Need to Know:世界のインフレまとめ

Need to Know:世界のインフレまとめ
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Image: REUTERS/Jon Nazca

毎週水曜夜のニュースレター「Need to Know」は、世界のビジネスの風向きを変えようとしているモノ・コト・ヒトをひとつ取り上げ、「いま知るべきこと」をまとめるシリーズです。

今月12日、米国労働省が発表した3月の消費者物価指数は、前年比で8.5%上昇しました。しかし、インフレの波が押し寄せているのは、米国だけではありません。

パンデミックが打撃を与えたサプライチェーンは、さらにロシアのウクライナ侵攻によって寸断されました。石油や食料の輸出が途絶え、世界中の消費者にとって欠かせないもの──ガソリンや食料、さらには賃貸物件の家賃に至るまであらゆるものの価格が大幅に上昇。世界のインフレ率は6%を超えています。

中国インドでは、食用油の価格が70%も上昇しました。セネガルでは肉が手の届かないものになり、イスラム教徒の多くがラマダンの断食明けを魚で済ませざるをえなくなっていますメキシコは食料価格の引き下げについて米国と調整中で、香港ではガソリン価格が高騰し、国際エネルギー機関(IEA)が世界的なエネルギー危機警告しています

物価の上昇がもたらす影響を少しマクロにみてみれば、欧州では反移民ポピュリスト政党の支持拡大や労働者の抗議行動などの政治的混乱つながります。米国では、11月に行われる予定の中間選挙で大きな争点になるでしょう

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The pain points

何が値上がりしている?

40年ぶりの高い水準を記録した米国のインフレですが、その要因はガソリン価格の高騰にあります。米国では3月、ガソリン価格が前月比で18%以上も上昇しています。

「ウクライナ戦争は3月の消費者物価に大きな影響を与えた。ガソリン代だけでCPIの月間上昇率の半分以上を占めている」と、消費者金融サービスを提供するBankrateのチーフ・フィナンシャル・アナリスト、グレッグ・マクブライドは説明しています。

3月、各商品の価格の前月比は次のような値を示しています。

📉 3.8%:中古車

📉 4.2%:スマートフォン

📉 2.4%:テレビ

📈 1.0%:食料品

📈 1.5%:賃貸物件の家賃

2021年、中古車の価格は1カ月で10%以上、テレビに至っては1年で13%も上昇したのに比べると対照的な数字といえます。一部のエコノミストは、米国のインフレ率は3月にピークを迎え、4月には物価上昇のペースが鈍化するとみています。


💎 mostly unscathed

贅沢品は傷つかない

一方で、ラグジュアリーブランドのビジネスは好調に推移しています。今月12日に第1四半期の決算を発表したLVMHは、予想を上回る好業績を収めています(売上高は180億ユーロで、前年同期比29%増)。なかでもルイ・ヴィトンとディオールの2大ブランドの好調が際立っています。

LVMHのビジネスが紛争による影響をほとんど受けていないのはなぜか。次のような理由が挙げられます。

  • 🦨 ウクライナもロシアも市場として小さい。ロシアはLVMHのグローバルビジネスの1%程度に過ぎないと、モルガン・スタンレーのラグジュアリー部門のアナリスト、エドワード・オーバンは指摘しています
  • 💍 ダイヤモンドはロシアだけじゃない。ロシアは世界でも有数のダイヤモンド原石供給国ですが、ブルガリなどのブランドは同国以外の供給先をすでに見つけています
  • 🤑 価格を上げても富裕層が買い控えしていない。LVMHは今後数カ月の間にさらに値上げを実施する予定ですが、ラグジュアリーブランドの価格弾力性は低い、とLVMHのCEOであるジャン ジャック・ギオニはみています
A spiral staircase is surrounded by Dior luxury purses and shoes on the wall in the brand's Paris flagship.
Demand is still strong at Dior and other LVMH-owned brands.
Image: Dior

trends for “stagflation”

懸念と期待とのあいだ

世界的なエネルギー不足の兆候を受け、Googleでは2021年以来、stagflation(スタグフレーション)の検索数が急増しています。Algebris Investmentsのポートフォリオマネジャーであるアルベルト・ギャロは「金融市場はスタグフレーションへの懸念と国内総生産(GDP)の回復への期待との間で揺れ動いている」と指摘しています。

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インフレ率の上昇は予想以上に長引いており、「現代のスタグフレーション」が個人消費に影響を与えている

──Principal Global Investorsのチーフストラテジスト、シーマ・シャー(Financial Timesのインタビュー

賃金は上昇しているものの、物価上昇に追いつけるほどのスピード感はない

──調査会社MacroPolicy Perspectivesのエコノミスト、ローラ・ロスナー・ウォーバートン(New York Timesのインタビュー

停滞は世界中に根付いている。エネルギー価格の上昇は市場に警鐘を鳴らし、現在ではインフレ率の上昇と生産高の減少というシナリオがより現実味を帯びている。

──Bank of AmericaのG10為替戦略担当グローバルヘッド、アタナシオス・ヴァムヴァキディス


increasing wages cause inflation?

で、給料は上がるの?

インフレに応じた昇給が無理だとしても、企業は生活コストの上昇が従業員の給与に与える影響を認識しなければならない。

──テキサスA&M大学の准教授で、「Great Resignation」(大退職時代)ということばを生んだアンソニー・クロッツ

マクロ経済データを見ると、インフレ調整後の昇給はまだ実現していないようです。パンデミックの期間中、米国では労働者不足が深刻化したため賃金が上昇しましたが、それも一時的なもので今年2月には賃金の伸びが鈍化しています。また、労働統計局(BLS)のデータをみても、民間企業における労働者の賃金上昇がインフレ率に追いついているとはいえません。

これは必ずしも悪いことではありません。インフレ率に応じた賃上げはインフレを助長する可能性があるとされているからです。

スタンフォード大学経営大学院教授のポール・オイヤーは、「労働コストが上がると、企業はそのコストを価格に反映させ、顧客に転嫁する可能性がある。そうすると、顧客はガソリン代や家賃、食料品代などを支払えるように自らの雇い主に昇給を求め、このサイクルを永続させることになる」と説明しています。

一方で、テキサスA&M大学メイズ・ビジネススクール准教授で、Great Resignation(大退職時代)という言葉をつくったアンソニー・クロッツは、「インフレに見合った昇給を提供できないとしても、コストの上昇が従業員の給与に与える影響を認識するべきだ」と言います。

雇用主は、インフレ調整後の昇給がいますぐ実施されない理由と、それをどのように埋め合わせるつもりなのかについて透明性を確保する必要がある、というのがクロッツの意見です。

「例えば、『いまから1年後にも同じ事態が起きていれば、全員にボーナスを出したり昇給させたりできる状態になる』と言うのでもよいでしょう。いずれにせよ、対話に従業員を参加させる必要があるのです」


One 🧐 Thing

ちなみに……

いつもスーパーやコンビニで手に取っている製品が小さくなったとして、いったいどれくらいの消費者がそれに気づくものでしょうか。商品を小型化し価格を据え置く企業の試みは、shrinkinflationの造語でshrinkflationシュリンクフレーション)と呼ばれることがあります。

掲示板プラットフォームの「Reddit」では〈shrinkflation〉というタイトルでsubredditが立てられており、サイズダウンしたアイスやチップス、クリームが目減りしたオレオクッキーの姿が投稿されています。

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Image: VIA REDDIT

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