月曜夜のニュースレター「Climate Economy」では、毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのか、どんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。
世界では、毎年700万人が大気汚染によって亡くなっている──。2021年のCOP26を前に世界保健機関(WHO)はそう指摘し、化石燃料に頼らないエネルギー施策のいち早い実行を求めました。
世界の大気汚染を国レベルでみてみるとまず名前の挙がるのがインドで、大気中のPM2.5濃度が高い順に世界の都市を並べると、上位10都市のうち、インドは実に6都市が並びます(2021年、大気汚染情報をまとめているスイス企業IQAir調べ)。とくに冬のデリーでは「野焼き」による大気汚染が深刻で、学校の休校や飛行機の欠航など、経済活動を止めてしまうほど。
かくも深刻な公害と同時に、都市内の移動に大きな課題を抱えるインド。それらの課題を解決するソリューションとして電動自動車(EV)市場が盛り上がっていますが、インドの場合、「EV」とは、必ずしも四輪車を指すわけではありません。
今月12日にはフォードがインドにおけるEV生産計画を白紙に戻したほか、テスラのインド進出も不透明なままで、決してバラ色とはいえないインドのEV事情ですが、今日はその秘めたる可能性をみてみましょう。
booming EV
EV化のインパクト
インドにおけるEV市場はいまのところはまだ小規模で、人口13億人、登録台数2億台以上を数えるインドにおいては、さざ波のような存在だと言わざるをえません。インドで自家用車をもつ人は少なく、人びとは自転車や電車、バス、乗り合いサービスなどで移動しています。
しかし、近年の経済成長は、新たに2億人以上の自動車オーナー(この場合、四輪に限りません)を生み出そうとしています。カーネギーメロン大学の調査チームは、そうした新たな人びとが最初に購入する自動車の大半が二輪車であること、そして、その多くが10年以上にわたって使用される可能性があるとしています。チームは、彼らに対し、魅力的なEVを提供することの重要性も指摘しています。
get on the bench
プレイヤー、続々
インドで人気の電動スクーターといえば? 現地のレビューサイトでも人気モデルとして挙げられる「Ather 450X」(本体価格約23万円)は、時速80キロ、走行可能距離75キロを実現したモデル。製造・販売するEVスタートアップAther Energyは2013年に創業し、VCのTiger GlobalやFlipkartのファウンダーらから総額9,100万ドルを調達し、独自の充電ネットワークも構築。サブスクリプションモデルも提供しています。
シェア20%を獲得しているOkinawaの名前の由来は日本の「沖縄」ですが、ファウンダーはインド人のJeetender Sharma。彼が沖縄を訪れた際、その空の美しさに感動し、その名をブランド名にすることを思いついたそうです。
voluntary vehicle scrapping policy
政府の後押しも
インド政府は2019年3月、公共バスやハイヤー、二輪車に重点を置き、リチウムイオン電池搭載のEV/ハイブリッド車の購入に約1,600億円の助成金を供出する計画を発表しました。
さらに21年3月には、自動車の買い換えを促す「自主廃車政策」(voluntary vehicle scrapping policy)を発表しています。この政策の対象となるのは製造から15年以上が経過した商用車および20年が経過した乗用車で、自主的に廃車したオーナーに対して、メーカーが新車購入代金からキャッシュバックすることなどが盛り込まれています。
世界的な傾向からすると、この自主廃車政策は「あり」。2008年に世界を襲った経済危機のもと、日本や米国、欧州諸国では廃車政策を実施しています。ニューデリーに拠点を置くIndia Ratings and Researchのアソシエイトディレクター、Shruti Sabooは「米国、ドイツ、英国、日本などは、インセンティブベースの廃車政策を導入し、その後の四半期に需要を大きく伸ばした」と説明します。
インドの人びとにとって古いクルマを実際に廃車にするには、相応のインセンティブが必要だとする指摘もありますが、発表の際、インド財務相のニルマラ・シタラマンは「これによって燃費のよい、環境にやさしいクルマの購入を支援し、クルマ由来の大気汚染を食い止め石油輸入費も削減できる」と述べています。
Two-wheelers catching fire
原因はバッテリー?
期待高まるインドの電動スクーターですが、今年3月には、わずか4日間で少なくとも4台の電動スクーターが炎上事故を起こし、2人が命を落としています。
3月24日、東部タミル・ナードゥ州では、充電中のまま放置されたOkinawaのスクーターが火災を起こし、26日には、プネー近郊で駐車中のOla Electricのスクーターが、さらに翌日には、タミルナドゥ州のティルチラッパリ地区で別のOkinawaのスクーターが火災に見舞われたことが報じられました。
国家運輸安全委員会が最近発表した調査結果によると、10万台の販売台数あたり、ハイブリッド車の火災は平均3,475件、ガス車の火災は1,530件、EVの火災は25件だとされており、今回の火災事故をEVの地位を揺るがすものだとみない向きもあります。
しかし、「EVスクーターに投資するつもりでOla Electricの新車レビューもいろいろ見てきたが、今回の事件で分からなくなった」とQuartzに語るインドの起業家も。
4月末時点で、Ola、Okinawa、Pure EVの3社はリコールに踏み切っており、計6,000台以上が対象になっています。これらのリコールにおいては、いずれもバッテリーの欠陥が指摘されています。
One ⚡️ Thing
ちなみに……
EVの普及には、それを充電するための充電ステーションのインフラ整備が欠かせません。2021年12月の時点で、国内に設置されている公共のEV充電ステーションはわずか1,028基。インドでのEV普及台数は2026年までに200万台以上になるとの試算もありますが、一方で必要となる充電ステーション数は40万基とされており、まったく足りていません。
改善のためのインフラ整備には、政府をはじめ民間企業も手を挙げています。Olaは4,000基のハイパーチャージャー設置を、Tata Powerは1,000基の充電ネットワークを発表しているほか、クリーンエネルギーソリューションを提供するMagentaグループは駅に街灯一体型の充電ステーションをはじめ、4,500基の充電器設置を開始しています。
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