Quartz読者の皆さん、こんばんは。27日夜、今日のニュースレターでは、サル痘の感染が拡大するニューヨークのLGBTQ+コミュニティの動きをお伝えします。
Since the first cases…
誤った誤解
世界保健機関(WHO)は25日、サル痘を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であると宣言しました。そしていま、公式感染者が3,500人に迫る米国でも、サル痘に対して同様の措置をとることが検討されています。
3,500人の感染者のうち3分の1以上はニューヨークで記録されていますが、公衆衛生の専門家は、この数字も実際の発生数に比べれば10分の1以下になるとみています。
世界全体をみると、感染者は少なくとも1万7,000人で、1週間で約50%増加しています。欧米での死亡例はないものの、サル痘が流行している中央アフリカ共和国およびナイジェリアでは、今年に入ってから5人の死亡が報告されています。
米国でも世界でも、これまでのところ報告されている患者のほとんどが「男性と性交渉をもつ男性」ですが、検査やワクチンの普及は遅れており、感染は他コミュニティでも広まる危険性はもちろんあります。
これまでのところ、米国における予防は上記のような男性にフォーカスしています。しかし、ワクチンの初回接種分を含め、提供されているワクチン量は非常に限定的です(米国は1億回分のワクチンを備蓄しているにもかかわらず、現在のところ利用可能としているのは37万4千回分のみ)。
米保健当局はLGBTQ+コミュニティと最新情報を共有し、セクシャル・ヘルス・クリニックを経由してワクチンを配布しています。が、いま起きている問題が、「サル痘は“ゲイの病い” である」という誤った認識が広まること。この病気は性感染症であるとするのも誤解ですし、男性と性交をもつ男性に対するスティグマを強め、また逆にそうでない人たちの間に間違った安心感をもたらす危険性も指摘されています。
New York is suffering from…
悩ましいワクチン不足
前述したとおり、米国におけるワクチン供給は十分とはいえません。ニューヨーク市保健局のガイドラインによると、現時点でワクチンの対象となるのは「ゲイ、バイセクシャル、その他の男性とセックスする男性(シスジェンダーまたはトランスジェンダー)で、過去14日間に複数のまたは匿名のセックスパートナーをもつ18歳以上のすべての人」ですが、その必要量には到底達していないのが現状です。
感染者の大半が男性と性交をもつ男性だという事実は、LGBTQコミュニティにおいて、エイズ初期のつらい記憶を呼び起こすことになっています。アクティビストや公衆衛生の専門家は、サル痘がエイズのような深刻な危機をもたらすことはないと明言する一方で、偏見を助長する動きを懸念しています。
LGBTQIA+コーカス(党員集会)の一員であるニューヨーク市議会議員のエリック・ボッチャーは、ワクチン不足についてコメントするとともに、「わたしが恐れているのは、(サル痘が)“定着”してしまうことだ」と述べています。
The LGBTQ community is…
コミュニティの「自助」
ニューヨーク市政府は、ワクチンについての情報をウェブ/ソーシャルメディアチャンネルを通じて共有しています。しかし、接種を決めた人の多くは、サル痘に関する情報を主に口コミやLBGT+団体を通じて得たものだと語っています。
「ニューヨーク市の保健所からはあまり話を聞いていない。情報は、すべてコミュニティ内の人たちが知らせてくれたものだ」(ニューヨーク市在住のゲイ男性、タイ)
タイは先週、サル痘ワクチンを接種することを決めました。コミュニティの男性たちの、サル痘に感染したというソーシャルメディアへの投稿が増え、他人への感染を警告するために、自分たちが感染前日にどこにいたかなどの情報を共有しているのを見たのがきっかけだったと言います。
「最初は全く心配していなかった。が、サル痘のことが報じられるようになってから1〜2週間後に、知り合いにも感染者が出るようになった」
彼は、主にゲイやバイセクシャルの男性からなる非公式ネットワークを通じて、サル痘の兆候と症状を知り、どのように感染するのか(皮膚の接触や、衣類や寝具などや体液を介して感染する可能性)を知りました。
同時に、同じコミュニティ内での情報共有を介して、ワクチンが入手可能だと知りました。タイはハーレムにあるセクシャル・ヘルス・クリニックでボーイフレンドとともにワクチン接種を受けることができました。
ニューヨーク市保健局のアシュウィン・バサンは、「今回の流行は、たまたまゲイコミュニティ、特に男性とセックスをする男性に集中している」と説明しています。彼は「この病気は、LGBTQコミュニティ以外にも感染が拡大する可能性があることを、より多くの人に伝えることが重要だ」とも述べています。
それでも、LGBTQコミュニティが中心となって情報を共有し、リスクのある患者を紹介し、より多くのアクションを推し進めてきたことは、確かな成果を上げています。先週も、当局の対応に不満をもつアクティビストグループのActUp(AIDS Coalition to Unleash Power)が、より豊富な情報を円滑に共有するべく、ニューヨーク市でワーキンググループを立ち上げてもいます。
A vaccine hit and miss
コロナを思い出して
ニューヨークでワクチンを接種できるかどうかは、運次第であることもわかっています。
クイーンズ区に住む同性愛者で医療関係の仕事をしているザック・フレッチャーは、ワクチンがいつ入手できるかを知るためにテキストメッセージアラートに登録したと語ってくれました。しかし、7月15日に彼が初めてポータルサイトから登録しようとしたとき、サイトはダウンしており、その後1時間もしないうちに接種予約の席はいっぱいになっていました。ようやく医師から連絡が入ったのは、4日後の19日のことでした。
予約した人たちのクリニックでの体験はさまざまです。前出のタイは、クリニックに着いてから15〜20分で注射が終了し、登録も問題なくできたようです。しかし、ワクチン接種を受けられても手続きに2時間以上を要することが頻発しており、時給制で働く労働者をはじめ、柔軟性に欠けるワークスタイルの人たちがワクチンのために時間を割くのは困難な状況です。
ニューヨーク市の対応は当初、後手に回っていたものの、ここ数日でアクティビストたちの要求にかなう動きをみせるようになっています。ワクチンの予約は夕方までできるようになったほか、COVID-19で使用されている接種状況の追跡プラットフォームを通じて最新情報が共有されるようにもなっています。
しかし、供給量に限りがあるため、市に需要をカバーする能力はありません。予約を取ることができるのは、新しい枠が空いたときすぐに予約できる人たちだけという状況が続いています。
Not a “gay disease”
情報が不足すると
米国内でサル痘は“ゲイの病い”であるという説を助長した出来事のひとつとして、先週金曜に子ども2人に陽性反応がみつかった際、米国疾病対策予防センター(CDC)のロシェル・ワレンスキー所長の声明が挙げられます。
彼はこの事例について、「これらの子どもたちは、いずれも男性とセックスをする男性たちのコミュニティ、つまりゲイ男性のコミュニティにいたことが判明している」と説明しました。
しかし、サル痘の感染に性的な要素があるとするのは、まったく正しくありません。サル痘は性感染症(STD)でも感染症(STI)でもありません。実際、WHOの研究者もサル痘が精液や膣液を介して感染する可能性があるのかどうかさえ確証を得ていません。
『MIT Technology Review』では、サル痘の感染に関する情報の不正確さがウイルスというものに関する陰謀論とあいまって、この病気について世間が性格に把握することを困難にしているとする研究結果が発表されているので、興味のある方はぜひ呼んでみてください。
また、科学者たちは現在、感染拡大を正確に推定する方法として、下水道でサル痘の検査を始めています。
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