週の最後のニュースピックアップ。今日お伝えする注目ニュースは、人道危機にまで発展しているスリランカ経済の破綻について。この危機は、他の新興国にも拡がりかねないのです。
スリランカ国民は、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領を追放することに成功しました。ラジャパクサは先週木曜日(14日)、滞在先のシンガポールからメールで辞表を送付(旅先からポストカードでも送るかのように!)。大統領公邸に押し寄せた挙げ句に豪奢なプールでのひとときを楽しんだ抗議者から逃れ、スリランカの経済破綻に対する説明責任からも免れたのです。
すでに債務不履行(デフォルト)に陥っているこの国は、かつては「南アジアの自由市場資本主義のモデル」と位置づけられていたこともありました。が、物価は昨年から50%以上も上昇。食料と燃料のための資金調達ができなければ「国全体が“シャットダウン”に陥る恐れがある」と警告されています。2,200万のスリランカ国民は、数カ月以内に飢饉に直面する可能性があるのです。
こうした債務危機は、利己的で短期的な判断の連続によってもたらされたものです。
スリランカでは2009年の内戦終結後、海外投資家や政府が熱心に低金利での融資を行いました。これにより、政界に君臨し腐敗を招いたラジャパクサ一族の下、約10年間にわたる経済成長を成し遂げたのです(彼らは、一族への批判を回避しようと無理な減税を実施したことでも知られています。本来は、経済を建て直さなければならなかったはずですが)。
2020年、パンデミックによって観光収入が突如として途絶えると、政府は対外債務を支払うためにドルやその他の通貨をつぎ込むようになりました。スリランカ・ルピーは十分にありましたが、それを海外に売却しても必要額を補填することはできませんでした。
その過程で通貨価値は半減し、物価が急騰する原因となりました。スリランカは4月に、対外債務の返済を一時停止すると表明。年内に支払い期限が到来する融資は70億ドル(約9,690億円)に上りますが、それを支払うための外貨は10億ドルにも満たない状況です。国際通貨基金(IMF)は介入する準備があるとしていますが、実際には、(ラジャパクサが国外脱出したため)誰と交渉すべきなのかさえ分かっていないのが現状です。
目を凝らさなくても、スリランカの破綻に似た状況は他の国でも見ることができます。多くの新興国が、途方もない債務、外貨準備の減少、収入の減少、物価の上昇という同じ組み合わせの問題に直面しているのです。
ザンビア、レバノン、スリナムはすでに支払いが滞り、スリランカのようにデフォルトに陥っています。経済状況が改善されなければ、さらに多くの国がこのリストに加わることになるでしょう。その中でも最大規模の国の一つであるパキスタンは、当面の間、デフォルトを回避するため、14日、IMFから60億ドル(約8,310億円)の財政支援を受けることで合意しました。
スリランカ国民がいま最も必要としているのは人道的支援であり、その一つが国連世界食糧計画(WFP)です。米国やヨーロッパは景気後退に陥るのを避けようとしていますが、その一方で多くの新興国が崩壊に直面していることを認識する必要があります。
The Backstory
背景を整理する
- 『Bloomberg』の推計によると、新興市場に分類される国々は、海外の債券保有者に1.4兆ドル(約193兆円)の債務を負っています。そのうち約5分の1は現在、不良債権化しており、債権者は返済が受けられない可能性があると考えています。
- この一連の苦境の始まりはコロナウイルスのパンデミックで、投資家が新興市場から逃げ出し、ブラジルからタイまでデフォルトの懸念が広がりました。
- しかし、米国が金利をゼロに近づけると、資金がこれらの国に再び流れ込み、危機が一時的に緩和されました。2020年5月、G20諸国は、世界で最も脆弱な経済圏が負っている債務の支払いを猶予することでも合意しました。
- この世界的な債務返済猶予措置は2021年12月に終了しました。また、米国は最近、金利をこれまで以上に大幅に引き上げようとしていますが、いま世界経済にとって最善のシナリオは、とにかく「縮小しない」ことです。
- 経済の潮流が再び変わりつつあるなか、多額の借金を抱える貧しい国々は非常に脆弱な状態にあります。そして、債権者が寛大な態度を示すとも思えません。
HAVEN’T I HEARD THIS BEFORE?
前にも聞いたような?
「新興国の債務危機」は、ともすればグローバル経済の常であるかのように思われているため、なかなか注目されることはありません。確かに同じ国がいつも窮地に陥っています(例えばアルゼンチンは幾度もデフォルトを経験しています)。しかし、いまこそ過去の危機から学び、新興国市場に悪影響をもたらす好不況のサイクルを断ち切るべきともいえるでしょう。
1994年のメキシコ通貨危機(テキーラショック)を例にとりましょう。危機前のメキシコは好況にあって容易に融資を受けられたため、ペソ高を維持できていました。これにより、さらに多くの借入れが可能となったわけです。
当時、米国は自国経済の過熱を防ぐために金利を引き上げていました(現在と同じ状況です)。しかし、先進国経済が減速すると、新興国経済は簡単に暴落します。米国の利上げにより、メキシコへの融資は一点「悪い投資」となりペソの価値が低下、借入れはさらに困難になりました。結果、米国は、南の隣国のために500億ドルの救済策を講じなければならない事態に陥ったのです。
WHAT TO WATCH FOR NEXT
注目すべき4つの動き
- エジプトはGDPに匹敵する負債を抱えている。今年と来年には160億ドル(約2.2兆円)の債務を支払う必要があり、これは他のどの新興市場よりも重い負担です。通貨安は、600億ドル(約8.3兆円)規模の首都移転構想のようなインフラプロジェクトへの資金調達を難しくしており、対策として考えられているのは、国有企業の少数株式を売却することです。
- エチオピアを含む他のいくつかのアフリカ諸国は、すでにG20が策定した新たな「共通枠組み」の下で債務の再編を模索している。ただ、各国が実際にはその枠組みに合意できてないため、停滞しています。IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は最近、「これは自己満足では済まされないテーマだ」と述べ、まさに「下降スパイラル」が起きかねないことを示唆しました。
- 現在、いくつかの新興市場は戦争状態にあることを忘れてはならない。ロシアとベラルーシは制裁措置によって債務の支払いが不可能となり、すでにデフォルトに陥っています。ウクライナは、ロシアへの抵抗を続け、可能であれば国を再建するためにも、資金を調達する必要があります。
- 世界銀行のマクロ経済担当ディレクターは今年、十数カ国がデフォルトに陥ると予測している。経済全体は生き残るでしょう。しかし、現在、返済の見通しが立たない負債を抱える国々には、10億人近い人びとが住んでいます。
OH, RIGHT, ALSO: CHINA
忘れちゃいけない、中国
こうした債務危機の際、新興国に対する最大の貸し手である中国の役割にも注目しないわけにはいきません。中国がどれだけの国債を保有しているのか、あるいは「一帯一路」のもとどのような条件で資金を提供しているのかは、ほとんど明らかにされていません。債務再編の当事者としての中国の立ち位置は、「経済的パートナー」というよりは「ハゲタカファンド」に近いと言ってもいいでしょう。
今回の危機において、中国はすでに債務救済を中断しています。
ザンビアの場合、2020年に返済が滞った債務170億ドルについての再交渉は、他の債権者が同意しない限りできないことになっていますが、いまのところ中国は同意していません。スリランカの債務再編に対する中国の意図もまた不透明です。中国政府はこの危機において大きな影響力を維持していますが、それはある意味、「北京がどれほどの影響力をもっているのか、誰もよく知らないから」でもあります。
今日のニュースレターは、QuartzのZachary M. Seward(編集長)がお届けしました。
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