Climate:#12 日焼け止めにご用心(地球規模で)

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月曜夜のニュースレター「Climate Economy」では、毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのかどんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。

日差しの強い季節がやってきました。日焼けを防ぐだけでなく、皮膚がん予防のためにも紫外線対策は重要ですが、みなさんが使っている日焼け止めが、実は海洋環境に影響を及ぼしているかもしれないという事実をご存知ですか。

日焼け止めに含まれている紫外線吸収剤と呼ばれる成分は、サンゴの白化現象を引き起こすだけでなく、海洋環境を悪化させて生態系に悪影響を及ぼすことがわかっています。最近も、ポシドニアオセアニカ(Posidonia oceanica)という地中海固有の海藻の茎から、オキシベンゾンなどの化学物質が検出されたという論文が発表されました。現時点では具体的な影響は明らかになっていませんが、生物学者たちは海藻の光合成能力が低下し、枯れて死滅してしまう恐れがあるとの懸念を示しています。

スキンケア関連では数年前、一部の化粧品や洗顔料に含まれるマイクロプラスチックビーズ(マイクロビーズ)が海洋汚染を引き起こしているとして問題になったことがありましたが、日焼け止めについても同じようなことが起きているのです。地表に到達する紫外線の量は年々増加傾向にあり、日焼け止めは夏に限らず1年を通じて必需品になりつつありますが、何が問題なのかを見ていきましょう。


BY THE DIGITS

数字で見る

  • 135億ドル1兆7,600億円):2020年の世界の日焼け止め製品の売上高
  • 6,000〜1万4,000トン:1年間に海洋に放出される日焼け止めの量
  • 8万2,000種類:化粧品やスキンケア製品の成分で海洋汚染を引き起こす恐れのある化学物質の数
  • 10%:世界のサンゴ礁のうち日焼け止めの影響を受ける可能性のあるものの割合
  • 0.0000062グラム:1,000リットルの水の水質を汚染するのに必要なオキシベンゾンの量。日焼け止め1滴で、50メートルの水泳プール6.5個分の海水が汚染されてしまう計算になる

KNOW THE INGREDIENTS

日焼け止めの成分

日焼け止めに含まれる紫外線を防止する成分には、大きく分けて紫外線吸収剤紫外線散乱剤があります。英語では前者を使った日焼け止めは「chemical sunscreen」、後者は「mineral sunscreen(physical sunscreen)」と呼ばれていますが、吸収剤は紫外線を取り込んで化学反応で熱などに変換することで肌を守るのに対して、散乱剤は紫外線を物理的に反射します。

海洋環境に有害なのは前者の紫外線吸収剤で、なかでもオキシベンゾンオクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)はサンゴの白化の原因物質としてよく知られています。では紫外線散乱剤は大丈夫かというと、そうとも言い切れません。

散乱剤として主に使われている成分は、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムの3種類ですが、いずれも白色の無機物で肌に馴染みにくく、塗るとベタついたり白浮きしてしまうため、これを防ぐために粒子を細かくする技術が使われていることがあります。しかし、直径が100ナノメートル(1センチメートルの10万分の1)より小さい粒子は、物質の種類に関係なく海洋生物が取り込んでしまうのです。また、ナノ粒子は海洋生物だけでなく人体にも取り込まれていることがわかっています。

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Image: RON CHENOY-USA TODAY SPORTS

QUIZ

ここで問題です

以下の場所のうち、紫外線吸収剤を含む日焼け止めが使えないのはどこでしょう。

ハワイのワイキキ(Waikiki)

オーストラリアのボンダイビーチ(Bondai Beach)

インドネシアのバリ島(Bali)

ギリシャのザキントス島(Zakynthos)

答えは①ハワイのワイキキです。ハワイでは2018年にオキシベンゾンとオクチノキサートを含む日焼け止めの販売を禁止する法案が州議会を通過し、2021年1月に施行されました。米国ではフロリダ州キーウェストKey West)でも同様の規制が行われているほか、米領バージン諸島Virgin Islands of the United States)では2020年から、販売だけでなく有害成分の入った日焼け止めの持ち込みも制限されています。

米国以外では、カリブ海にあるオランダ領の島国アルバAruba)やボネールBonaire)、ミクロネシアのパラオPalau)が、特定の日焼け止め成分を禁止しています。また、メキシコは国レベルの法律はありませんが、コスメル島(Cozumel)やシェル・ハ(Xel-Ha)など一部地域では、非生分解性の成分の入った日焼け止めは使うことができません。

さらに、政府の規制とは関係なく、環境に悪影響を及ぼす可能性のある製品の販売をやめる小売店も増えているようです。英国では大手健康食品ストアチェーンのホランド&バラットHolland & Barrett)が今年3月から、紫外線吸収剤を使った日焼け止めの取り扱いを停止しています。


New Business, Small Business

商機はそこにあり

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2021年1月の施行にあわせ、ハワイのハプナビーチ州立公園に登場したのは、無料の日焼け止めディスペンサーでした。非接触型のディスペンサーに手をかざせば天然素材の日焼け止めが提供されるとあって、公園を訪れた人びとには大好評。このプロジェクトでは、自然保護団体のCoral Reef Alliance1% For The Planetの協力のもと、インディブランド「Raw Elements」の製品が提供されました。

法案が州議会を通過した2018年時点で、規制の対象外となる紫外線散乱剤を使ったmineral sunscreenを提供しようという動きはすでに活発になっており、『HAWAI‘I BUSINESS Magazine』によるとこの種の商品数も大幅に増えています。同紙によると、「Little Hands Hawai‘i」や「Mama Kuleana」といったローカルブランドへの人気も高まっているといいます。


HARMFUL CHEMICALS

海洋に有害な成分

米海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA)は、日焼け止めによく使われる成分のうち以下の10の化学物質について、海洋生物に悪影響を与える可能性があると警告しています。具体的には、緑藻の生育の阻害、サンゴの白化、貝や魚の稚魚の奇形化および生育能力の低下といったことが引き起こされる恐れがあります。

  • 3-ベンジリデンカンファー(3-Benzylidene camphor)
  • 4-メチルベンジリデンカンファー(4-Methylbenzylidene camphor)
  • オクトクリレン(Octocrylene)
  • ベンゾフェノン-1(Benzophenone-1)
  • ベンゾフェノン-8(Benzophenone-8)*別名:ジオキシベンゾン
  • ジメチルPABAエチルヘキシル(Ethylhexyl Dimethyl PABA)
  • ナノ粒子化した酸化チタン(nano-Titanium oxide)
  • ナノ粒子化した酸化亜鉛(nano-Zinc oxide)
  • オクチノキサート(Octinoxate)*別名:メトキシケイヒ酸エチルヘキシル
  • オキシベンゾン(Oxybenzone)

また、水に濡れたり汗をかいても落ちにくいウォータープルーフの日焼け止めの多くは、PFAS類(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)という炭素とフッ素が結合した有機フッ素化合物を含んでいます。PFASは化学的な安定性が非常に高く、自然界や体内で分解されずに蓄積するため、「永遠の化合物forever chemicals)」とも呼ばれます。

PAFS類は非常に種類が多いのですが、特に有名なペルフルオロオクタン酸(PFOA)類ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)類はいずれも、残留性有機汚染物質(POPs)を減らすことを目的としたストックホルム条約で対象物質に指定され、規制が強化されました。


CHOOSE THE RIGHT SUNSCREEN

日焼け止めの選び方

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いろいろな化学物質の名前を挙げてきましたが、これをすべて覚えておくのは至難の業。そこで、日焼け止めを選ぶときの簡単なチェック項目をまとめておきましょう。

まず、「紫外線吸収剤不使用ノンケミカル)」もしくは「紫外線散乱剤タイプ」のものを選ぶようにしてください。自然派化粧品は一般的に散乱剤タイプの日焼け止めが多いのですが、オーガニックであれば必ず吸収剤不使用というわけではありません。できれば成分を調べて、紫外線散乱剤(酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムのいずれか)が使われていることを確認するといいでしょう。

また、ノンケミカルでもナノテク化粧品は海洋生物に悪影響を与えます。日本ではナノマテリアルは化粧品やスキンケア製品については表示義務がないため、パッケージを見ただけではなかなかわかりませんが、ウェブサイトなどでナノ粒子を使っていないことを明記しているブランドも多いので、購入する前に調べてみるといいかもしれません。


ONE 🌞 THING

ちなみに…

紫外線対策は重要ですが、その方法は日焼け止めだけではありません。NOAAは、長袖や長ズボン、帽子、日傘、サングラスなどのアイテムを着用する、10〜14時までの紫外線が強い時間帯はなるべく日陰にいるといったことを推奨しています。

また、日焼け止めを塗るのを忘れて日に焼けてしまった場合は、まずは肌を冷やして炎症を抑えるようにしてください。肌のほてりが寝ったら十分な保湿ケアを行うと同時に、水分補給を心がけましょう。また、サプリメントなどでビタミンAやビタミンC、ビタミンEを補給するのも肌にいいそうです。


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