第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)まで、あと2カ月となりました。今年の開催地は紅海に面したエジプトの地方都市シャルムエルシェイク(Sharm el-Sheikh)で、日程は11月6〜18日が予定されています。
世界ではロシアのウクライナ侵攻によってさまざまな問題が噴出しており、気候変動対策は全般的に後退している状況です。これまで排出量削減の先陣を切ってきた欧州では、ドイツをはじめ複数の国がロシアへのエネルギー依存を断ち切るために石炭火力発電所を再稼働させる決断を下しました。
一方、開発途上地域ではエネルギー価格や食糧価格の高騰でインフレが急加速し、社会不安が増している状況です。さらに米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために大胆な利上げを続けているためにドル高が進み、結果として新興国などの債務危機リスクが大幅に拡大している点も懸念材料として指摘されています。
今年はアフリカでの開催ということもあり、開発途上国に対する支援の規模や枠組みが再び大きな議論となることは必至です。異常気象などが頻発し被害も深刻化するなかで、気候変動によって引き起こされた損失や損害をどのように補償していくかについても、難しい話し合いが続けられていくでしょう。
例えば、海面上昇によって太平洋の島嶼国が完全に水没し、国民全員が行き場を失うというような事態が生じた場合、どのように対応すべきかを決めるのは容易ではありません。世界銀行(World Bank)は、2050年までに世界全体で2億2,600万人が気候変動のために国内避難民化する恐れがあるとの試算を示しています。こうした環境「難民」の定義や扱い、受け入れなどをどうするかといった枠組みの策定が急務となっています。
環境関連のニュースで耳にすることが多いCOPですが、具体的にどのようなことが話し合われているかに関心をもつことで、気候変動を巡る問題に対して理解も深まります。COP27ではどのような課題があるのか、みていきましょう。
BY THE DIGITS
数字でみる
- 197カ国・地域:国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)を締結した国と地域の数。今年はUNFCCC採択から30年の記念の年となる
- 70カ国以上:国別削減目標(Nationally Determined Contributions、NDC)で2050年までの排出量実質ゼロの打ち出している国の数。これらの国が世界の排出量に占める割合は約76%に上る
- 0.6%:開催国エジプトの排出量が世界全体に占める割合。排出量が全体の1%を超える国は世界で16カ国のみで、うち上位3カ国(中国、米国、インド)が全体の半分を排出している
- 11.8%:アフリカで気候変動対策に必要とされる支援のうち2020年に実際に行われた規模。2020〜30年の10年間は年間2,500億ドルが求められているが、昨年の実績は295億ドルにとどまった
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COPについておさらい
COPは「Conference of the Parties(締約国会議)」の略で、正式名称は「国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP-UNFCCC)」です。国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)を締結した国がすべて集まる話し合いの場で、環境関連のニュースでよく出てくる「京都議定書(Kyoto Protocol)」や「パリ協定(Paris Agreement)」などもCOPで決まった枠組みです。京都議定書は1997年に開催されたCOP3、パリ議定書は2015年のCOP21で、それぞれ採択されました。
UNFCCは1992年の国連総会で合意に達し、記念すべき第1回のCOPは1995年にベルリンで開かれました。その後は毎年、各国政府の代表者や産業界、学術界などが一堂に会し、現状の確認や今後の課題について協議を行っています(ただ、2020年に開催予定だったCOP26は新型コロナウイルスのパンデミックために1年間延期されました)。
開催地は世界の5地域(アフリカ、アジア・太平洋、中南米・カリブ、中欧・東欧、西欧・その他)の持ち回り制で、順番が来た地域で開催を希望する国が申し出て決まります。来年に行われるCOP28はアラブ首長国連邦(UAE)が開催国となります。
なお、2019年のCOP25は当初はブラジルで開かれる予定でしたが、同年に就任したジャイール・ボルソナーロ大統領が開催を辞退したために、代わりにチリがホスト国を引き受けることになりました。しかし、チリでは同年10月から反政府デモが激化したために、開催場所は土壇場でスペインのマドリードに変更されています。
IMPLEMENTATION
COP27の目標
ウクライナ戦争により世界情勢の先行きの不透明さが増しているなか、議長国エジプトのサーメハ・シュクリ(Sameh Shoukry)外相は、COP27の目標は「履行(implementation)」だと述べています。グラスゴーで行われたCOP26での合意内容を確実に実現していくことが重要だというのです。
各国が何らかの枠組みで合意した後には、合意内容を具体的な計画に落とし込み実行していく作業が待っています。
例えば2009年のCOP15では、先進国が途上国の排出削減対策に対して年間1,000億ドルの支援を行うことが決まりました。この目標の期限は2020年に設定されましたが、同年の支援額は833億ドルにとどまり未達に終わったことがわかっています。もちろん未達だからといって目標設定が無意味だったということにはなりませんが、計画倒れになってしまっては仕方がありません。
先進国による途上国への資金援助では、気候変動適応策(climate change adaptation、CCA)の重要性がこれまで以上に増しています。気候変動対策というと排出量の削減に目が行きがちですが、COP15で合意した2020年までの年間1,000億ドルの支援も、気候変動の抑制と影響への適応策のための資金に充てられると明記されていました。異常気象などが頻発し被害が拡大するなかで、排出量削減と同時に現在進行形で進む気候変動の影響に早急に対処していく必要が生じているのです。
世界を見渡せば、いま現在だけでもパキスタンの洪水、欧州やアフリカのソマリアと周辺地域で続く歴史的干ばつなど、さまざまな深刻な問題が起きています。途上国は一般的に気候変動の対策のための資金やインフラ、技術などが不足しているために、先進国よりもより大きな被害を受けやすくなっており、事後対処だけでなく、損害の防止や最小化に向けた対策でも世界が協力していくことが求められています。
QUIZ
ここで問題です
今年のCOPは2016年のモロッコ以来、5年ぶりのアフリカ大陸での開催となりました。それでは、アフリカが世界の総排出量に占める割合はどのくらいでしょう?
- 4.9%
- 3.9%
- 3.2%
- 1.2%
答えは「3.9%」です。3.2%は日本、1.2%はアフリカ諸国で排出量がもっとも多い南アフリカが、それぞれ全体に占める割合です。また、排出量トップ3の中国(29.5%)、米国(14.1%)、インド(6.9%)だけで世界全体の半分を占めています。
AFRICA’S FUTURE
アフリカの未来
COP27は開発途上地域の開催ということもあり、先進国から途上国への支援の規模や在り方を含めて気候正義を巡る議論が紛糾することは確実です。開発途上地域と先進国との対立という図式は新しいものではなく、2012年の77カ国グループ(G77)の共同声明でも、開発途上国への資金提供の必要性が盛り込まれています。
同時に特にアフリカについては、排出量削減以前にインフラや技術が絶対的に不足しているという問題があります。例えばエネルギー部門の脱炭素化は重要ですが、アフリカ諸国では多くの場合、まずエネルギーインフラそのものを整備していかなければならないのです。
アフリカの電力普及率は人口ベースで57%にとどまっており、いまでもサハラ砂漠南部を中心に6億人が電気のない生活を送っています。ただ、これは同時にチャンスでもあります。適切な戦略の下で必要な投資が行われればリープフロッグ(leapfrog)型の進展が見込めるからです。
国際エネルギー機関(IEA)は6月に発表したアフリカのエネルギー見通しについての報告書のなかで、2030年までにアフリカに住むすべての人に電力を適切な価格で届けるためには、年間250億ドルの投資が必要になるとの試算を明らかにしました。250億ドルというと途方もない額のように聞こえますが、これは世界全体のエネルギー投資の約1%に過ぎません。
IEAはまた、こうした投資が確保できれば、2030年までに新設される発電設備の80%以上は太陽光や風力、水力、地熱などの再生可能エネルギー発電になるという見通しを示しました。アフリカには地球に降り注ぐ太陽光エネルギーのうち発電に利用可能なものの6割が集中していますが、このうち発電に利用できているのはごく一部というもったいない状況なのです。
ONE 🏖 THING
ちなみに…
開催地のシャルムエルシェイクは紅海に面したエジプト屈指のビーチリゾートです。日本ではそれほど知られていませんが、スキューバダイビングの名所として人気があり、欧州の大都市からは直行便も多く就航しています。
ただ、外国人や富裕層が集まる観光地であるために過去にはイスラム過激派による攻撃の標的になっており、2005年には連続爆破テロがあったほか、2015年にはシャルムエルシェイクからロシアのサンクトペテルブルクに向かっていた旅客機が墜落する事故も起きました。なお、この事故を巡っては現地の過激派組織が犯行声明を出したためにテロ疑惑も浮上しましたが、原因はいまだに究明されていません。
シャルムエルシェイクにはホテルや国際会議場などの設備が整っているため、国際会議が頻繁に開催されます。ただ、これは周囲が砂漠で陸路や空路でのアクセスが限られているために首都カイロよりも人の出入りの管理が容易で、抗議デモの制限もしやすいこともあると言われています。政府は昨年、テロに対する警備強化を理由にシャルムエルシェイクの周囲に総延長36キロメートルにおよぶコンクリートの防御壁を建設しました。
エジプトは2011年のムバラク政権の崩壊後、2014年に就任した現職のシシ大統領による長期独裁化が進んでおり、言論統制や少数派に対する弾圧などが行われているとの指摘もあります。こうしたなか、COP27では一部の環境保護団体や人権擁護団体などが締め出され、開催期間中の抗議活動が全面的に禁止されるのではないかとの懸念も浮上しています。
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