わたしがまだ小さいころは、ハリウッドのアクション映画に出てくるヴィランといえば、巨体で訛りが強く、不機嫌なロシア人でした。当時は、なぜ主人公がアメリカ人で、悪役がロシア人でなければならないのか疑問を抱くことはありませんでした。
しかし、大人になったいま、ポップカルチャーの世界にも地政学的な要素があることを知っています。どの物語にも、人類の救世主たるヒーローが登場し、ヴィランは民主主義や平和や秩序といった世界的な理想を脅かす人物でなければならないわけです。
先週、旧ソビエト連邦の最後の指導者であったミハイル・ゴルバチョフが亡くなりました。この報せを、アフリカ人としてのわたしは複雑な気持ちで受け取りました。
旧ソ連がアフリカ大陸に残した遺産も、その後の旧ソ連の崩壊も、大陸にはメリットとデメリットの両方をもたらしました。ゴルバチョフによる旧ソ連解体は、南部アフリカの一部の地域に独立の種をまき、最終的に南アフリカのアパルトヘイト廃止につながったことを考えれば、想いはさらに複雑なものとなります。
旧ソ連崩壊後、ハリウッドには新たな物語が生まれましたが、一つの超大国がもう一つの超大国に対抗することに変わりはありません。そして相変わらず、歴史を、すべての村、町、国、地域で繰り広げられている複雑な状況を理解するのに失敗しています。ある人にとっての英雄が別の人にとって悪人であるように、ゴルバチョフも国内よりも海外で尊敬を集めていました。
あなたにとってのヒーローは、植民地支配後のアフリカで最も偉大な英雄のひとりであるコンゴ民主共和国のパトリス・ルムンバを暗殺した人物かもしれません。あるいは、あなたのヒーローは、マリを不安定にし、サヘル地域での反乱の種をまいたかもしれません。あなたにとってのヒーローは、巨大な船で違法な乱獲を行いそれが「アフリカの角」での海賊行為の増加につながったかもしれません。
世界で起きている地政学的な問題はいくつもありますが、アフリカ諸国の政府はそのときそのときで、どちらかの側につくことを曖昧にしているように見えるかもしれません。これは、物事が常に白黒はっきりしているわけではないことの証左であると同時に、昨日の敵が明日の友になるかもしれないことを知っている人びとの知恵の表れと見るべきなのかもしれません。(Quartz Africaエディター・Ciku Kimeria)
STORIES THIS WEEK
アフリカで起きている事
- 相次ぐ配車アプリのセネガル進出。セネガルにはフランスのHeetch、ロシアのYango、アルジェリアのYassirといった配車スタートアップが相次いで進出しています。人口1,800万人のこの国は市場としては魅力的である一方、セネガルの伝統的なタクシードライバーはスマートフォンを持っていなかったり、フランス語が話せなかったり、アプリの必要性を感じていなかったりといった壁があり、ドライバー不足とそれによる待ち時間の長さにも悩まされています。
- 対米ドルで上昇を続けるザンビア・クワチャ。2021年8月にザンビアの大統領に就任したハカインデ・ヒチレマは、低迷する経済を安定へと導きました。現在、ザンビア・クワチャは対米ドルで最もパフォーマンスのよい通貨で、1月22日から9月1日までドルに対して18.5%以上の上昇を見せています。
- ガーナでドローン配送が本格化。アフリカのEC企業Jumiaは、血液のドローン配送で知られるZiplineが設計したドローンの利用を開始しました。Jumiaはこのドローンを使い、家電からファッション、健康から美容までさまざまなカテゴリーの商品を配送予定です。ZiplineはJumiaとの提携により、自分たちがヘルステック企業ではなく物流企業なのだということを強調し、EC企業とのパートナーシップを拡大させたい考えです。
- ケニアで進む脱ガソリンバイク。この1年、ケニアでは電動バイクのスタートアップが続々と誕生しています。電動バイクはケニアで深刻な大気汚染の対策として有望視されているほか、ガソリンバイクの燃料費やメンテナンス費用の高騰を理由に乗り換えるライダーも増えているということです。
- エミレーツ航空が未払い分のチケット代を回収。深刻なドル不足にあえぐナイジェリアでは航空各社に対する航空券収入の送金が滞っており、航空会社の同国からの撤退が危ぶまれています。ドバイ拠点のエミレーツ航空も4億6,400万ドル(約652億円)分の航空券収入を得られずにいましたが、このほど中央銀行の介入により2億6,500万ドル(約372億円)が回収できる見込みとなりました。
- Wasokoが引っ越し。ECスタートアップのWasokoがナイロビからザンジバルに拠点を移しました。同社の最高経営責任者(CEO)であるダニエル・ユーはその理由を「税制上の優遇措置があるため」としています。
- 厳しくなるナイジェリアの投資家の目。インフレや紛争などを背景にアフリカの経済情勢が不安定になるなか、ナイジェリアではベンチャーキャピタルが相次いで資金調達を行なっています。こうした資金はテックスタートアップへのさらなる投資に使われる予定ですが、投資額がかさむにつれ投資家のスタートアップ選別の目は厳しくなっています。
- エチオピアが暗号通貨を解禁。2022年6月、エチオピア中央銀行は「暗号通貨ビジネスは違法だ」とする声明を発表しました。しかし、このたびその決定が覆され、暗号通貨の事業者は10日以内に国のサイバーセキュリティ機関である情報ネットワーク・セキュリティ庁(INSA)に登録することが義務付けられました。こうした政府の動きは、暗号通貨を使ったサイバー犯罪から国民を積極的に守るための試みと考えられています。
MAPPING AFRICA’S FINTECH POTENTIAL
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「アフリカの金融サービスの市場規模は?」。これは、アフリカのフィンテックスタートアップの可能性を評価したい投資家が最もよく聞く質問のひとつです。2020年の市場規模は約1,500億ドル(約21兆911億円)で、保険や小売、中小企業向けの融資がその原動力となっています。
一般的な意見に反し、アフリカのフィンテックはまだ飽和状態にありません。アフリカへの投資の大半はフィンテック分野に流れている一方、アフリカではいまだに取引の9割が現金で行なわれています。
DEALMAKER
今週の注目ディール
- ナイジェリア人による海外の銀行口座の開設をサポートしているスタートアップ、Greyがシードラウンドで200万ドル(約2億8,113万円)を調達しました。このラウンドには、Y CombinatorやSoma Capital、Heirloom Fund、True Culture Fundなどが参加しています。Greyは2020年に創業し、創業者らによると10万人のユーザーを抱えているといいます。
- 企業向けに決済システムを提供しているナイジェリアのDuploは、シードラウンドで430万ドル(約6億444万円)を調達しました。出資者にはLiquid2 Ventures、Soma Capital、Tribe Capital、Commerce Ventures、Basecamp Fund、Y Combinator、Oui Capitalなどが名を連ねています。2021年9月創業の同社にとって、今回の資金調達は7カ月前のプレシードラウンドに次ぐ資金調達で、現在の調達額は合計560万ドル(約7億8,718万円)になりました。
CASE STUDY
今週のスタートアップ
- 企業名:Socium Job
- 本社所在地:ダカール(セネガル)
- 事業展開:コートジボワール、セネガル、マリ、ブルキナファソ
- 創業者:Samba Lo
フランスで工学と数学を学んでいたサンバ・ロー(Samba Lo)は、2017年から21年にかけてデロイトやゴールドマン・サックス、ロスチャイルド&カンパニーといった企業で働いてきました。しかし、その間も祖国セネガルに影響を与えたいと常に考えていたといいます。
そして2021年9月、ローはダカールでSocium Jobを創業しました。パンデミックの影響で世界が働き方や仕事や雇用のあり方を見直していたこの時期は、プラットフォームを立ち上げる絶好のタイミングでした。
Socium Jobは、アフリカのフランス語圏の市場に進出する企業が域内外の優秀な人材を活用するためのツールとして生まれました。Socium Jobがターゲットとしているのは、従業員30人以上の企業のみです。
このプラットフォームを人材発掘に利用している企業のなかには、8,000人以上の従業員を抱え、自らを「セネガル最大の民間雇用主」と称する農業大手のCSSも名を連ねています。また、コートジボワールの国立投資銀行であるBanque Nationale d’Investissement(BNI)や通信大手のOrange Maliなども同社のクライアントです。
Socium Jobのアプローチは、コンテンツとテクノロジーを重視しています。まず企業側は、役員の声、オフィスの様子、コアバリューなど、職務の詳細だけでなく事業内容や企業文化も垣間見られる動画を用意します。こうした動画は求人情報や応募プロセスで目立つように表示され、企業はSocium Jobが提供する人材プールや応募者トラッキングシステムといったシステムを活用して採用活動を行なえます。
大切なのは雇用主が自社を求職者に売り込むことだとローは話します。求職者たちの目は以前に増して肥えており、フランス語圏の企業の間では激しい人材獲得競争が繰り広げられているからです。また、フランス語圏で働きたいと考えている域外の人材も、実際に移住する前にどんなチャンスや企業があるのかを慎重に見極めようとします。
ローはSocium Jobについてこう語ります。「このプラットフォームで求職者が最初に目にするのは求人票ではありません。最初に目にするのは企業です。その下には、その企業がどんな会社なのかを紹介する動画が表示されるのです」
ローはさらに、Socium Jobが、アフリカ地域で熟練の人材を見つけられないと嘆く大企業と自分のスキルや資格に合った機会を見つけられないと嘆く労働者のギャップを埋める存在だと主張します。
現在Socium Jobの利用者の2割が域外在住のアフリカ人です。そしてこのプラットフォームの最大の競合は、いまもなお新聞や口コミのネットワークだといいます。ロー曰く、西アフリカ地域の求人情報のうちオンラインに掲載される情報は3%に届きません。
Socium Jobは2022年8月、地域全体での成長のために100万ドル(約1億4,054万円)を調達したと明らかにしました。現在同社はセネガルやコートジボワール、マリ、ブルキナファソに進出しています。Socium Jobはまず強力な営業チームを武器にアフリカ・フランス語圏に自社のソリューションを展開し、認知度と技術力の向上に力を入れるとローは言います。また、今後はより革新的な人事向けのデジタルソリューションも展開していく予定です。
IN CONVERSATION WITH
- 📋 いまアフリカ・フランス語圏で求められているスキルについて:「デジタル人材を採用する企業が増えています。ソフトウェアエンジニアやデザイナーの求人も増えていますね」
- 💻 リモートワークの拡大について:「リクルーターはいま、リモートワークにとても前向きです。これはデジタル人材にとって好都合でしょう。われわれは5カ国以上で求人情報を展開していますが、例えばソフトウェアエンジニアはどこにいてもできる仕事です」
- 🧳 域外からアフリカでの仕事に応募する人材について:「現在海外で働いているアフリカ人のなかでも、アフリカに戻りたいと考える人は増えています。現在、Socium Jobの利用者の2割が域外在住のアフリカ人です。アフリカにはよい仕事が増えているのです」
Quartz Japanのニュースレターサービスは、2022年9月30日をもって終了いたします。9月30日まで、平日夜のニュースレターでは、これまで通り気候変動やアフリカのニュースのほか、この3年で起きたグローバルビジネスの大転換を振り返る内容をお送りしていきます。年額会員の皆さまへの返金などサービス終了に伴うお手続きについて、こちらをご覧ください。