月曜夜のニュースレター「Climate Economy」では、毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのか、どんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。
食品廃棄が大きな問題であることは誰もが認める事実です。国際連合食糧農業機関(FAO)の推定では世界の食品廃棄は年間13億トンと、食料生産量の実に3分の1に上ります。また、廃棄されて無駄になった食品の生産過程で生じた温室効果ガスは食品生産全体の4分の1を占め、世界の温室効果ガスの総排出量の6%に達しているのです。
こうしたなか、英国で賞味期限と消費期限をめぐる面白い取り組みが始まっています。生活協同組合コーポラティブ・グループ(Co-operatives UK、コープ)は4月、自社ブランドのヨーグルトから消費期限(used-by date)の表示をなくすと明らかにしました。今後は賞味期限(best-before date)に切り替える方針で、顧客には見た目やにおいで食べられるかを判断するよう呼びかけています。
ヨーグルトは消費期限を過ぎても、腐敗したりカビが生えたりしていなければ通常は食べても問題はありませんが、英国の家庭では年間5万4,000トンのヨーグルトが期限切れのために廃棄されています。これは全販売量の9%に相当し、そのうち半分は未開封のまま捨てられているそうです。
食品表示やパッケージに工夫を加えることで廃棄を減らそうという努力は他にも行われており、例えば1月には、大手スーパーのモリソンズ(Morrisons)が自社ブランドの牛乳の消費期限をやはり賞味期限に切り替えると発表しました。牛乳は生産する過程で1リットル当たり最大4.5kgの二酸化炭素(CO2)が排出されていますが、それにもかかわらず、英国で期限切れのために廃棄される牛乳の量は推定で年間4,830万リットルに上ります。
食品が傷んでいないかを見分ける上で感覚だけに頼るのはもちろん危険ですが、パッケージに印刷された日付で食べられるか食べられないかが自動的に決まるわけではありません。それでは、食品の期限表示について考えてみましょう。
🔖 DEPARTMENT OF JARGON
用語解説
まずは食品廃棄に関する用語の定義を確認しておきましょう。日本では「賞味期限」と「消費期限」の違い(後述)はよく知られていますが、ややこしいのが「食品廃棄物」と「食品ロス(フードロス)」です。
日本の農林水産省は「本来食べられるのに捨てられてしまう食品」を食品ロスと読んでいます。捨てられてしまう理由は、期限切れや腐敗などによる廃棄、食べ残し、加工や調理段階での過剰除去などさまざまです。
これに対し、食品廃棄物は食べられるかどうかに関係なく、不過食部分を含めた食品の廃棄全般を指します。例えば、バナナの皮は食品廃棄物ですが、中身は食品ロスで、バナナを丸ごと捨てても皮の部分は食品ロスとはみなされません。
また、日本では生産、加工、流通、小売、外食産業で生じる食品ロスは「事業系食品ロス」、消費者によるものは「家庭系食品ロス」と呼ばれています。
一方、国際的には通常は食品廃棄について食べられるか食べられないかでは区別をしません。FAOは食品廃棄物を表すのに「food loss and waste(FLWと略されることもある)」という言葉を使っており、このうち食品サプライチェーンの前半(生産、製造・加工、卸売、流通)で発生するものは「food loss」、後半(小売、外食、家庭での消費)で発生するものは「food waste」とみなすことが一般的です。
日本で使われている「食品ロス(フードロス)」という言葉は、英語の「food loss」とは意味が異なるということを覚えておきましょう。
BY THE DIGITS
数字でみる
- 570万トン:2019年の日本の食品ロスの総量。国連世界食糧計画(WFP)が世界各地で行っている食糧援助の総量(2020年は年間420万トン)を上回る
- 約45kg:日本人1人当たりの1年間の食品ロス
- 87.5%:賞味期限と消費期限の違いを知っている人の割合
- 55.8%:日本の食品ロス対策は「不充分」だと考える人の割合。「わからない」は38.8%、「充分」は5.4%にとどまる
- 約3分の1:世界で生産される食料のうち廃棄されるものの割合
FOOD EXPIRATION DATES
混乱のもとは……
日本では加工食品には期限表示が義務付けられていますが、この制度が始まったのは1995年です。それまでは製造年月日が使われていましたが、製造・加工技術、流通手段が発達して消費者が経験的知識から品質の劣化について適切に判断することが難しくなったために、期限表示が導入されました。
国際的には製造年月日ではなく期限表示が一般的で、食品輸入が増えるにつれて国際規格との整合性が求められるようになったことも背景にあります。なお、以前は品質保持期限という言葉も使われていましたが、2003年以降は消費期限と賞味期限に統一されています。
消費期限は痛みやすい食品(概ね5日以内に劣化してしまうもの)に表示されており、安全に食べられる期間を示します。一方、賞味期限は劣化が比較的遅い食品に使われ、製造者が味や風味などの品質を保証する期間のことです。つまり、消費期限を過ぎた食品は食べるべきではないのに対し、賞味期限であれば期限以降でも食用に問題はありません。また、消費期限は年月日で表示されるのに対し、賞味期限は3カ月以上であれば年月のみの表示になっています。
日本では消費者の9割近くが賞味期限と消費期限の違いを理解していますが、消費者庁が2019年に行った調査によれば、「賞味期限を過ぎた食品でも、すぐには捨てずに自分で食べられるかを判断する」と答えた人の割合は41.1%にとどまります。
また、日本や欧州の多くの国では表示が賞味期限もしくは消費期限のいずれかに統一されていますが、米国ではそもそも期限表示に関する国レベルでの決まりはありません(ただ、乳児用ミルクだけは法律で消費期限[used by date]を表示することが義務付けられています)。このため表示されている日付の種類はメーカーによってまちまちで、混乱が生じる元になっています。
🤔 QUIZ
ここで問題です
食品ロスの約45%は事業者ではなく消費者の側で生じています。それでは、家庭系食品ロスでもっとも多く廃棄されている食材は何でしょう。
肉・魚介類
野菜
果物
調理加工食品
答えは② 野菜で、例えば皮を厚くむきすぎる、キャベツの外側の葉を捨てるといった過剰除去が原因です。家庭系食品ロスを廃棄理由別に見ると「過剰除去」が最も多く、これに「食べ残し」と期限切れや腐敗による「直接廃棄」が続きます。
ちなみにハウス食品が行った調査では、消費者が家庭で捨ててしまうことの多いの食品のトップ5は「みかん」「きゅうり」「大根」「豆腐」「牛乳」となっています。
🌏 FOOD SHARING
世界のフードシェア
食べ物を無駄にしないための試みのひとつがフードシェアリングです。これは何もしなければ廃棄されてしまう食品のいわば“マッチングサービス”で、飲食店と消費者をつなぐものが有名ですが、生産者と食品メーカーや、地域住民間での食材の融通など、さまざまなレベルで取り組みが行われています。
- 🇩🇰 Too Good To Go:デンマーク発のフードシェアアプリ。ユーザー登録をすると、近くの飲食店や食料品店などで期限が近づいているために割引価格で販売されている商品をアプリ経由で購入できる。欧州と北米の計17カ国で事業展開する。
- 🇬🇧 Olio:近隣住民をつなぐ食品シェアアプリ。つくり過ぎてしまった料理や余っている食材の写真をアップロードすると、指定場所まで取りに来ることのできるユーザーから連絡が来る仕組みになっている。プラットフォームを通じて自分でつくった料理を販売することも可能。
- 🇦🇪 FoodKarma:アラブ首長国連邦(UAE)ドバイのサービスで、飲食店などで余っている料理を最大60%引きで購入できる。利用者はまだ少ないが、UAEでは食品廃棄に対する意識が高まりつつある。特にラマダン期間中の廃棄の急増が大きな問題となっており、2017年には政府が廃棄ゼロを目指すキャンペーンを立ち上げた。
- 🇹🇭 Yindii:タイの首都バンコクのフードシェアアプリで、「Yinddi(イーンディ)」とはタイ語で「嬉しい、喜ぶ」という意味。アプリで食品を購入すると、店まで取りに行かなくても送料を払えば配達してもらえるため、少し遠い場所にあるレストランやスーパーが提供する商品でも気軽に買うことができる。
今日のニュースレターは岡千尋、年吉聡太がお届けしました。今週もがんばっていきましょう!
ONE 🗑 THING
ちなみに……
上記で紹介したToo Good To Goは、数年前から「Look, Smell, Taste, Don’t Waste」というキャンペーンを展開しています。これは、期限切れでも賞味期限内であれば、捨ててしまう前に見た目やにおい、試しに少しだけ食べてみることで本当にもう食べられないのか確認することを消費者に呼びかけるもので、ネスレ(Nestle)やダノン(Danone)など大手食品メーカーが協賛し、自社製品にステッカーを表示するようになりました。
ただ、食中毒を引き起こす菌は見た目やにおいではわかりません。言うまでもないことですが、肉などの生鮮食品は正しく保存し、期限内に使い切ることを心がけましょう。
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