Climate:#10 ビーガンが地球を救う?

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月曜夜のニュースレター「Climate Economy」では、毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのかどんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。

2022年、英国人消費者の多くが、過去数年に比べて「自宅で仕事をするベジタリアン」になる──。そんな調査結果を、英国国家統計局(ONS)が発表しました

ONSは約700品目のモノやサービスの価格をもとに消費者物価指数CPI)を産出しています。それら700品目にはドーナツから食器用洗剤まで、あるいはSpotifyのような音楽配信サービスへの加入も含まれますが、そのリストに追加/削除される品目は、長期的なトレンドに基づいているとされています。

今回発表された調査結果では、このリストにレンズ豆の缶詰肉を使わないソーセージが追加されています。ONSによれば、健康や環境への関心の高まりから、ベジタリアンやビーガンが増加していることが反映されているというのです。

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いま世界で拡大しているビーガンの波。今日、そして来週のニュースレターでは2回に分けて、意外と知らないビーガンの実像に迫ってみます


What is Veganism?

キーワードは「不要な」

ビーガンとは「ビーガニズム」(veganism)の略称で、動物由来製品の不要な消費を行わない生活方法のことです。肉や魚、乳製品や卵だけでなく、革製品やペットの消費なども対象になります。

例えば、目が見えない人は盲導犬を必要とするでしょう。あるいは、必要な栄養素を植物性食品だけでは十分に得られないような環境にいる人は、若干の動物性食品も食べるでしょう。このように必要な動物由来製品の消費は、ビーガンでも認められています。

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ビーガンは個人の消費には社会的責任が伴うという立場をとっており、消費者としての日々の選択を一種の投票のようなものとして捉えています。また、自分の価値観と行動を一致させること、すなわち「有言実行」にも重きを置いています。

さらに、質の高い情報の収集もビーガンの大切な側面です。ネット記事やマーケティング広告などのバイアスがかかった情報源ではなく、専門機関が発表した公式見解や査読付の論文や報告書などをベースにして判断をしていこうというわけです。


How to go Vegan

栄養、足りてる?

米国栄養士会英国栄養士会をはじめとする専門機関は、「しっかりと計画されたビーガン食は、万人に適切である」という公式見解を発表しています。

動物性食品から得ていた栄養素を確保するためには、しっかりとした献立計画が必要となります。ビーガンを始めたばかりの人は、慣れるまでは栄養管理アプリを使って毎日の食生活を記録し、ビタミンやミネラル、カロリーやたんぱく質などの十分な摂取を確認することが大切です。

また、必要な栄養素には個人差があるため、栄養士などの専門家と話し合うことも推奨されています。いきなり完璧な菜食を目指すのではなく、自分のペースで菜食の献立や食習慣を学び取り入れていくことで、自分に合ったビーガン食が実践できるようになります。


Quiz

ここで問題です

ビーガン食において「サプリで摂取する必要がある栄養素」を下から3つ選んでください。

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答えは「ビタミンD」「ビタミンB12」「DHA脂肪酸」。「肉といえばたんぱく質」ということで、「たんぱく質」と答えた方も多かったのではないでしょうか。実は菜食だけでも十分な量のたんぱく質を摂取できることがわかっています。

また、筋肉を鍛えたいと考えている向きには、100%植物性のプロテインもあります。ストロングマン選手のパトリック・バブーミアンやプロテニス選手のノバク・ジョコビッチなど、一線で活躍するアスリートの中にも菜食やビーガン食を実践している人が増えてきています。


Three Motivations

彼らの3つの動機

ビーガンを実践する主な動機は、大きく分けて3つあります。

  1. 気候変動や地球環境破壊を食い止めたい。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年に発表した『気候変動と土地に関する特別報告書』では、温室効果ガスの排出量を削減し、森林伐採に歯止めをかけ、空気や水の汚染を食い止める上で、個人がとれる最も有効な行動として「動物由来製品の消費量の削減」(すなわちビーガンを目指すこと)が挙げられていました。また、今年4月に行われたIPCC第6次評価報告書第3作業部会(WGIII)の記者会見でも、動物由来製品の消費を大幅にカットすることの重要性が改めて強調されました。
  2. 他の生物種を知能と感情をもつ存在として尊重したい。「ビーガンは動物愛護に強い関心をもっている」というイメージも根強いですが、実態は少し異なります。例えば、欧州連合(EU)が2015年に行った世論調査では、回答者の8割から9割が「動物の幸福は守られるべきだ」と答えています。つまり、大多数の人びとはすでに人間以外の動物を気にかけているわけです。「人間以外の動物も大切である」というこの広く共有されている価値観と、動物由来製品の不要な消費という行動との矛盾に気がつくことを、ビーガン用語では「つながりに気付く」(making the connection)と言います。
  3. より健康的な食生活に切り替えたい。2015年に世界保健機構(WHO)は、加工肉を「発がん性がある」(Group 1)、赤肉(牛肉や羊肉など)を「おそらく発がん性がある」(Group 2A)にそれぞれ認定しました。海産物に関しても、各国政府の当局は水銀濃度の高さから特にマグロやサバなどの摂取を控えるようにアドバイスをしています。こうしたリスクを考慮に入れつつ、健康の観点から菜食やビーガンを実践する人もたくさんいます。ちなみに、イギリスで2021年に行われた世論調査でも、世界規模で2019年に行われた調査においても、ビーガンを実践する動機のトップを飾ったのは「他の動物たちの幸福」でした。

Got Some Talent

ビーガン界のカリスマ

世界のビーガンブームの中心は英国だと言われており、今年3月に行われた世論調査でも成人の実に46%が動物由来製品の消費量を減らそうとしていることがわかっています。その原動力のひとつとして、ビーガン活動家のエド・ウィンターズの存在が挙げられます。

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Image: VIA YOUTUBE

書き下ろし書籍『This is Vegan Propaganda』(これはビーガン・プロパガンダだ!)の出版を記念して行われたリッチ・ロールとの対談において、ウィンターズは自分の対話の流儀をこう説明しています。

いつも敬意に基づく対話ができるように心がけているよ。大学で学生たちとの議論を撮影するときにも、カメラ係の人が色々と調節をしている間に「いまは何を勉強しているの?」「勉強は楽しい?」「どこの出身?」っていう感じで、ビーガンとは関係のない質問をするようにしている。お互いの生き方や信念の根本を問い直すような会話を始めるわけだから、相手とあらかじめ何がしかのつながりをつくっておくのは大切だよね。

ほら、議論が白熱すると、ぼくらってつい「自分が100%正しい」「相手が100%間違っている」っていう態度をとりがちじゃない? そういう風にならないためには、話を始める前のつながりづくりが欠かせないんだ。

思うに、いまの社会にはいたるところに亀裂が走っている。相手の信念の一部だけを切り抜いて、相手を決まりきった枠に嵌めようとする傾向がある。そこには、他の人が信じていることを誠実に理解しようという姿勢が欠けている。ぼくは他の人がなぜ何かを信じるに至ったのか、その過程に興味があるし、それを理解したいと思っている。そもそも相手の立場を十分に理解できないうちは、優れた議論もできないからね。

また、ジャーナリストのアーロン・バスターニとの対談で、ウィンターズはTwitterを使わない理由について興味深い説明をしています。

2016年に活動を始めたばかりのころはTwitterを使っていた。でも、Twitterは礼儀正しい対話とはあまりにもかけ離れた場所だった。それに、ビーガンって大きなアイデアだから、限られた文字数ではうまく表現できなくて、息苦しい感じもした。もちろん、Twitterで頑張っているビーガン活動家もいるけど、ぼくにはもっと各人が自由に自分の意見を言い合えるような媒体の方が向いていたんだ。

だからYouTubeで動画を公開するという方法を選んだし、一度Twitterをやめてからはもう戻っていない。そもそも、Twitterって劇場みたいなところがあるじゃない? 建設的な対話をするよりも、他の人を叩いたり、論争をするだけのために発信をしたりする場所でしょう? それよりも、大学のキャンパスに行って学生たちとじっくり議論して、その動画をYouTubeにアップして、観ている人に議論を吟味してもらえるような形の方が、ぼくは好きだね。

ウィンターズのYouTubeチャンネルは、登録者数40万人以上、累計再生回数4,000万回以上という数字を達成しています。敬意に基づくじっくりとした対話スタイルが、多くの人たちから共感を得ているのかもしれません。


One 🍌 Thing

ちなみに……

バナナやアボガドの輸入品や農薬を使った国内農産物よりも、有機で地産地消の肉や卵の方が環境にいい? そんなイメージをもつ人も多いでしょう。しかし、食品生産の環境負荷を調べた最新の科学研究では、地産地消や有機といった要素はほとんど影響がなく、環境負荷を決定する最大の要因は品目であるという結果が出ています。

例えば、生産から消費までに含まれる1キログラム当たりの温室効果ガス排出量を比べてみると、地元産の有機たまごは輸入品のバナナの約6倍もの排出を伴います。

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Image: REUTERS/Jim Vondruska

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