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MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
Quartz読者のみなさん、こんにちは。ショッピングのとき、どのような基準で買うものを決めていますか? 今日の「Millennials Now」では、購買のビジネスモデル「D2C」とミレニアル世代の関係性について迫ります。
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アメリカでは今、「D2C(Direct to Consumer)」が主流になっています。
このビジネスモデルは、ここ数年でよく聞くようになりました。“消費者に対して商品を直接的に販売する仕組み”のことを指し、自社で企画・製造した商品を、e-commerceなどの自社チャネルで販売するモデルを意味します。
自社商品を他社を介さず自社のチャネルで発売する手法は、ファッションや美容などの業界でよく見られ、今では大手企業もe-commerceの拡大からD2Cへシフトし始めています。
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たとえばNikeは、D2C事業を「Nike Direct」とし、2017年頃から自社のプラットフォームを構築しはじめ、店舗とe-commerceを連動、アプリを充実させ顧客情報を獲得し、消費者との密なコミュニケーションをとってきました。2019年11月にはAmazonでの商品取り扱いを中止することを発表し、ますます独自のチャネルでの販売を強化しています。Nikeが展開するアプリの登録者数合計は、およそ1億7千万人いるというので、実店舗ではなく、オンライン上で獲得できる情報がいかにD2Cに不可欠か、ということも分かります。
Nike Directでの売上高は、2020年度末までに160億ドル(約1.7兆円)に達するとされています。
Get hooked
テクノロジーが生み出す
コミュニケーション
アメリカでD2Cで成功しているスタートアップは、アイウエアの「Warby Parker(ワ−ビー パーカー)」、ファッションブランド「Everlane(エバーレーン)」、マットレスの「Casper(キャスパー)」、コスメティックブランド「Glossier(グロッシアー)」、スーツケースの「Away(アウェイ)」など。それぞれがこだわりのディレクションとキャッチフレーズで消費者の心を掴んでいます。
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2010年設立。NY拠点のユニコーン企業。オンラインストアを拡大しつつも、実店舗も87カ所に展開。アイウエアを購入前に自宅で無料で試すことができ、自分自身にぴったりなものを探すことができる。1本の眼鏡を買うと、発展途上国に無料で1本眼鏡が支給され、社会的貢献も謳っている。ミレニアル世代の消費者行動をよく考えたブランディングが注目されている。
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2010年設立。本社はサンフランシスコ。オンランストアに主軸を置き、製品価格を抑える。自社で製造・販売するすべての商品の原価を公表している徹底した透明性が売りのファッションブランド。気候変動にアプローチするために、The New York Timesとのコラボアイテムも発売し、社会的な問題にもいち早く取り組む。
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2014年設立。NY拠点のユニコーン企業で、IPOが承認されたばかり。マットレスを中心とした「眠りを売る」戦略で、2014年の発売から1カ月足らずでマットレスの売上げ1億ドル(約110億円)を達成した。100日以内であれば無条件で返品可能なのも、消費者にとってのポイント。ショップ併設のスリープバー「The dreamy by Casper」で実際にCasperを試すこともできる。
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2014年設立。NYを拠点のユニコーン企業。世界中の女性にカルト的な人気を誇る「美のスタートアップ」。創設者は、VOGUEのスタイリングアシスタント時代から美容ブログ「Into The Gloss」を運営していたEmily Weiss。NYに1店舗のみをもち、ソーシャルメディアで顧客にダイレクトにアプローチする手法でブランドは急成長した。現在でも世界中からこの特別な商品を手に入れようと、店舗には長い列ができている。
■Away
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2015年設立。NYを拠点とする同社は、これまでに100万個以上のスーツケースを販売している。価格帯は225ドル(約24,700円)~。携帯電話を充電するためのポートが付いていたり、移動をスムーズにする360°回転のキャスターなど、消費者がより気軽に旅をすることができるよう、スーツケースを「プラットフォーム」にし、機能性にこだわる。ミレニアル世代をターゲットにしたソーシャルメディア戦略も。
Luxury labels are going to D2C
ラグジュアリーもシフト
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ラグジュアリーのファッションブランドも、D2Cへ力を入れており、店舗はもちろん、自社のウェブサイトも見せ方やコンテンツを増やすなど、充実したプラットフォームを作り上げています。
ビジネスインテリジェンス企業Gartner L2の調査によると、世界最大級のラグジュアリー企業の3つであるLVMH(Louis VuittonやCélineなど)、Kering(GucciやBalenciagaなど)、そしてRichemont(ChloéやCartierなど)は、下記のグラフが示す通り、ブランドが直売する年間売上の割合が、10年前よりも大幅に増加しています。
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ブランドはD2Cに力を入れることで、これまでに得ることができなかった顧客情報やサービスに関するフィードバックを手に入れ、より適切なブランディングや消費者のニーズに沿った商品開発をすることができるのです。その結果、お互いにとっての満足度も高くなります。
Everything is for Millennials
ミレニアルズのために
先述のD2Cが成功しているブランドを含め、ほとんどのブランドがターゲットとして大切にしているのが「ミレニアル世代(1981年〜1996年)」です。
■アメリカの世代別人口
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アメリカでは2018年時点で、人口の約22%がミレニアル世代。ジェネレーションZ世代(1997年以降)は約27.7%を占めますが、労働人口の割合も含めて考えると、仕事をもち、お金を使えるミレニアル世代がコアターゲットになります。また、ミレニアル世代の約90%がソーシャルメディアを使用しているので、購入後の拡散や口コミもする可能性が高いと言えるのです。
ミレニアル世代のショッピング傾向と嗜好をまとめると、下記のようになります。
- 「オンリーワン」な、個性のある自分だけのアイテムを好む
- モノよりも「経験」に価値を置く
- 友達と共感するのが好き
- 新しいものを試すことをいとわない
- 周りの人の口コミを信頼する
- 自分自身との関連性があるものを探す(ブランドの概念やポジジョンなど)
ミレニアル世代は、利便性、低コスト、信頼性、シームレスなショッピング体験などのメッセージ性のあるブランドを支持する傾向があります。そのため、ただ与えられるという感覚の商品よりは、新しいコンセプトや共感できるブランディングをしている企業を選ぶのです。
ミレニアル世代の70%近くが、購入する前に会社の価値を考慮に入れています。これは、アメリカの成人全体の52%と比較しても高い割合です。
たとえば、Casperだと、100日以内であれば無条件で返品可能で、不要なマットレスをリサイクルまたは寄付することにより、顧客満足度と社会的責任を徹底的に重視。さらに、店頭でマットレスを購入したあとの配送のストレスを取り除くために、配送サービスで対応しています。ミレニアル世代は、こういった徹底したブランドの理念に共感するのです。
また、ミレニアル世代の60%が自分の個性を表現したいと思っているので、カスタマイズできることを好みます。アンダーウエアブランド「MeUndies」を利用すると、顧客はアンダーウエアのプリントとスタイルを選ぶことが可能。メンバーシップに入ると、毎月カスタマイズしたアンダーウエアが届く(割引あり)特典もあります。
従来の「B2C」モデルでは、製造業者が製品を提供するだけで、小売業者は生産者に顧客の洞察を直接可視化せず、顧客が体験することができませんでした。そのため、D2Cのような消費者との直接的なコミュニケーションを重要視するモデルでは、「商品を手に入れる」という体験がより、リアルなものとして感じることができるのです。
今後もD2Cのマーケティングは購買だけではなく、あらゆるマーケティングの手法として取り入れられていくはずです。今、お読みいただいているニュースレターもD2C。直接、登録して頂いたメールボックスに特別なメールをお届けしています。この受け手の気持ちをグッとつかむものこそ、D2Cの醍醐味でもあるのです。
This week’s top stories
今週の注目ニュース5選
- 「Alpha Foods」が2,800万ドルの資金を調達。ヴェジタリアン向けのフードスタートアップ「Alpha Foods」が、2,800万ドル(約30億円)の資金調達をしました。同社は2015年に設立し、カリフォルニア州・グレンデールを拠点にしています。ブリトー、タマレ、ナゲット、ピザ、ハンバーガー、パテ、ソーセージなどを肉を使わずに展開し、多くのスーパーで販売しています。
- マットレスの販売がなぜテックビジネスへ? 今やユニコーン企業へと成長し、上場も果たしたマットレスなどを販売する「Casper」。マットレスの販売はテックビジネスではありませんが、Casperは賢明でした。データ、アプリ、地下鉄広告、ポッドキャスト広告などのスタートアップらしいマーケティング手法でビジネスを成功させたのです。
- グラミー賞でホアキン・フェニックスが述べたこと。第92回アカデミー賞で主演男優賞を受賞したホアキン。彼はスピーチのなかで、ジェンダーの不平等、人種差別、LGBTQ、動物の権利など、原因が何であれ、「不公正との戦いについて話している」と述べ、団結のメッセージを伝えました。
- Under Armourが不調。アメリカ発のアパレルブランドUnder Armourの調子がよくありません。2019年の売上高はわずか1.4%しか伸びず、同社が2月11日に発表したリリースによると、上場して以来初めての低迷になるということです。2020年も売上の低下が見込まれており、中国における新型コロナウィルスの影響も出ることが予想されています。
- レオ様主演映画が引き起こした「インフルエンサー文化」。レオナルド・ディカプリオが主演した2000年公開の映画『ザ・ビーチ』。映画内に登場したタイ・ピピレイ島にあるマヤ湾にはその後、多くの観光客が押し寄せ、環境破壊へつながることから現在も立ち入り禁止になっています。20年経った今では、同所にまつわるトピックがソーシャル上でシェアされ、当時はこの「ビーチ」がこんなにも話題になるとは予測していなかったでしょう。
【今週の特集】
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今週のQuartz(英語版)の特集は「Retail versus Amazon(Amazon VS 小売り)」です。圧倒的なスケールで小売業界を変えてきたアマゾンは、次にどこを目指していくのか。その野望のすべてをQuartzがレポートしていきます。
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