週の最後のニュースピックアップ。今日お伝えする注目ニュースは、今月11日に報じられた、米GSのESG投資ファンドに対する規制当局の調査の続報です。
「グリーンウォッシュ警察」がサイレンを鳴らしてウォール街に駆けつけています。
この場合のグリーンウォッシュとは、投資商品などで実態が伴わないのに環境に配慮しているように見せかけること。今月、米証券取引委員会(SEC)が米ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)に対し、運用する一部の投資信託のESG(環境・社会・企業統治)情報を誇張している可能性があるとして調査を進めていることが明らかになりました。
これは、米国とヨーロッパの規制当局がESG投資業界で幅広い取り締まりを進めるなかでの、最新の動きです。SECは昨年、ドイツ銀行(Deutsche Bank)のESG調査を開始し、今年5月にはフランクフルト本社にドイツの検察・金融当局が家宅捜索に踏み込む事態へと発展しました。また、SECは米バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY Mellon)にも 、「ESGで考慮すべき事項に関する虚偽の表示と省略」があったとして、150万ドル(約2億円)の罰金を科しました。
こうした調査はすべて、ESGラベルの付いた投資ファンドに組み込む企業株を選択する際に、二酸化炭素排出量から役員の多様性まで、あらゆるESG基準を考慮したかどうか、どのように考慮したかという観点を中心に進められています。ESGファンドはいまや、ウォール街で最も注目されている投資商品のひとつであり、2021年には2兆7,000億ドル(約364兆円)規模に到達。それゆえに、デュー・デリジェンス(査定)がきちんと行われないまま、ESGのラベルを何にでも貼り付けようとする動きがありました。
しかし、一連の調査は、より深刻な問題に関するSECからの警告でもあるのです。ESGで考慮すべき事項は、たとえ忠実に適用されたとしても、人によってもつ意味が異なり、特に気候変動への影響を測るには不適切だということです。例えば、S&P500 ESG指数が、石油・ガス会社を何社も構成銘柄に含みながら、世界トップの電気自動車メーカーである米テスラ(Tesla)を構成銘柄から除外したのは、そのためです。
この2カ月の間にSECは、上場企業がどのように気候データを開示し、ファンドマネジャーがESGのラベル付けにあたってそれをどのように活用するかを規定する規則案を発表し、ESGをめぐる見直しは、ジョー・バイデン大統領の気候政策の中心に置かれることになりました。つまり、ESG関連のルールが強化されれば、本当に気候変動に配慮している企業により多くの資金が流れるようになる、という考えからです(ただし、テスラが安全性や労働環境に関する問題を解決できない限り、このルールは同社がS&P500 ESG指数の構成銘柄に復帰するための役には立たないでしょう)。
この規則案は、今後数カ月の間に官僚的な承認プロセスを通過することになる一方で、SECは既存の規制を利用してだらしないESG慣行を取り締まり、最も悪質なグリーンウォッシュについては止めさせなければならない、というメッセージを送っています。これは、ファンドマネジャーにESGラベルの使い方を再考させることになるでしょうが、グリーン投資や社会的責任投資(SRI)への意欲をそぐことにはならなさそうです。
米下院金融委員会にかつて所属していたKatelynn Bradleyは(こうした意欲について)「減速するとは思わない」と述べています。「これはすべて投資家の需要に基づいており、それが変わるとはまったく思えない」
The Backstory
背景を整理する
- そもそもESGってなんだったんだろう? ESGの最大の問題は、企業の強み、弱み、オペレーション、人材、リスク、機会に関する膨大なデータを、ひとつの評価に落とし込まなければならないことです。企業によっては、異なる基準をカウントしたり、あるいは、別の基準をより重視したりすることもあります。法律事務所アレン・アンド・オーヴェリー(Allen & Overy)で環境・金融規制を担当する弁護士のKen Rivlinは、「もし、最高の育児休暇制度をもつ石油・ガス会社があったらどうだろう?」と問いかけます。「あるいは、オーガニックヘンプのスニーカーを製造している会社が、ひどい職場環境だったら? このような判断を下すことに、どういったレベルの意味や生産性があるのか? はっきりしない」
- イーロン・マスクは大いなる不満を明らかに。テスラCEOのイーロン・マスクは5月、格付け手法の曖昧さから、ESGは「詐欺」だと述べました。彼の指摘するとおり、一般的にESG評価は、テスラのEVがガソリン燃料車のような温室効果ガスを排出しないことなど、重要なプラスの影響を十分に反映できていない面があります。一方、安全問題や労働条件に関するテスラの乏しい実績は、ESG評価で考慮されてしまいました。また、ESG評価は、多くの内部データを公表している企業を評価する傾向にありますが、テスラはこの点でも低い評価を受けています。SECはより多くの気候関連の情報開示を義務化する規則を策定中で、これにより競争環境が公平になる可能性もあります。
- ESGは排出量削減にさほど寄与していない。主要な炭素排出企業でもいまだにESG評価は高く、ESGラベルのついたファンドのような専門的なファンドは、その価値の最大20%まで非ESG資産をもつことが法律で認められています。その結果、多くの大手ESGファンドは、収益1ドルあたりのCO2排出量では、市場平均よりわずかに少ない程度にとどまるのです。
NUMBERS FOR YOUR CONVERSATION
数字でみる
- 121:2021年に新規設定されたESGファンドの本数。前年は73本
- 2兆ドル:2018年に欧州でグリーンウォッシング防止規則が導入された際、ESGを謳えなくなった金融商品の総額
- 0.35:S&Pによる銀行のESGレーティングにおいて、炭素排出量に対するポイント(100点満点)
- 18億ドル:2021年に資産運用会社がESGファンドの運用で得た手数料
WHAT TO WATCH FOR NEXT
注目すべき5つの動き
- 最終的なルールが策定される。気候変動に関する情報開示規則案のパブリックコメント期間は6月17日に終了しましたが、ESGファンド規則案についてはまだコメントを受け付けています。どちらも年内にも最終決定されるとみられ、炭素排出量の多い企業グループからの訴訟に直面することはほぼ間違いないでしょう。
- 罰金を科される企業も出てくる。その間にも、SECの捜査網に引っかかる企業は増えるでしょう。しかし、Katelynn Bradleyは、新しい規則が完成し、最もあからさまな偽装を行っている企業が見せしめになれば、摘発のペースは落ちるかもしれないと見ています。「彼ら(SEC)は、規則を守るために誠実に努力する企業を追及するつもりはないだろう」
- 声を上げる内部告発者も。ドイツ銀行に対するSECの調査は、同社の元トップアセットマネジャーであるDesiree Fixlerが、同社のESG分析が薄弱なデータに基づいていると主張したことに端を発しています。資産運用会社の米ブラックロック(BlackRock)も、サステナブル投資の元最高責任者、Tariq Fancyが、ESGからの離脱を表明しています。しかし、SECの取締官は電話が鳴るのを待っているわけではないと、Ken Rivlinは言います。「情報提供を待っているだけではなく、彼らは開示情報を読み、市場を監視しているのだ」
- ESGのパフォーマンスは? 一部の大手ESGファンドのパフォーマンスは今年、市場平均を下回っています。これは、株価が急落している大手ハイテク企業に偏重する傾向にあることが一因です。一方、石油・ガス会社の株価は急騰していますが、これらの企業は通常、ESGファンドでは過小評価されています。
- 米国はヨーロッパに追いつけるか。ヨーロッパはESG基準の策定において、米国より数年先行していますが、SECの新規則はそれに完全に合致しているわけではありません。両地域でビジネスを展開する企業にとって、これは大きな頭痛の種になりかねない、とKen Rivlinは指摘します。「ていねいな言葉に言い換えれば、大混乱の状態(goat rodeo)だ」
今日のニュースレターは、QuartzのTim McDonnellがお届けしました。
ONE 🎯 THING
ちなみに……
ESG投資についての規制は厳密ではなく、企業が見せかけだけの気候変動対策の陰に隠れるのを阻止できずにいます。
オックスフォード大学が今週発表した分析によると、世界の大企業702社のネットゼロ目標のうち実に65%が、排出量削減を期限内に実現するだけの信頼性のある計画による裏付けがなされていません。SECの新ルールによって、投資家が隠された“ボンネットの中”をよりつぶさに伺い知れるようになれば、こうした計画の質も改善されるかもしれません。
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