Forecast:いよいよ終わる、ドル覇権

Forecast:いよいよ終わる、ドル覇権
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ニュースレター「Forecast」では、グローバルビジネスの大きな変化を1つずつ解説しています(これまでに配信してきたニュースレターはこちらからまとめてお読みいただけます)。

ロシアがウクライナに侵攻したことで、世界貿易において米国の金融システムを迂回する方法が示されつつあります。金融大手クレディ・スイス(Credit Suisse)で債券市場戦略を担当するゾルタン・ポザール(Zoltan Pozsar)は、以下のように説明します。

新型コロナウイルスのパンデミックによるサプライチェーンの混乱が続くなかで、欧米の厳しい経済制裁によって、巨大資源輸出国であるロシアが世界経済から遮断される事態が起きました。コモディティ価格は上昇し、インフレは急加速しています。こうした状況を追い風に、エネルギーや金属、穀物などの主要コモディティの生産国であるロシアは自国通貨のルーブル、もしくは人民元での支払いを要求しています(中国は輸出国として世界最大で、人民元さえあれば中国から必要なものを買えるのです)。

ポザールは3月末のリポートで、「かつては、買い手の側が『われわれには金がある』という態度だった。いまでは売り手が『われわれにはコモディティティがある』という状況になっている」と書いています。

各国が原油や穀物など主要コモディティティの確保に奔走するなか、米ドルおよび米国債の需要は落ち込みオフショア人民元が世界貿易を支配するようになる──。これは説得力のある未来図ですが、短期的には起こりそうにありません。ロシアも中国もコモディティティの支払い方法を変更させることには成功していませんし、グローバル通貨ではなく現物に支えられた貨幣システムは、大抵の投資家が求めるよりもはるかに不安定になってしまうはずです。

市場アナリストのジョゼフ・ポリターノ(Joseph Politano)は、「金本位制が廃れたのには理由がある」と書いています。金は、食べることも電力を生み出すこともできません。ポザールは原油と小麦の不足が市場のダイナミクスを変えていくと予想します。


CHARTED

チャートでみる

原油小麦の価格は前回のコモディティティブームだった2014年の水準よりも低いままです(一方で、リン酸[DAP]肥料の高騰は穀物価格のさらなる上昇を招く恐れがあるため、懸念材料となっています)。また、ドルと米国のテック輸出が再び勢いを取り戻す可能性もあります。

Commodity prices are rising but some are still below 2014 levels.
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THREATS TO DOLLAR DOMINANCE

ドル支配のこれまで

米ドルは第二次世界大戦の前から世界貿易における主要通貨でした。1971年にはブレトン・ウッズ体制が崩壊し、世界経済は変動相場制に移行します。しかしその後、現在にいたるまで、国(そして各国の金融機関)同士のモノやサービスの取引価格はドル建てになっており、投資家は外国為替の保有手段としてドル建ての金融資産(多くの場合は米国債)を選択してきたのです。

21世紀に入ってからは、欧州連合(EU)の拡大と中国の経済発展を背景に、ドルの後継通貨としてユーロおよび人民元の名が上がるようになります。EUや中国の経済規模が米国をしのぐようになれば、その影響力のために米国の金融システムに取って代わるだろうというのです。

現時点ではこうした事態はまだ起こっていません。2021年の時点で、世界各国の外貨準備高の59%は米ドルであり、米国の国内総生産(GDP)は世界全体の約2割を占めています。各国の外貨準備におけるドルの比率が低下しているのは事実ですが、最近の調査では、ドルの代わりに選ばれているのはカナダオーストラリア韓国など米国の同盟国の通貨であることがわかっています。そして、これらの国はいずれも米国との通貨スワップ協定の恩恵を受けています(下記のチャートは、外貨準備の通貨構成の推移を示したもの)。

A chart of global currency reserves since 2000 shows the dollar's continued dominance.
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連邦準備制度(FRS)のエコノミストによれば、ユーロと人民元には欠点があります。ユーロは単一の政府ではなく複数の独立国家が加盟する通貨同盟によって成立しており、英国のEU離脱で示されたように、不測の事態が起こる可能性を孕んでいます。一方、中国政府は人民元の自由な取引を制限しているほか、中央銀行の独立性も確保されていません。

中国が自由化など、人民元を投資家にとって魅力的な通貨にするために必要な措置を講じたとしても、共産党政府は一党独裁であり、さまざまなリスクは残ります。また、恒大集団(Evergrade)のような企業を巡る不確実性は、為替相場の管理とはうまく相いれないでしょう。


WHAT ABOUT ELECTRONIC MONEY?

デジタルが代替する?

ビットコインやイーサリアムをはじめとする暗号通貨は、(少なくともこれらの通貨に多額の投資をしている人たちの間では)ドルに匹敵する人気を誇ります。取引に遅延が生じたり、セキュリティ懸念があることを除けば、暗号通貨の最大の問題は流動性です。つまり、世界貿易を支えるには単純に量が足りないのです。

現時点で世界の暗号通貨の総量は約1.8兆ドル(228兆円)に上ります。それなりの金額ではありますが、例えば海外の投資家による米国債の保有高は7兆ドル(886兆円)に達しています。しかも、これは米国債の発行残高の3分の1に過ぎません。国際貿易で暗号通貨が重要な役割を果たすには、まずは流通量を増やさなければならないのです。

一方で、各国の外貨準備高におけるスイスフラン総額で250億ドル(3兆1,600億円)前後であり、安定した暗号通貨なら外貨準備の構成通貨の一翼を担うことは可能でしょう。また、分散型の通貨では中央銀行が一歩先を行っているようです。各国の政府主導でデジタルドルデジタル人民元の実験プロジェクトが進められており、こうした公的な電子通貨であれば民間のデジタルマネーが抱える問題が解消するかもしれません。


🔮 PREDICTION

今後の見通し

今後、米ドルが現在のような圧倒的な支配力を失っていくことは確かです。ただ、準備通貨には安定性安全性価値流動性が求められるため、この4つをすべて満たす通貨が現れなければ、ドルの覇権が揺らぐ可能性は低いでしょう。

問題はドルを代替できる通貨はどれか、またより現実的に言うなれば、いくつかあるグローバル通貨のうちどれが、ドルの衰退に伴って力を伸ばしていくのかという点です。

ポザールを含む一部の専門家は、中国が人民元を国際通貨にするために金融セクターの自由化を進めていくか、もしくは新冷戦のなかで各国が新たな決断を下す必要に迫られると考えています。

一方で、米政府や当局などが変化する経済動向に適宜対処していけば現状維持が続き、ドルは今後も世界貿易の主要通貨という地位を保っていくという見方もあります。いずれにしても、究極的にはドルの運命は政治によって決まるのです。


今日のニュースレターは、シニアレポーターのTim Fernholzがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。


ONE 💵 THING

ちなみに……

なぜここまでドルが好まれてきたのか? 米国に対する信頼はさておき、単純に紙幣のデザインがクールということもあるのかもしれません。

印刷の過程でなぜかデルモンテ(Del Monte)のシールが紛れ込んでしまった20ドル紙幣のことをご存知でしょうか。このエラー紙幣は2004年にATMで見つかり、2021年のオークションで39万6,000ドル(5,014万円)で落札されました。

The Del Monte $20 bill.

驚くべき金額ですが、「グランド・ウォーターメロン(Grand Watermelon)」の愛称で知られる古い1,000ドル紙幣に比べれば、たいしたことはありません。1890年に発行されたこの紙幣は、希少性に加えて数字の0がスイカのように見えるために人気を集め、コレクターにとっては垂涎の的となっています。2014年に行われたオークションでは、330万ドル(4億1,782万円)の値が付きました。

The "Grand Watermelon" $1,000 bill.

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