わったとしてもその損失を埋め合わせることができるでしょう。
- 🤔 課題は?:社会経済的な理由からアフリカには地元に十分な投資家がおらず、現地の大物投資家はリスクが高そうに見えるスタートアップよりも石油やガス、不動産といった伝統的産業に投資することを好みます。
- 🌍 ロードマップは?:PaystackやFlutterwaveのような企業がおさめた大成功は、支援を得たアフリカのスタートアップに何ができるかを示しています。投資家はアフリカの重要な問題を解決する企業にもっと大胆な賭けをするべきでしょう。
- 💰 ステークホルダーは?:アフリカの著名な投資家にはMicrotractionやIngressive Capital、EchoVC、Grindstone Ventures、Ventures Platformsがいます。
BY THE DIGITS
数字でみる
- 53%:2021年に資金調達をしたアフリカの企業のうち、創業3年以内だった企業の割合
- 38%:2021年に資金調達をしたスタートアップのうち、アクセラレーターやインキュベーターのプログラムに参加した企業の割合
- 121社:2021年に資金調達を行なったスタートアップのうち、創業チームに女性がいる企業の数。なお、2021年に発表された資金調達案件は568件
THE CASE STUDY
ケーススタディ
企業名:Ingressive Capital
本社所在地:ナイジェリア
創業者:Maya Horgan Famodu
運用資産規模:1,000万ドル(約12億2,503万円)
Ingressive Capitalはアフリカのテックビジネスへの投資を目的に2017年に創業しました。同社は平均20万ドル(約2,450万円)〜40万ドル(約4,900万円)をスタートアップに投資し、株式の10%保有を目指します。これまでの主な投資先には、決済APIを提供し2020年にStripeに2億ドル(約245億円)以上で買収されたPaystackや、アフリカ人のゲノム解析データを収集して創薬や健康研究に活用している54geneなどがあります。
Ingressive Capitalの創設者であるマヤ・ホーガン・ファモドゥ(Maya Horgan Famodu)は、大学生時代にマダガスカルにいた経験がファンドを立ち上げるきっかけのひとつになったと語ります。彼女はこの滞在を通して、欧米の非営利団体が地域社会でおこなう取り組みが現地の人びとの参加なしでは高い価値を生めないことを知ったのです。ホーガン・ファモドゥは25歳でIngressive Capitalを立ち上げ、現在は女性起業家の活躍の場を広げることに注力しています。現在、同社の投資先の約40%は創業者か共同創業者が女性だということです。
2020年、Ingressive Capitalはナイジェリアの政府系ファンドやY Combinatorのマイケル・サイベル(Michael Seibel)、Techstarsなどの支援のもと運用資産を1,000万ドルに倍増させました。
THE COMPETITIVE LANDSCAPE
他社の動き
アフリカではIngressive Capitalのように創業初期のスタートアップに投資し、革新的なアイデアを開花させるための資金基盤を提供する投資家が増えています。こうした投資家は大きく2種類に分けられます。
- 企業。南アフリカではNaspersやNedbank、Standard Bankといった大企業がスタートアップに投資しています。既存のプレイヤーはスタートアップに投資しない傾向がありますが、これはその流れに逆らうものです。
- ほかのスタートアップの創業者。スタートアップの創業者自身が投資家となり、個人として、あるいは自ら団体を設立し、ほかのスタートアップに資金を提供することもあります。アフリカで成功した創業者たちが自ら他社を支援することはアフリカのスタートアップが成熟してきたことの現れともいえるでしょう。
現在アフリカの若い企業に投資している起業家としては、Paystackのショーラ・アキンレイド(Shola Akinlade)やmPharmaのグレゴリー・ロックソン(Gregory Rockson)、Flutterwaveのオルグベンガ・アグブラ(Olugbenga Agboola)などが挙げられます。
VC FUNDS TO 👀
注目のVCファンド
- 1億ドル(約122億円)の運用資産を誇る南アフリカのプライベートエクイティファンド、Alitheia IDFは大きな成長が見込める中小企業に焦点を当て、ナイジェリアや南アフリカ、ガーナ、ザンビア、ジンバブエ、レソトの女性中心の企業に投資を行なっています。同社は「起業家、生産者、流通業者、消費者のいずれかの大部分が女性である」企業に投資をしているといいます
- 2020年創業のFirstCheck Africaは、女性が創業または共同創業したアーリーステージの企業に25,000ドル(約306万円)の投資を行なっています
- セネガルの起業家ファトゥマタ・バ(Fatoumata Ba)が2020年に創業したJanngo Capitalは、調達した6,000万ユーロ(約81億円)の50%を、女性が創業・共同創業した企業または女性に恩恵を与えるビジネスを行なっている企業に投資しました
- ナイジェリアの連続起業家イーノルワ・アボイェジ(Iyinoluwa Aboyeji)が共同投資専門のVCとして創業したFuture Africaは2021年、女性主導のスタートアップに最大100万ドル(約1億2,250万円)を投資すると発表しました
🎵 今週の「Weekly Africa」は、Tanzanian Women All Stars(タンザニア)の「Superwoman」を聴きながら、ロンドン拠点のコントリビューターAanu Adeoyeがお届けしました。日本版の翻訳は川鍋明日香、編集は年吉聡太が担当しています。
ONE 🌍 THING
ちなみに……
過去10年間でアフリカのスタートアップは大きく発展しましたが、資金調達の機会は4カ国に大きく偏っています。2021年にはアフリカのスタートアップ568社が調達した20億ドル(約2,450億円)以上の調達資金のうち、92.1%がナイジェリア、エジプト、南アフリカ、ケニアの企業に投資されていました。他国に拠点を置くスタートアップへの注目も高まっていますが、まだ十分とは言えない状況です。
💎 「Weekly Africa」は、毎週火曜、アフリカの地で新たな産業が生まれる瞬間を定点観測するニュースレターです。
🎧 Quartz Japanでは平日毎朝のニュースレター「Daily Brief」のトップニュースを声でお届けするPodcastも配信しています。
👀 Twitter、Facebookでも最新ニュースをお届け。
👇 このニュースレターはTwitter、Facebookでシェアできます。転送も、どうぞご自由に(転送された方へ! 登録はこちらから)。