週の最後に、今週の注目ニュースをチェックしておきましょう。Quartzで配信し、世界の読者が話題にした5本のニュースのサマリーもお届けします。
「フレンドショアリング」(friendshoring) ほど、厄介な言葉もないでしょう。これは、「同盟国」や「友好国」など政治的に緊密な関係にある国に限定してサプライチェーンを構築するというビジネス戦略を表すある種のバズワードです。それだけ聞けば話は単純なように思われますが、実のところその概念は厄介なもので、世界経済にダメージを与えかねないものなのです。
この2年間、COVID-19と政治情勢は、世界のサプライチェーンを苦境に陥れてきました。厳しいロックダウンを実施するという中国の政治的な決断は、世界的な輸送・製造の遅れにつながりました。ロシアのウクライナ侵攻は小麦不足を招き、欧州はエネルギー供給ラインを早急に再編する必要に迫られました。米国とEUは、中国との関係で政治的に不安定さを抱える台湾への依存度を下げるため、自国の半導体製造工場に投資しています。
サプライチェーンが政治によって危険にさらされていることを考えれば、企業・政治のリーダーがフレンドショアリングによってサプライチェーンを回復できるのではないかと検討し始めたのも不思議ではありません。
つまり、欧州が米国からガスやレアアースを購入し、オーストラリアやカナダに半導体チップを供給するようになれば、ロシアや中国に依存するよりも確実に「政治的な嵐」を切り抜けられるに違いない、というわけです……が、果たして実際は、まったく別の問題につながることになるでしょう。
HOW FRIENDSHORING IS BAD FOR BUSINESS
ビジネスに落とす影
- まず、フレンドショアリングは時代に逆行している。冷戦集結から30年が経ったいま、世界はかつて既定路線としてフレンドショアリングをとっていたことを忘れがちです。米国とソ連はそれぞれ影響圏をもち、各国はどちらかの側に立つことを余儀なくされました。そして、冷戦の終結は、世界がより開放的になることを約束したはずでした。国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、最近開かれたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、フレンドショアリングが「分裂した世界への後退」を示している、と指摘しました。「貿易圏と通貨圏が、これまで統合された世界経済だったものを分離しつつある」というのです。
- 貧しい国々に悪影響を与える。グローバル化には欠点があるものの、発展途上国にとってすれば、世界経済に参加することで繁栄がもたらされたという経済効果もあります。経済学者のラグラム・ラジャンは最近、フレンドショアリングについて「より豊かに、より民主的になるために世界貿易を最も必要としている貧しい国々を排除することになる」と書いています。彼はこうも指摘しています。「これらの国が破綻国家となり、テロリズムを育み、輸出するための肥沃な土地となる危険性を高めるだろう」
- 値上げせざるを得なくなる。これまで長い間、グローバル経済は労働と生産のコストを調整し、人びとに安価なデバイス、衣類、家庭用品、その他多くのものを提供してきました。この機会が失われ、例えば欧米諸国が材料や部品を自国内だけで調達するようになると、コストは大幅に上昇し、社会的不満が高まることになるでしょう。グローバルな政治リスクを回避しようとするあまり、フレンドショアリングは自国に新たな政治リスクを生み出すことになるのです。
- 言うほど簡単じゃない。この2年間で非常に脆弱に見えるサプライチェーンですが、思っている以上に強固で、なればこそ再構築もまた困難です。『The Wall Street Journal』がある温水浴槽のサプライチェーンを分析していますが、それによると、米ユタ州で浴槽を組み立てている会社は、7カ国から集められた1,850の部品を使用していることがわかりました。このようなサプライチェーンを、それも欧米だけを経由するようなかたちで再構築するのは困難で、コストもかかります。
WHAT TO WATCH FOR NEXT
注目すべき4つの動き
- 在庫のレベル。世界はさまざまな意味で予測不可能になったため、企業はサプライチェーンに問題が生じた場合に備えて、部品や製品の在庫を多めに確保するようになるでしょう。英国とアイルランドの200の企業を対象にしたある調査によると、85%の企業がすでにこのような取り組みを始めていることがわかりました。
- 非同盟主義の復活。冷戦時代、アジアやアフリカの多くの国々は、自らを「非同盟」と宣言し、西側諸国とソ連のどちらのブロックにも属さないことを望んでいました。いま新たなブロックが形成されたとして、特に発展途上国の国々は、双方と取引することが経済的利益につながると再び判断することになるでしょうか?
- リショアリング(生産の国内回帰)。他の友好国を経由するサプライチェーンよりも強固なものとはなんでしょう? それは、自分の国だけで完結するサプライチェーンです。半導体チップの製造を米国に戻そうという動きと同様に、今後もさまざまな試みがなされることが予想されます。
- EUの石油供給源。年末までに大部分のロシア産原油の輸入を禁止することに合意したEUは、今後、石油供給でフレンドショアリングをしなければならなくなるでしょう。イラク、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などの中東諸国が不足分を補うことになるとみられます。
今日のニュースレターは、QuartzのSamanth Subramanianがお届けしました。
5 GREAT STORIES FROM Quartz
今週のニュース5選
- 🌶 ピリ辛ソースのツラい状況。タイ発祥で米国でも人気のシラチャーソースが、いま入手困難になっています。原因は原料となる唐辛子が干ばつにより不足していることにありますが、年間1億5,000万ドルの売上を誇るHuy Fongは深刻な供給危機に直面しており、事業者に対して、同社製品の出荷は約束できないとしています。米国内の食料品店では、消費者が買いだめに走っています。
- 🛍 ロシアに残る企業リスト。ウクライナ侵攻を機に、ロシアからは1,000社近い企業が国外に流出しています。マクドナルドやスターバックスの撤退は大きく報じられていますが、一方で、400社以上の主要企業がロシア市場に留まっています。イェール大学のデータベースによると、サンドウィッチチェーンのサブウェイ(Subway)やピザチェーンのドミノピザ(Domino’s Pizza)のほか、テック企業ではアントグループ(Ant Group、中国)、ファーウェイ(Huawei、中国)のほか、日本の富士フイルム、東芝などがロシアでの事業を続けています。
- 📉 ビットコイン暴落。米ビジネスインテリジェンス企業のMicroStrategyは、14日現在で12万9,218ビットコインを保有していますが(同社に次いでビットコインを保有している企業、テスラの2.5倍以上)、そのビットコインの価値は現在約29億ドル。2カ月前と比べれば、その価値は実に半分以下です。同社社長のフォン・レスは遡ること5月、決算説明会において「ビットコインが2万1000ドル前後の値となれば、マージンコールすることになる」と述べていましたが、現状は、まさにその通りの事態になっています。
- 💸 人材不足対策は「ばらまき」。香港では、「パンデミック対策プログラム」が外国人に対しても適用され、8月には非永住者および留学生に対して、5,000香港ドル(約8万5,770円)が支給されることになります。この方針には、厳密なゼロコロナ政策下での経済刺激策としてはもちろん、深刻な人材流出を食い止めるための側面もあります。2020年の国家安全維持法の施行以降、国外への退去が進んでおり、昨年だけで8万9,200人が香港を去っています。
- 🚗 テスラは安売りしない。15日、テスラは今年4度目の値上げを実施しました。テスラは頻繁に価格を微調整していますが、その理由を説明することはほとんどありません。ただし、この2年間でテスラは半導体の不足やパンデミックによる上海の工場閉鎖、ニッケルなどの主要バッテリー金属のコスト上昇に対処してきました。ちなみに、ゼネラルモーターズ(GM)は同社で最も人気のあるEV「シボレー・ボルト」の価格を2019年以降、29%引き下げていますが、同じ期間、テスラはモデル3(標準レンジ、後輪駆動)の価格を約25%、モデルY(ロングレンジ、全輪駆動)で29%引き上げています。
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