Facebookが新社名「メタ」(Meta)を発表して間もないなか、すでに嘲笑と、メタバースへの強烈な皮肉の声が向けられています。
今回の大胆なリブランディングによって、創業17年を迎えるFacebookは、一時的ながらスタートアップらしい新しさに包まれました。しかし、これを評価していない人は多く、マーク・ザッカーバーグが「メタバースの広告塔」として定着してしまうことで、メタバースそのものが、テック業界が期待しているようなメインストリームの地位に到達できない可能性すらあります。
ニューヨーク選出の民主党下院議員、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)は、28日の発表イベント直後、軽蔑の念をツイートしています。
metaとは、「わたしたちは民主主義にとってのガンであり、権威主義的な政権を後押しし、市民社会を破壊するグローバルな監視/プロパガンダ・マシンにmetastasize(転移)しようとしています…すべて利益のために!」という意味。
過去十数年にわたり、Facebookは数多の論争を乗り越えながら、約29億人の熱心なユーザー層を維持し続けてきました。広告問題からユーザーデータの不適切な取り扱い、さらには元従業員による内部告発など、Facebookの問題は社会的にも、また政府からも否定的な評価を受け続けています。それにもかかわらず、同社のInstagramやWhatsapp、Facebookといった各製品は、世界中の多くのユーザーに根強く使われるソーシャルメディアの地位を保っています。
How big is Facebook’s metaverse?
Facebookのメタバースの現在地
CEOのマーク・ザッカーバーグはここ数年、ほぼすべてのプレゼンテーションで「メタバース」という言葉を使ってきました。ただし、同社が展開しているOculusプラットフォームのユーザー規模は、実際のところ比較的小規模に留まっています。
Oculusが発表してきたVRデバイス(Rift、Go、Quest 1、Quest 2)それぞれの正確な出荷数は不明ですが、FacebookのVRヘッドセットで最も人気のあるOculus Quest 2でも、最近のリコール騒動から算出すると、ユーザー数は400万人程度です。CTOのアンドリュー・ボスワース(Andrew Bosworth)が掲げている目標の1つである「VRユーザー数1,000万人」には明らかに達していないのです。つまり、数字上は、ザッカーバーグが抱えるメタバースユーザーは、Facebookの全オーディエンスの1%にも満たないということになります。この意味で、Metaへの社名変更は「この会社の根幹にあるもの」を示すというよりも、むしろ「願望的なマーケティング」といえるでしょう。
ザッカーバーグが「メタバース」という言葉を積極的に使用する以前は、このことばは、急成長するVR/AR分野を説明する際に使われる「ARクラウド」「XR」「スペースコンピューティング」などと並ぶ用語の1つに過ぎませんでした。しかし、今夏の決算説明会(pdf)をはじめザッカーバーグがこのことばをひとたび使い始めると、すぐにウォール街が注目し、Facebookに言及しながらこのことばを使うようになりました。
ザッカーバーグは、自らの会社全体をMetaとリブランディングすることで、「メタバース」をFacebookの代名詞にしようとしています。しかし、実のところ「豊富な資金と高いモチベーションをもって独自のメタバースに取り組んでいる数多くの企業のひとつ」にすぎません。しかし、「クリネックス」や「バンドエイド」といったブランド名が、消費者が商品の総称として使うようになったように、Facebookが「Meta」という名前を採用したことで、日常で使うことばとして、「メタバース」と区別がつかなくなる日も近いかもしれないことも、また事実です。
そうなれば、Facebookにとってはこれ以上ない結果です。一方で、MicrosoftやApple、Snap、Unityなどの上場企業や、メタバースへの大規模な投資を控えている多くのスタートアップ企業にとっては厄介なことになります。
Meta is not the metaverse
Metaはメタバースではない
Facebookにネガティブな評判がつきまとうなかで、インフルエンサーやテック系メディア、政府関係者が「メタバース=メタ」とみなすようになるのは、これからのメタバース世界にとって大きな障害となる可能性があります。
現在のところ、メタバースにはほとんどルールというべきルールがありません。多くのバーチャル空間では、ハラスメントなどの問題に対処するルールがそれぞれ独自に定められています。Microsoftの「AltspaceVR」やFacebookの「Horizon」といったVR上のソーシャルネットワークは、国会議員も特別利益団体もその中身をほとんど知らない、新しいフロンティアとして運営されているのです。
1990年代に米国で制定された「通信品位法230条」は、プラットフォーム運営者をプラットフォーム上にある問題のあるコンテンツに対する責任から保護しようと策定されていますが(いわゆる「プロバイダ免責」)、仮想世界やアバターに対する規制は想定外でした。
いま、Facebookはメタバースにまつわるあらゆる動きを率いる最大手といえますが、かたや議員たちは同社に対する措置を準備しています。その結果として新たな規制が生まれでもすれば、新たなプラットフォームやプロダクトの開発はよりコスト高になり、ウェブ空間を豊かにしてきた創造性は締め出され、潜在的な訴訟に備えられるだけの資金をもたない企業にとってメタバースは非常にリスクの高いものとなるのです(直接、Facebookと関係なくとも!)。Facebookがメタバースにスポットライトを当てたことで、他の多くのメタバース企業が巻き込まれてしまう可能性は否定できません。
次世代コンピューティングインターフェイスやそれによる体験は、間違いなく普及すると思われていました。しかし、ザッカーバーグが率いるパロアルトのいち企業のマーケティング活動によって、その道が閉ざされてしまうかもしれないのです。
原文:To save its image, Facebook is killing the metaverse
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