🍦 ベンジェリ問題でミッションについて考えた

ベン&ジェリーズV.S.ユニリーバの裁判で、今週、ニューヨークの判事はB&Jに不利な判決を下しました。そもそもB&Jはなぜ親会社を訴えたのでしょうか? そこにあるのは「自らのミッションを守ろう」という根源的な動機でした。
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Photo: RONEN ZVULUN (Reuters)

ベン&ジェリーズ(Ben & Jerry’s、以下B&J)V.S.ユニリーバ。2000年以降、子会社と親会社という関係にある両者の裁判で、今週、ニューヨークの判事はB&Jに不利な判決を下しました。

そもそもB&Jはなぜ親会社を訴えたのでしょうか? そこにあるのは「自らのミッションを守ろう」という根源的な動機でした。

このケースは、いま資本主義において顕著になりつつある、ひとつの疑問を浮き彫りにするものだと記憶されるべきでしょう。


The background

そもそも何があった?

B&Jが、「自分たちの価値観(バリュー)と一致しない」としてOPT(Occupied Palestinian Territory、パレスチナ暫定自治区)におけるアイスクリーム販売の中止発表したのは、2021年7月のことでした。

それから1年後、一部の株主をはじめとする批判と圧力にさらされたB&Jの親会社ユニリーバは、次のような解決策にたどり着きます。それは、イスラエルにおけるB&Jの事業を現地の販売会社に売却し、味、パッケージはそのままに、英語表記からアラビア語/ヘブライ語表記に変更することでした。

B&Jはユニリーバに対し、この売却案の一部中止を求めて裁判を起こしましたが、今週月曜日、判事は、ユニリーバが「回復不可能な損害」を被っていること、また顧客の混乱を招いたとしてB&Jに不利な判決を下すに至りました。

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Photo: RANEEN SAWAFTA, 08/26/2022 (Reuters)

Ben & Jerry’s FAQ

B&Jの想定質問集

2021年7月にB&Jが公開したFAQを紹介します。同ページにおいて、B&Jは「(自社の)アイスクリームがOPTで販売されることは、当社の価値観と矛盾している」ことを理由に、2023年以降の現地ライセンシーとの契約更新をしないと説明していました。

  1. 「価値観と一致しない」というけど、どういう意味?:わたしたちは、人権や経済的・社会的公正を擁護してきた長い歴史をもつ、価値観主導の企業です。国際的に認められた不法占拠の中にわたしたちの製品が存在するのは、わたしたちの価値観と矛盾していると考えているのです。
  2. B&Jの言う「OPT」とは何のことですか?:わたしたちの定義は、国連によるOPTの定義に準じています。
  3. なぜ、来年(2023年、訳注)までOPTから製品を撤去しないのですか?:現在のライセンス契約は、2022年末に終了します。その後、B&Jは別の業務契約を通じてイスラエルに留まります。この件に関する最新情報は、準備が整い次第、お知らせします。
  4. イスラエルから撤退するの? これはイスラエルをボイコットするということ?これはBDS(ボイコット、ダイベストメント、サンクション)運動の一環なの?:いいえ、そうではありません。B&Jが今後OPTで販売することはありませんが、別の業務契約によってイスラエルに留まる予定です。この件に関する最新情報は、準備ができ次第お知らせします。
  5. B&Jは反ユダヤ主義として非難されていますよね。どのような対応をしていますか?:わたしたちは、あらゆる形態の憎悪と人種差別を拒否するとともに、いっさい認めることはありません。OPTからの撤退は、国際的に認められた不法占拠の中にB&Jが存在することは、私たちの価値観と矛盾するという信念に基づいて決定されたものです。わたしたちが自らの価値観に基づいて発言し行動することは、反イスラムでも反ユダヤ主義でもありません。

Quotable

ベンジェリーの弁明

共同創設者であるBenとJerryは、エッセイで次のように記しています

「会社の価値観と経営をより完全に一致させるという同社の決定は、イスラエルを拒絶するものではない。平和の障壁となり、占領下で暮らすパレスチナ人の基本的人権を侵害する不法占拠を永続させるイスラエルの政策を拒否しているのだ。イスラエル国家のユダヤ人支持者として、わたしは、イスラエル国家の政策に疑問を呈することが反ユダヤ主義であるという考え方を根本的に否定する」


What is the purpose of companies?

会社は何のためのもの?

企業の目的(パーパス)とは何か?と問われれば、この50年間、多くのビジネスマンにはわかりやすい答えが用意されていました。

わたしたちにその答えをプレゼントしてくれたのは、経済学者のミルトン・フリードマンでした。彼は1970年、企業の目的は株主のためにお金を稼ぐことだと説明しています。確かにそう考えれば、企業はたったひとつのことに100%集中することができるわけで、さぞ効率的に機能することでしょう(サメが狩りに集中するように!)。

フリードマンのことばをそのまま受け入れるのであれば、環境への配慮も社会的不平等も、あるいは戦争などの“複雑”な問題は、政治家や活動家や平和主義者に委ねればよいのです。服を売っておきながら反消費者主義者になれるはずがないし、アイスクリームに戦争を止める力などありません。

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Photo: Wikimediacommons

しかし、この数年、フリードマンが提唱した論は、より科学的に検証され、不十分であることが分かってきました。企業のトップも、企業の力が現代社会の進もうとしている道の方向性を変え、害悪を軽減する強力なレバーのひとつになりうることを認め始めています。

その“企業のトップ”の筆頭が、ユニリーバの前CEO、ポール・ポルマンでした。彼は、企業にとってのミッションの重要さを最も声高に提唱していたひとりでした。

しかしいま、そのポルマンがかつて率いていた会社は、必ずしもその価値観に従うことを望んではいないようです。

ユニリーバは、小規模ブランドを買収し、その規模を拡大しながら倫理的な管理を継続させるというパーパスドリブンモデルをとってきました。しかし、困難な意思決定を前に、実際に試される瞬間が来ていると言えるでしょう。ユニリーバは、自分たちのイスラエルとOPTに関する決断は公正でバランスが取れていると主張するかもしれません。しかし、お互いに約束した取締役会(次項をご参照)を維持することに同意した上でそれを覆したという事実は、避けようがありません。


A signal to purpose-driven companies

「目的志向」が向かう先

ユニリーバがB&Jを買収したのは2000年のことでした。その際、両社はB&Jブランドが独立した取締役会を維持できるようにすることに合意しています。この取締役会は、イスラエルにおける事業売却に激しく反対しましたが、ユニリーバは、同取締役会に売却を阻止する力はないと説明しています。

これはつまり、「大企業が小企業を買収した場合、当初どんな約束をしたにせよ、子会社化された小企業の意向を無視することができる」ということです。

結局のところ、こういったケースにおいて、小さいながらもパーパスドリブンな企業に残された選択肢は限られたものでしかないのかもしれません──すなわち、独立したまま(おそらく規模を拡大することなく)目的を果たせずないままとなるか、売却して売り抜けるかという2択となるのです。

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Photo: RONEN ZVULUN (Reuters)

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