Climate:太陽光発電にいま起きていること

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月曜夜のニュースレター「Climate Economy」では、毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのかどんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。

※ 「ニュースレター特別編・IPCCのWGIIIレポートまとめ」は、今週水曜より3回に分けて配信します。

世界の再エネインフラは2021年に大きく拡大しましたが、これを牽引したのが太陽光発電でした。太陽光発電は前年比で17%増え、2021年の新規再エネ拡大のうち実に約50%を占めます。

国際エネルギー機関(IEA)の最新の展望報告によると、再エネは今後も急速な拡大が予測されており、世界の新規エネルギー源の約95%を占める見込みです。

パリ協定の目標を達成するためには、2030年まで太陽光と風力の発電容量が毎年20%というペースで成長していく必要があります。独立シンクタンクEmberの報告書『2022年世界エネルギーレビュー』では、世界のエネルギー需要の93%を対象としたデータ分析の結果、年率20%の成長は十分に可能だという結論が出ました。


By the Digits

数字でみる

  • 10%:2021年の世界のエネルギー源のうち、太陽光・風力が占める割合(2015年には4.6%)。2021年現在、国内エネルギーの10%以上を太陽光または風力によってまかなっている国は50カ国あり、日本を含む7カ国が2021年に新たに10%台を突破しています
  • 82%:2010〜19年までの期間における太陽光発電のコスト減少率。2010年にはメガワット時間当たり378ドルだったものが、2019年には68ドルにまで下がりました
  • 51ドル世界銀行が推計した、2020年現在の太陽光(電力部門)の均等化発電コスト(LCOE)の世界の中央値(メガワット時間当たり)。石炭のLCOE中央値は75ドル、天然ガスは67ドルとなっています。ただし、LCOEは技術や地域によって大きく変動するため、世界規模での数値から得られる情報には限りがあるとも執筆者たちは強調しています
  • 100万トン:2030年までに米国で廃棄されるパネルの量として米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が試算した最大値
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Back to Basics

基本のおさらい

産業技術総合研究所(産総研)の説明によると、太陽光起電力パネル(photovoltaic panel、以下太陽光パネル)は、太陽からの光エネルギーを使ってパネルの内部に動きやすい電子(伝導電子)を発生させ、2層の半導体(薄い表層であるn型と厚めの深層であるp型)のpn接合の性質を使って伝導電子を取り出すことで電力を生み出します。

米エネルギー省によると、世界の太陽電池の約95%は半導体としてシリコンを採用しています。採用の理由としては、技術の成熟度の高さ発電効率の高さ、25年以上使用しても製品の質がほとんど落ちないほどの耐久性、そして原料の潤沢さが挙げられています。

発電の要となる太陽電池ではシリコンのほか貴金属(鉛、すず、銅など)が使われます。太陽光パネルにはアルミニウム(フレーム部)、ガラス、ポリマー封止材、プラスチックなどの原料が使用されます。

太陽光発電には主に3つの部門形態があります。傾向として、電力部門utility)での利用が最もコスト効率が高く、商業部門commercial)がこれに続き、最後に住宅部門residential)が来ます。国際エネルギー機関(IEA)の地域別試算専門誌における技術別の発電効率の試算が示すように、実際のコストは地域や技術によって大きく異なります。


💸 Costs

割高な日本の太陽光

発電コストの算出には初期投資に加え運営維持コストや燃料コスト、そして時間割引率などを加味した「均等化発電コスト」(LCOE)という単位が一般的に用いられます。しかし、世界銀行が指摘しているように、太陽光発電の実際のコストには断続性や蓄電池などによる追加コストが含まれるため、LCOEはあくまで大ざっぱな目安として扱うのが妥当だと言えます。

日本の太陽光発電のLCOEは最大値212ドルおよび中央値70ドル(メガワット時間当たり)となっており、海外諸国と比較してかなり高価であると京都大学の報告は述べています。対して、中国では最大値59ドルおよび中央値29ドル、インドでは最大値45ドルおよび中央値27ドルという低コストが実現されています。

この差異の主な原因として、同報告の執筆者たちは発電所の規模の差異(例えばインドの発電所は日本の6倍ほどの発電規模をもつ)や土地を準備するためのコストの高さ、またゼネコンなどの制度的な理由から生じる追加コストなどを挙げています。


🧱 Material

原料は非クリーン?

資源エネルギー庁の報告によると、日本の太陽光パネルの大量廃棄が始まるのは2040年頃だと見込まれています。シリコンベースのパネルであっても、鉛などの有害物質が含まれているため適切な処分が必要です。

しかし、2018年に行われた調査によると、回答事業者の59〜74%が処理施設のための資金の積立を行っていませんでした。こうした現状を改善していくために、日本政府は事業者向けの情報提供の強化や、再利用・リサイクルの促進を呼びかけています。

廃パネルの原料物質に加え、シリコンベースの太陽電池は製造の過程で有害物質(四塩化ケイ素とフッ化水素酸)を排出します。

パネル製造業者の多くはこの排出物を回収し、新たなシリコンの安価な製造に再利用していますが、他方では河川や農地に有害物質を直接廃棄する業者もいます。有名な例として、2008年に中国の黄河への廃棄が国際的に注目を浴びましたが、これを受けて中国政府は製造業者に四塩化ケイ素の98.5%以上を再利用するよう法的に義務付けました。


Next Steps

次のステップ

米国における太陽光パネル原料のリサイクルをする上で最も有効な解決策は次のうちどれでしょうか。

より多くの投資と援助金

新技術の開発と普及

データの収集と規制の整備

一般市民の意識向上

NRELが2021年に行った分析によると、正解は(3)です。具体的には、回収済み原料の市場価値、廃パネルの総量と構成要素、リサイクル技術とインフラ需要、認可のための基準と義務、そしてリサイクルに伴うコストという5つの分野での情報の収集と明確化が挙げられています。

また、事業者に対してリサイクルを義務付ける法律を制定し、直接廃棄に比べてリサイクルの手続きが簡潔であるような法的環境を整備することで、事業者に対するインセンティブを与えることができるとされています。

コストを削減し太陽光発電を大規模かつ持続可能にしていくためには、リサイクル以外の手段も積極的に検討していく必要があります。3,000本以上の専門文献を対象にNRELが今年行ったレビューによると、米国では鉛蓄電池や自動車、アルミニウムといった商品市場で、製造から廃棄までの過程で原料や製品が循環する循環型経済」(circular economy)が達成されてきました。

こうした成功例を参考にしつつ、太陽光パネル市場も循環型経済にしていくことは可能であり、そのためにはリサイクルや技術的解決策への過度な注目から脱却し、社会経済的な手段を含む多様な解決策を検討し採用していくべきだとレビュー執筆者たちは述べています。


One 💎 Thing

ちなみに……

 1881年に米国の発明家チャールズ・フリッツがセレンを半導体とする太陽光パネルを発明し、その後1940年代に同じく米国の科学者ラッセル・オールがシリコンベースの太陽電池を開発しました。

もっとも、太陽の光や熱を有効活用するための技術はそれよりもはるか昔にまでさかのぼります。3,000年前の中国には、太陽光を一点に集中させて火をおこすための銅製の道具「陽燧ようすい)」がありました。

アイルランドのニューグレンジは5,000年以上前に造られたと言われる巨大な羨道墳せんどうふん)です。入り口の石の窓は冬至にだけ太陽光が差し込むように設計されており、一年に一度だけ内部が明るくなります。

ちなみにニューグレンジの遺跡発掘の際には、羨道墳と一緒に白く平らな石英クォーツが大量にみつかりました。太古の建造者たちが50km南のウィックロー山地からわざわざ運んできたものですが、その用途はいまだに明らかになっていません。


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