Post-Corona:世界を覆う「孤独」の処方箋

Post-Coronavirus Era

コロナ以降のビジネス

Quartz読者の皆さん、こんにちは。今日のPMメールは、ソーシャルディスタンシングにより深刻さを増す「孤独」について。新型コロナ以降に生まれた様々な対策、数年前から立ち向かってきた英国での取り組みの今を紹介します。

REUTERS/VALENTYN OGIRENKO
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Image: REUTERS/VALENTYN OGIRENKO

リモートワークが一般的になり、人と人とがデジタル上で簡単に繋がれるようになった一方で、孤独がもたらすメンタルヘルスへの影響が大きくなりつつあります。

英国政府が「事実上の外出禁止」を発表したのは、2019年3月23日のこと。それから1週間後、2020年3月末に25歳以下を対象に行われた調査では、83%が「自分の精神状態が悪化している」と答えました。

その原因として、家族や自分の健康に対する不安と並んで挙げられているのが、学校などを通じた社会との繋がりが失われた結果として生じた孤独感です。

DISEASE FROM DISTANCE

「距離」が生む病

ソーシャルディスタンシングによって、家の中での問題が増加する危険性はたびたび報告されています。中国湖北省の建里県では、警察に寄せられる家庭内暴力の報告が昨年の47から162となり、2月のロックダウン中に3倍以上に増加したとも報じられています

孤独がもたらす影響が及ぶのは、子どもに対するものだけではありません。ベルギーのとある老人ホーム関係者は「もしロックダウンがあと数カ月続けば、感染症よりも孤独によるうつ病によって入居者が亡くなっていく可能性もある」と語っています

REUTERS/FRANCOIS LENOIR
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Image: REUTERS/FRANCOIS LENOIR

同国では4月18日の時点でコロナウイルスによる公式な死亡者5,453人のうち2,772人が老人ホームで死亡しています。スペインでも老人ホームへの訪問の許可をめぐって議論がおきています。

パンデミックが今、「繋がりの欠如」ともいえる状況を引き起こしていることは間違いありません。平時とは異なるかたちで破壊的に蔓延する孤独に対して、様々な取り組みが生まれています。

CONNECT VIA INTERNET

人はつながりたい

バーチャルデートアプリを手がけるeharmonyの調査によると、現在英国に住む男性の約5分の1がオンラインビデオチャットでパートナーを探しているといいます。

同社の「人間関係の専門家」(Relationship expert)は、「オンライン通話で人々に会うことは、孤独感を和らげます。表情をふくむやボディランゲージは、コミュニケーションがスムーズに行われていると感じさせてくれるでしょう。さらに、相手が外の世界とつながっていることを実感してもらえれば、自分の満足感にもつながる」と言います

REUTERS/DAMIR SAGOLJ
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Image: REUTERS/DAMIR SAGOLJ

社会的マイノリティのための取り組みもスタートしています。

カリフォルニアの介護サービス事業者は、高齢者の孤独を癒すためにビデオ通話や教材を使ったバーチャルセラピープログラムを提供しています。また、映画『ドリーム』への出演で知られる女優のタラジ・P・ヘンソンは、貧困に苦しむアフリカ系アメリカ人のために無料で遠隔でのセラピーによる支援を提供するキャンペーンを立ち上げました。いずれも、ソーシャルディスタンスのなかで、他者を助けるための新しい繋がりを生み孤独を癒すためのチャレンジといえるでしょう。

もっとも、今ソーシャルディスタンスにより注目を集めつつある「孤独」は、ここ数年の間で注目されてきた「社会的な病」でもあります。欧米では以前から社会的分断による孤独への対策が進められていました。

MINISTER FOR LONELINESS

孤独担当大臣のお仕事

2018年1月、当時の英内閣は世界で初めて孤独担当大臣というポストを新設しました。その背景には、孤独が肥満や喫煙と同じくらい健康面にリスクを与え、「早死に」の原因になっているという事実があります。

また、同国が世界初の大臣を設置した直接の要因はジョー・コックス孤独委員会の調査にあります。「全人口の13%以上が孤独をよく感じている」など、13以上の慈善団体との連携のもと明らかになった数字が示す状況は深刻なものでした。

また、先進国で問題化していた孤独の現状が、高齢者、マイノリティ、そして若者を中心に拡がっていることが明確になったほか、ソーシャルメディアやスマートフォンなどのテクノロジーが人を繋ぐと同時に、対面のコミュニケーションを減らしてしまっているという問題も浮上しました

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孤独担当大臣の設置後、英国は国を挙げて長期的な孤独対策の議論を進めてきました。例えば、医師は、「ソーシャル・プレスクライビング(社会的処方)」を行うことができるようになりつつあります。

ソーシャル・プレスクライビングとは、単に薬に頼るのではなく、コミュニティを繋ぐリンクワーカーを通じて、患者に地域での役割を与えウェルビーイングを高める方法。社会的な繋がりによって、早期死亡のリスクが50%減少するという調査もあります。

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さらに、孤独への対策は、住宅からビジネス、交通に至るまで、英国のあらゆる領域に組み込まれつつあります。スーパーマーケットのセインズベリー、ロンドン交通局、イギリス赤十字社なども、従業員のウェルビーイングのための計画を策定、さらにロイヤルメールは郵便局員が配達の一環として孤独な人の家を訪問するプログラムを実施しています。

2020年1月に英国政府は初の中間報告レポートを発表。新型コロナウイルスの猛威が英国を襲ったのは、社会がもつ繋がりの力を活用して、孤独を癒すための取り組みが結実しつつあったタイミングでした。

WHAT IS SOCIETY CAN DO?

「刹那」から「継続」

英政府は、この大きな困難のなかで孤独への取り組みを忘れてはいません。

3月31日にはメンタルヘルスを維持するためのガイドラインを発表しました。家族や友人と話せない人のために、孤独を癒す方法としてヘルプラインの活用を呼びかけるなど、様々な状況に合わせたサポートを行っています。

さらに、オックスフォード大学の新型コロナウイルス対策チームは、孤独のために英国が取り組んできた「社会的処方」として今何ができるのか、レポートを発表。そこでは、物理的なコミュニティを前提としてたリンクワーカーなどの活動が休止していることを認めながらも、オンラインでの合唱や読書会といったテクノロジーを活用した社会的処方の新しい可能性を示しています。

孤独が加速しつつあった現代社会を襲った新型コロナウイルスが、オンライン上の刹那的なコミュニケーションから継続的な地域の繋がりへのアプローチへの移行を進めてきた英国に、大きな影響を与えていることは間違いありません。

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前述のオックスフォード大学のレポートによれば、3月25日の段階でFacebook上で300近いローカルサポートのためのグループがつくられ、そこには100万人以上の人々が登録。そこでは人々がボランティアで用事を済まるなど、人々の行動が変わりつつあるといいます。

実際、3月24日に英国の国民保健サービス(NHS)が呼びかけたコミュニティーでのボランティアの取り組みには、75万人以上が応募し、4月13日時点で100万人が登録されています

人と人が直接会えない現在の状況でも、英国が孤独に立ち向かうために培ってきた社会がもつ繋がりの力は、確実に声無き誰かを救っています。ソーシャルディスタンシングを保ちながら、社会が孤独に対してできることが、これからも模索されていくでしょう。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 解除後も元通りにはならず。ロックダウンが5月11日まで延長されたフランス。しかし、政府は解除後のレストラン、バー、カフェの再開可能性を否定しており、ブルーノ・ルメール経済・財務大臣は、ウイルスの被害が最も大きかった地域では制限が残る可能性が高いことを示唆しました。同大臣は、まずは顧客と労働者を同様に保護する法整備が先立つべきだと述べています。
  2. ワイン産業が危機。バーやレストランが閉鎖されるなか、世界のワインの売り上げは減少。ヨーロッパのワインメーカーの収入は半減する可能性があると、国際ブドウ・ワイン機構(OIV)は話しています。ロックダウンが緩和されれば再び需要は伸びそうですが、パンデミックによって業界になにかしらの大きな変化が生まれるかもしれないと危惧しています。
  3. 欧州企業は生き残れるか。ベンチャーキャピタルは、2020年第1四半期に82億ユーロ(約9,500億円)を欧州企業に投資しました。PitchBookの「European Venture Report Q1 2020」によると、2020年の最初の3カ月間は、欧州のディール総額で過去4番目に好調な四半期に。よいスタートを切ったものの、パンデミックがエコシステムの案件に大きな影響を与えることが予想されています。また、欧州のハイテク企業に対する米国資本の流入も脅かされています。
  4. アートで医療従事者に感謝の意。英国では、今回のパンデミックにおける国民保健サービス(NHS)の職員の献身的な努力への感謝を、アーティストたちがストリートアートで表現しています。ほかにも、Damien HirstはNHSで働く人々へ感謝の意味を込め、「Butterfly Rainbow」と題したカラフルなデジタルコラージュを自身のウェブサイトで公開し、無料でダウンロードできるようになっています。

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