ニュースレター「Forecast」では、グローバルビジネスの大きな変化を1つずつ解説しています(これまでに配信してきたニュースレターはこちらからまとめてお読みいただけます)。
空飛ぶクルマを使って通勤したことはありますか? では、地元のカフェに行ったら人間そっくりのロボットが注文を取っていたことは?
SFのような「未来の世界」に存在するものの多くは、まだ実現していません。しかし、いまわたしたちが暮らす都市は、それこそが技術革新の実験の場。目の前の風景は、テクノロジーによって大きく変化しています。
例えば、ライドヘイリングは人びとの移動に革命をもたらし、5Gはコネクティビティをさらに強化しつつあります。韓国では4月、気候変動による海面上昇への対策として釜山沖に建設予定の海上都市の完成予想図が公開されました。
10年ほど前から、都市計画において「スマートシティ」という概念が注目を集めるようになっています。これはさまざまなデジタルツールを活用してデータ収集やシステムの接続を進め、都市の管理と運営を効率化するというアイデアです。しかし、これまでに語られてきたことの多くはまだ実用化されておらず、構想そのものがプライバシーを巡る懸念から批判も受けています。
近い将来、都市はどのように変化していくのでしょう。もちろん、世界中のすべての場所が同じスピードで未来に進んでいくわけではなく、先進国の裕福な都市は技術革新の恩恵を受ける上で有利な立場にあるのに対し、取り残される都市もあります。それでも、テクノロジーは都市の様相と機能を確実に変えていくのです。それでは、都市の変革について4つの観点から考えてみましょう。
table of contents
- 環境に優しい建築
- 監視すべきは人じゃない
- 無人配達の可能性
- バーチャル化はいつ?
#1: A BETTER KIND OF BUILDING
環境に優しい建築
地球の表面積に占める都市の割合はわずか3%に過ぎませんが、世界の温室効果ガスの4割近くは都市部で排出されています。都市を構成する建物は持続可能性を高めると同時にコストを抑えさせ、多目的になっていく必要があります。
現在、世界の大都市のスカイラインにはガラスと鉄鋼でできた超高層のオフィスタワーが点在していますが、今後は例えば集成材のような、より環境に優しい建築資材が選ばれていくかもしれません。また、屋根にソーラーパネルを設置したり、ファサード全体で太陽光エネルギーを取り組むといった工夫もなされていくでしょう。冷暖房システムはすべてが再生可能エネルギー由来の電力で賄われるほか、建物の電力はすべてが一元管理され、自動で最適化されます。
建物にはオフィスだけでなく住宅や広場のような場所も設けられるはずです。ひとつの建物の内部で居住と労働が完結し、余暇もそこで過ごすといった生活が可能になるかもしれません。こうした複雑かつダイナミックな建物を実現するには、設計から建設、運用に至るまで建築プロセスを完全に見直す必要があると、レンドリース・デジタル(Lendlease Digital)の最高経営責任者(CEO)ビル・ルー(Bill Ruh)は説明します。レンドリース・デジタルは不動産開発のサプライチェーンを効率化するためのソフトウェアを手掛けています。
ルーは「現在のやり方では人手が足りなくなるため、効率的な方法を考えざるを得なくなるでしょう。全体的にスローダウンする可能性は大きいと思います」と話します。建物の設計と運用の自動化においては、機械学習のようなデジタルテクノロジーや、モジュール建築といった手法が役割を果たしていく見通しで、”スマートな”建物を短時間かつ低コストで完成させることが可能になるでしょう。
ルーによれば、開発現場では非常に高度な人工知能(AI)や分析ツールが使われ、サプライヤーはレゴのブロックのような形で部材を提供するようになります。工期を短縮し、より持続可能な方法で建設を進めるためには、さまざまな資材をどのように組み立てていけばいいかを理解しなければなりません。
#2: SENSORS ON EVERYTHING
監視すべきは人じゃない
スマートシティの根幹を成すのは、相互接続されたセンサーやカメラ、各種デバイスによる24時間のデータ収集と、そのデータの徹底した分析です。これは「モノのインターネット(IoT)」とも呼ばれてきました。
IoTテクノロジーは何年も前から実装されてきましたが、近年はどの程度の規模でどのようなデータの収集が行われているのかを巡る懸念が高まっています。交通の観測、顔認識、位置情報追跡などのテクノロジーが監視目的で使われており、プライバシーの侵害に当たるとして批判を受けています。
こうしたなか、都市計画の専門家たちは、人間ではなく都市を取り巻く環境やインフラへの監視を拡大するよう呼びかけています。例えば、大気の状態や廃水の流れ、洪水の危険性、街灯といったものです。将来的には、都市インフラの管理においてセンサーが果たす役割が拡大していきます。コンピュータービジョンやAIシステムを活用して、道路や橋、下水道などの状態をモニタリングし、必要な場合は迅速に修理を行うのです。廃棄物処理、騒音公害の監視、鉄道事故の防止といったことにも、センサーが使われるようになるでしょう。
コーネル大学のキャンパス「コーネル・テック(Cornell Tech)」で都市計画関連のテクノロジーを研究するマイク・ブルームバーグ(Mike Bloomberg、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグとは無関係)は、「何を計測するかが問題です」と言います。「これまでは人間を対象としたデータ収集が非常に重視されてきました。しかし今後はこれを減らし、代わりに物理的な都市インフラに関するデータの収集を強化すべきです」
RANKINGS INTERLUDE
ランキングでひと休み
世界でもっとも”スマートな”都市はどこでしょう。シンガポール工科デザイン大学(Singapore University of Technology and Design)とスイスの国際経営開発研究所(International Institute for Management Development)は共同で、世界の118都市についてスマートシティ指数を割り出しました。
研究者たちは、モビリティや安全性、ガバナンス、およびこれらを統合してアクセシビリティや効率性を高めるためにテクノロジーがどこまで活用されているかについて、各都市の住民に直接聞き取り調査を行っていました。2021年に高得点を得たのは以下の10都市です。
シンガポール
チューリッヒ
オスロ
台北
ローザンヌ
ヘルシンキ
コペンハーゲン
ジェノヴァ
オークランド
ビルバオ
#3: AUTONOMOUS DELIVERY
無人配達の可能性
電気自動車(EV)の普及、市内中心部を走る車の減少、配車サービスの拡大、eスクーターのような「マイクロモビリティ(micromobility)」の手段の増加といったことをはじめ、都市の移動は絶え間なく変化しています。ただ、大きく変わっているのは人の移動よりもモノの移動です。
小売業界のアナリストが予想するように電子商取引が今後も拡大するのであれば、自治体や企業は都市空間での倉庫の確保、フルフィルメント、配送のための新しい方法などを見つけなければなりません。ラストマイル配送では、ドローンや配達向け電動バイクなど化石燃料に依存しない乗り物が必要になります。
都市計画の専門家でスマートシティに関する著作もあるアンソニー・タウンゼント(Anthony Townsend)は、自動運転の最良の活用法のひとつは貨物輸送だと考えています。タウンゼントは「人間が乗っていないと自動運転のハードルは下がります。乗客の安全を気にしなくてもよく、また他の車と比べてはるかに遅い速度で走行できるほか、より狭い区域での運用も可能です」と話します。
神奈川県藤沢市のスマートシティ「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」では現在、自動配送ロボットの実証実験が行われています。また、米国ではフェデックス(FedEx)が6月から、無人の自動運転トラックによる長距離輸送を始める方針です。
#4: THE VIRTUAL CITY
バーチャル化はいつ?
今後はさまざまな都市機能がメタバースと呼ばれる仮装空間に移行していくでしょう。ソウル特別市は昨年、韓国の地方自治体としては初めてメタバースのプラットフォームを独自に構築する計画を明らかにしました。仮想の市庁舎を設け、文化イベントなどを実施していく予定です。スペインのカタルーニャ自治州も1月にメタバースのプラットフォームを立ち上げ、現在は主に企業に対して行政サービスを提供しています。
ビッグテックが運用するメタバース空間と同じで、「メタバース都市」も機能的にはまだあまり充実しておらず、ほとんどの市民にとってはリアル空間での都市の代わりにはなっていません。現未点ではむしろ政府が市民とつながったり、観光客やビジネスを惹きつけるためのツールとして機能しているのです。
一方で、デジタルツイン(digital twin)と呼ばれるテクノロジーはすでに実用化が進んでいます。これは建物や道路、下水道、地下鉄などのインフラを3Dで細部まで正確にコピーして都市のデジタルのレプリカを構築するもので、リアルタイムで更新していくことが可能です。
一般市民が目にすることはほとんどありませんが、インフラプロジェクトや建物の建設などが現実の空間にどのような影響を与えるかを事前にシミュレーションすることができるため、都市計画においては非常に有用なツールとなっています。
コーネル大学のブルームバーグは、デジタルツインは都市計画を大きく変えていくと考えています。ブルームバーグは「仮想空間で物体を視覚化するだけでなく、それに関わってくるデータポイントを知ることができます。これはデジタルツインがなければ非常に困難です」と言います。「都市インフラの建設や運営、維持にかかるコストを数兆ドル単位で減らすことが可能なだけでなく、建物の崩壊といった事態の防止にも役立ちます」
今日のニュースレターはシティレポーターのCamile Squiresがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。
ONE 💸 THING
ちなみに……
マイアミ市長のフランシス・スアレス(Francis Suarez)は、スマートシティよりもブロックチェーン(分散型台帳)に入れ込んでいるようです。マイアミは独自の暗号通貨「マイアミコイン(MiamiCoin)」を発行しており、スアレスはこれを強く後押ししています(その暴落も報じられていますが)。
都市テクノロジーの専門家たちは、スマートシティで使われるテクノロジーやIoTネットワーク、デジタルIDといった分野のセキュリティと透明性を向上させていく上で、ブロックチェーンはさまざまな可能性を秘めていると考えています。しかし、暗号通貨となると話は別でしょう。タウンゼントは「すべてのエネルギーが暗号通貨に注ぎ込まれています。これはただのギャンブルですから、残念だと思います」と話しています。
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