Post-Coronavirus Era
コロナ以降のビジネス
Quartz読者の皆さん、こんばんは。今日のPMメールでは、起業家や働き方の研究家たちが提唱する「コロナ以降の働き方」をお届けします。英語版(参考)はこちら。
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ほんの2カ月前、世界経済フォーラム(ダボス会議)では、企業の目的は、株主だけでなく、従業員やサプライヤー、地域社会、そして環境にとっての経済的かつ実用的なニーズに応えることであるというメッセージが提出されました。
その後すぐに、COVID-19が企業に対し、この精神に基づいた行動を強いることになると、いったい誰が予想したでしょう。
Ford、GM、3Mは、人工呼吸器をはじめとする、医療機器を製造する計画を発表しました。Rolls RoyceとDysonのエンジニアも、人工呼吸器の差し迫った需要に注目し、LVMHの香水工場は手指消毒剤の製造に軸足を移しました。
COVID-19は、企業が自身のミッションを改めて考え直すきっかけとなりました。と同時に、従業員に対する態度や「働き方」そのものの更新も迫られていると、多くの識者が語ります。
Diversity in the rank and file
社員は多様化する
リモートワークへの恒久的転換は、真に多様性のある会社を構築するための障壁を下げるでしょう。(Darren Murph, GitLab)
GitLab社でリモートワーク文化の責任者を務めるDarren Murphは、リモートワークへの恒久的なシフトチェンジの恩恵を受けるのは「介護者」(多くの場合、それは家庭内で子どもや高齢者の世話を引き受ける女性でした)だけではなく、自身障害や病気を抱えている人たちも含まれるとしています。
GitLabは65カ国で社員を雇用しています。そして、多様な人種や文化によって得られる多様な視点が、同社が提供するサービスをかたちづくってきたといいます。
また、テック業界の求人は生活費の高い沿岸部の都市に集中する傾向があり、多様な人材を集めるのに苦労してきました。近年、一部の企業では、人材採用のために遠隔地への進出を開始しています。今回の危機は、それを加速させる一助となるかもしれません。
生産性ソフトウェア会社Zapierは、ベトナムやブラジル、クロアチアを含む27カ国に300人以上の従業員を配置しています。共同設立者のWade Fosterによると、リモートワークに最も適した従業員は「コミュニケーション能力に優れたセルフスターター」。チームが複数のタイムゾーンに分散している場合には、特にこの要素が不可欠です。
Fairness
求められる公平さ
「有給休暇は公衆衛生の問題でもあるという事実を、より直感的に理解できるようになりました」(Terri Gerstein, Harvard University)
企業は今、その方針を変更し、有給休暇や在宅勤務のような福利厚生が用意されていなかった第一線で働く労働者がよりよいサービスを享受できるよう動いています。
ハーバード大学のTerri Gersteinは、「緊急措置としての有給休暇導入は、それをちゃんと管理できるかを検証する、ある種の実証実験になるでしょう」と語ります。
この危機は、企業が従業員の福利厚生を大切にしているという態度を示す機会です。また、病気でも出勤せざるを得ない労働者がいるということは、他の労働者を危険にさらすことになりかねません。
「有給休暇は労働者の権利の問題であると同時に、公衆衛生の問題でもあるという事実を、より直感的に理解できるようになりました」と、Gersteinは言います。
Benefits for gig workers
ギグワークの地位向上
「企業は、ギグワーカーにとっての“雇用主”にはなれなくとも、リソースをプールして福利厚生のコストに充てることはできるはずです」(Yong Kim, Wonolo)
この危機は、ギグワーカーの力に大きく依存してきたビジネスモデルが抱える問題点を浮き彫りにしています。
歴史的に見て、福利厚生は一般的に契約労働者には適用されていませんでした。この点は、UberのCEO、Dara Khosrowshahiでさえも指摘しているところです。
「企業は、ギグワーカーにとっての“雇用主”にはなれなくとも、リソースをプールして福利厚生のコストに充てることはできるはずです」と、ウォルマートやユニクロなどの企業と派遣労働者をつなぐ人材派遣プラットフォームWonoloのCEO、Yong Kimは提案しています。
Better home offices
よりよい自宅勤務
「社員の多くは、他の同僚がいない職場では働きたくないとすら思っています」(Wade Foster, Zapier)
世界で約5,000人の従業員を雇用し、その大半をカナダに抱えるShopifyは、遠隔勤務への移行を容易にするべく、従業員が事務用品を購入するために各1,000ドルの給付金を支給しています。Facebookは、従業員向けにビデオチャットデバイスを無償提供しています。
前出のZapier共同設立者のFosterによると、同社では一部の従業員がコワーキングスペースを利用していますが、ほとんどの従業員は自宅で働きたいと考えていると言います。「デスクを自分好みの構成にすることで、より効率的に仕事ができるわけです。社員の多くは、他の同僚がいない職場では働きたくないとすら思っています」
HRアウトソーシングサービスG&AパートナーズのDave Berndtは、将来的には、より多くの企業が自宅と職場のハイブリッドモデルを採用する可能性があると予測しています。
Literal savings
文字通りの“節約”
勤務時間の半分を在宅にすれば、従業員は年間2,500ドルから4,000ドルを節約できる。(Workplace Analytics)
企業にとって、コスト削減は大きなインセンティブとなります。「今では多くの事業者が、5万平方フィートものスペースをニューヨークのダウンタウンにもつ必要はないと言っています」と、Society of Human Resources Managers(SHRM)のCEO、Johnny Taylor Jr.は言います。
調査会社Workplace Analyticsの試算によると、企業は年間平均1万1,000ドルの不動産使用料を削減できる一方で、生産性の向上と在宅勤務に伴う離職率の低下から恩恵を受けられるといいます。
一方、Workplace Analyticsによると、勤務時間の半分を在宅にすれば、従業員は年間2,500ドルから4,000ドルを節約できるといいます。そしてこの恩恵は、金銭的なものだけではありません。通勤時間が短縮されることで、年間11営業日の自由時間が手に入るのです。
Cultural norms
「規範」の再設定
「COVID-19は、特に米国やインドなどで、プレゼンティーイズムがいかに広まっているかを明らかにしています」(Dawna Ballard, University of Texas at Austin)
従業員の生産性を維持するためではなく、その休息と健康を守るためにワークライフバランスにもっと真剣に取り組むべしとの声が、長い間雇用主には求められてきました。
テキサス大学オースティン校のコミュニケーション学教授で、時間学の研究者であるDawna Ballardは、次のように指摘します。
「生産性を向上させる手段としての睡眠不足を強いてきた職場文化は、ミス、プレゼンティーイズム(Presenteeism)、労働災害などの質の低い仕事の結果をもたらすだけでなく、免疫システムを低下させます」
プレゼンティーイズムとは、会社に出勤しているものの健康上の問題で労働に支障をきたし、パフォーマンスが低下している状態のこと。
「COVID-19は、先進国——特に小売店やレストラン、ホテルなどのサービス業に従事し有給の病気休暇を得られずにいる何百万もの人が暮らす米国や、労働人口の90%がインフォーマル経済に従事するインドなどで、プレゼンティーイズムがいかに広まっているかを明らかにしています」と、Ballardは述べています。
十分な手当を受けている従業員でさえ、雇用者に対する献身的な姿勢を疑われることを恐れて、病欠を取らないことが知られています。
「こうした人々は病気になっても出勤し、病気を蔓延させてきました」とBallardは言います。「短期的にも、個人的にもうまくいっているように思えていたものが、集団的に、あるいは長期的に見ると生産性に深刻な影響を及ぼす可能性があるのです」