Climate:エアコンの地政学

Climate:エアコンの地政学
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月曜夜のニュースレター「Climate Economy」では、毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのかどんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。

熱波は「平年に比べ最高気温が+5℃以上の日が5日以上続く状態」と世界気象機関(WMO)によって定義されています。日本でも今年の初夏に観測史上初の6月最高気温40℃超えが記録されましたが、世界ではいま、報道が盛んな欧米のみならず、インドや中近東における熱波が深刻化しています。

気候変動は熱波の頻度や程度を悪化させ、人間だけでなく多くの生物に打撃を与えています。

今日のニュースレターでは、「冷房」の現状、あるいはその功罪にフォーカスします。冷房は、人体への熱波の影響を緩和するための最もダイレクトな方法です。しかし、世界で最も暑い地域では冷房の普及率が最低レベルとなっており、また冷房に使われる冷却材には長期的に熱波を悪化させるものも多くあります。こうした問題を解決するための世界の動きを見ていきます。


By the Digits

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Entering the Hothouse Age

酷暑時代へ突入

2021年8月に発表された第一作業部会報告書にて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は熱波の頻度や程度の増加が人為的気候変動を原因とすることが「ほぼ確実」であるとしています。より頻繁かつ深刻な熱波は1950年以降観測されており、人為的気候変動との関連性も実証されています。

今年5月にインドパキスタンは熱波に襲われ、45℃~50℃という最高気温が記録されました。人為的気候変動の影響でこの熱波は発生可能性が30倍高くなっていた世界天気原因究明(World Weather Attribution)の専門家たちは述べています。なお、2021年に発表された論文における1970年以降のデータに基づく分析によると、インドでの熱波の頻度は2倍以上に増え、死者数も60%以上増加しています。

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Image: New Delhi, India, May 2, 2022. REUTERS/Adnan Abidi

マッキンゼーが2020年に発表した報告によると、インドは熱すぎて人間が働けない環境になりつつあり、これは温暖化の進行や大気汚染の改善によってますます悪化する見込みとなっています。酷暑対策として、インド政府は2019年にインド冷房対策計画」を発表しましたが、これは主要経済国において初めての事例です。


Cooling Ain’t Cool

冷房がアツい理由

冷蔵庫や冷房などの冷却材はいくつかの大きな環境問題を引き起こしてきましたが、国際的な協力によってこうした問題は乗り越えられてきました。

1980年代のオゾン層破壊の観測を受けて、国連加盟諸国は1987年に「モントリオール議定書」を採択し、破壊の原因となる化学物質約100種類(主にフロン類、CFC)の段階的な廃止を約束しました。DuPontなどのCFC製造業者はオゾン層関連の科学的知見を疑うよう一般市民に呼びかけましたが、それでも議定書は1989年に発効され、それ以降は大気中のCFC含有量の急速な減少が観測されました。オゾン層は21世紀半ば頃に完全修復される見込みとなっています。

CFCは冷蔵庫や冷房などの冷却材として使用されていましたが、モントリオール議定書発効後はこれがハイドロフルオロカーボン(HFC)によって代替されました。HFCにはオゾン層を破壊する効果はありません。しかし、HFCは温室効果ガスであるため、地球温暖化の原因になります。

2016年にモントリオール議定書採択国は、HFCの排出量を大幅に削減するためのキガリ改正」に合意しました。2022年現在、130カ国がこの改正に合意しています。

ヨーロッパ地球科学連合が発行する学術誌『Atmospheric Chemistry and Physics』に今年掲載された論文によると、2015年の時点ではHFCの排出は2100年までに0.3℃~0.5℃の温暖化を引き起こすと思われていましたが、キガリ改正が遵守された場合はこれが2100年までに0.04℃にまで下がるという結果が出ました(Environmental Research Lettersに今年発表された学術論文においても同様の結果が出ました)。


Key Country

鍵となる国

今年3月にFortune Business Insightsが行った推計によると、HVAC市場が最も大きく拡大する見込みの国はインドです。

IPCCの最新の予測が示すように、地球温暖化が進んだ場合に熱波の頻度や程度が最も大きく増加するのは赤道近くの国々(サハラ以南のアフリカ、中東、インドなど)です。そうした国々の中でインドは最大の人口を有しています。またIEAの予測では、2050年までの世界の冷却関連の電力需要成長の約半分は中国、インド、そしてインドネシアの3カ国のみから来るとされています。原因は地理的な条件と人口増加です。

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Image: New Delhi, India, April 30, 2022. REUTERS/Adnan Abidi

インドをはじめとする世界の最も暑い国々の28億人の人たちのうち、冷房を利用できている割合はたった8%であるとIEAは推計しています。この人たちがCFCやHFCを使わない効率的な冷房を利用できるようになるために、モントリオール議定書の多国間基金(Mutilateral Fund)などから援助が提供されています。なお、マッキンゼーの報告では、致死性の熱波にさらされているインドの人たちへ2030年までに冷房機器を供給するための総コストは約1,100億ドルと見積もられています。

さらに、インド政府は国内企業がDaikinなどの海外企業と公平に競争できるようにするために、エアコン製品の製造者などを対象とした「生産活動関連インセンティブ(PLI)基金」を設置しました。今年6月には2回目の給付の決定発表があり、インド国内6社へ合計91億ルピーの投資が約束されました。援助金は2029年までの7カ年で給付されます。

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また、天然資源保護協議会(NRDC)は2021年7月にインド政府がキガリ改正を批准すべき理由としてインドの国内経済における雇用創出と製造量増加、インドの気候目標と冷房目標の達成、モントリオール議定書関連の交渉における立場の強化、そしてHFCの段階的廃止のさらなる進捗の4点を挙げました。インド政府は同年8月にキガリ改正の批准を決定しました。


One 🐦 Thing

ちなみに……

熱波の影響を受けるのは人間だけではありません。アリゾナ州ユマに住む小鳥たちを対象に行われた研究によると、温暖化が進むにつれて生存時間6時間以下の鳥の数が増えていきました。

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Image: K. Shiv Kumar / CC-BY 4.0

同研究では、暑い環境での生存率は、身体が小さい鳥たちの方が高いとしています。実際のところ、オーストラリアとニュージーランドで行われた別の研究では、夏季の最高気温が高い地域ほどスズメたちの身体が小さかったという観察結果が出ました。


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