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India Explosion
爆発するインディア
Quartz読者のみなさん、こんにちは。世界でも最大規模のロックダウンが続くインドの動向は世界でも注目されています。第一段階を終えたところから見えてきた問題についてお届けします。英語版(参考)はこちら。
新型コロナウイルスのパンデミックで各国が対策を講じる中、インドは世界でも珍しく長期間の完全都市封鎖(ロックダウン)を実施しています。
野村証券の調査によると、このロックダウンによって国の経済の約75%が麻痺しており、2021年度のGDPも4.5%落ち込むと予測されており、4〜6月期だけでもインド経済は6.1%落ち込む見込みです。
3月24日にナレンドラ・モディ首相によって突如として発令された今回のロックダウンは、発表からわずか4時間後の25日午前零時に始まったため、国民は動揺。サプライチェーンの大規模な混乱を引き起こしただけでなく、何百万人もの国民の国内移動を促してしまう結果となりました。
DID IT HELP?
効果はいかほど?
当初、ロックダウンは4月14日までの予定でしたが感染者数は増すばかり。インド政府はロックダウンを「ウイルス感染拡大の数値カーブを緩やかにするために必要不可欠な措置」として、5月3日まで引き延ばすことを決定しましたが、政府がこれを正当化するために持ち出した根拠は説得力に乏しいと言わざるをえません。
例えば4月9日、外務省はロックダウンを実施しなかった場合4月15日までに感染者数が82万人に上るとの内部調査を発表しましたが、これについてインド医学研究評議会(ICMR)は、そのような調査結果はないと否定。これらの数値は厚生労働省による統計学的推定がもとになっていると指摘しました(下図参照、首都デリーで国内初の陽性患者が報告されたのは3月3日)。
政府発表の問題点は、数値を導き出すために使用されたモデルが明らかではないということで、根拠となるモデルは公開もされず政府による説明もありません。ICMRが公式発表しているモデルはロックダウンに関するものではなく、インドが他国に先立って開始した国境でのスクリーニング方針についての分析でした。
では、ロックダウンの効果を正しく知る方法はあるのでしょうか?
モデルについての公式発表がないインドでは、毎日更新される国内の感染者数のデータ集計をするしかありません。この図は合計感染者数をy軸、時間をx軸として自然対数を示しています。
図は、曲線が平らな部分は感染者数の増加がないことを、曲線が真っ直ぐに伸びている部分は感染者数の比例増加を表します。
平らで感染者数の増加が見えない期間があり、その後垂直に近い線が見られる3月4日を境に指数関数的増加に入ったことがわかります。重要なのは、期間がロックダウンより数週間前に始まっているということです。伸びは当初のロックダウン期間終了の2日前(4月12日)まで続きました。
3月30日あたりから曲線はわずかながら緩やかになり始め、楽観視する人もいるかもしれません。しかし、この時点ではロックダウン開始からまだ1週間しか経っていないうえ、国に先立つかたちで各州は自発的にロックダウンに突入していました。例えばカルナータカ州は3月13日に、マハーラーシュトラ州は3月20日にそれぞれ発表していました。
もしロックダウンが功を奏しているなら、この曲線は平らになるか、x軸に対して平行に伸びているべきでしょう。
経済と国民に大きな被害をもたらしたロックダウンはつまり、失敗でした。
LOST OPPORTUNITY
失われた機会
さらに大きな問題は、ロックダウンへの注目が、検査実施の強化を求める抗議の声をかき消してしまっていることです。
インドの検査数は世界と比べて非常に低いことは明らかです。米国で1日10万件実施されているのに対し、インドではこれまで(4月14日時点)20万件しか実施されていません。例えば世界中から観光客が訪れ、いわばウイルスのホットスポットともいえるゴア州では、人口150万人に対し検査実施数はわずか400件にとどまります。感染者は7人で死者は出ていないとのことですが、依然として封鎖状態にあります。
もし、インドの検査実施数が十分で数値も正確というのであれば、ゴア州のような地域にロックダウンを課す意味があるのか問わなければなりません。延長線上で考えたとき、ウイルス感染者数が少ない地域にまで及ぶ全国ロックダウンに説得力のある根拠はあるのでしょうか? 洋服のフリーサイズとでも言えるような、大は小を兼ねる手法が賢明でないことは明らかです。
しかし、もし感染率が報道よりも高かった場合、インドはこのロックダウン期間中に医療や公衆衛生の対応能力を増進する格好のチャンスをみすみす逃してしまうことになります。
これは急なロックダウンによって発生した経済的、人道的災害に限ったことではありません。平時からすでにキャパシティ不足といわれているこの国の医療機関の拡張だけではなく、新たな病院やクリニックの設置、検査体制の増強、貧困層の受け皿となる救援キャンプの設置も必要不可欠となってきます。
国民の13.4%が国際貧困ライン以下にあるインドが、経済活動がない状態に長く対応できる体力を持っているわけはなく、短期間で医療など公衆衛生のインフラを増強することも現実的ではありません。
要するに、インドのロックダウンはお世辞にも効果があったとは言えない…しかし今また、ロックダウンは更に延長され、13億超の人々の閉じ込めは今日も続くのです。
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(翻訳・編集:鳥山愛恵)
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