Millennials:サブスクが「私」をつくる

MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

Quartz読者のみなさん、こんにちは。今日お届けする「Millennials Now」では、拡大するサブスクビジネスとこれからについてレポートします。

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Netflix、Amazon Prime、Disney+など、サブスクリプションモデルとしてのエンタメは、ここ数年で私たちの生活必需品になりました。特に、このパンデミック下においては、StayHomeで楽しめる娯楽として欠かすことができないものになっています。

たとえば、Amazon Primeの2020年第1四半期の売上56億ドル(約5,950億円)は、前年同期比28%の伸び。775億ドル(約8兆2,000億円)に達したAmazonの総売上高を牽引しています。

Prime Videoのほか、音楽やビデオレンタルなどのデジタルサービスの初回視聴者数も、2020年3月には約2倍に増加しています。

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Netflixは2020年1〜3月で1,570万人以上が新規登録。現在、1億8,280万人の加入者、世界最大のエンタメサービスのひとつになりました。うち、米国とカナダでの新規登録は230万人で、両国での加入者数の合計は6,990万人に及びます。

ヒット作にも恵まれたNetflixは、約8,500万人がオリジナル映画『スペンサー・コンフィデンシャル』を2分以上視聴。話題のドキュメンタリーシリーズ『タイガー・キング』は6,400万世帯で観られています。

4月15日には、Netflixの株価は史上最高値を更新し、時価総額は1,873億ドル(約20兆6,000億円)を記録。エンタメ業界のトップとして牽引してきたDisneyの時価総額1,865億ドル(約20兆5,000億円)を超えたことになります。

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パンデミックを経てより身近に感じるようになった「サブスク」ですが、なぜこんなにも受け入れられるようになったのでしょうか?

Why we are hooked on?

若者のサブスク

欲しいものを欲しいときに、そして欲しい場所に欲しいものがある──。それは、若いミレニアル世代にとって大切なこと。オンデマンドで簡単に手に入れられるサブスクは、理にかなった仕組みです。

Harvard Business Reviewによると、年間2,240万人以上のミレニアル世代が「オンデマンドエコノミー」の消費者となり、これは全消費者の半数近くを占めます。売上額は576億ドル(約6.1兆円)で、ブランドはあらゆるものをオンデマンドのパッケージで提供し、彼らを飽きさせないために「購読」ボタンを追加しています。

オンデマンドビジネスの市場を変えたのは、メイクアップサンプルやその他の美容関連製品のボックスを登録者に届けるBirchboxの登場でした。効率性、パーソナライズ、利便性、お得感といったミレニアル世代が好む特徴をすべて満たした、まったく新しいタイプのショッピング方法が誕生したのです。

COURTESY OF BIRCHBOX
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Vantiv and Socratic Technologiesの調査によると、ミレニアル世代の92%がサブスクリプションサービスを利用していることがわかっています

さらに、Z世代の消費者の90%が、平均して4種類のサービスを契約してコンテンツにお金を払っています。有料サービスの売上トップは音楽とビデオストリーミングで、次いでコンソールゲーム、PCゲーム、モバイルゲームが続きます。Z世代の消費者は、よりよい品質(61%)、よりよい体験(56%)、より便利なコンテンツ(50%)が提供されていれば、喜んでコンテンツにお金を払うとも報告されています。

広告のない環境が必要だと指摘したのは10人に4人にとどまりました。Z世代は、サブスクリプションについて、摩擦のないパーソナライズされた体験を求めています。彼らは、プラットフォームが自分たちのために質の高いコンテンツをキュレーションしてくれることを好んでいます。

好みに合わせてパーソナライズしてくれて、自由気ままにサービスを利用できる、そんな願いを叶えてれるのがサブスクなのです。

Subscription box

サブスク箱の10年

消費者は今、注文をすることなく定期的に商品やサービスを受け取るビジネスに“乗って”います。

なかでも、服や化粧品などのライフスタイル関連の商品を毎月箱に詰めて送るキュレーションサービスは最も人気があり、サブスクリプション全体の55%を占めています。

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この10年で、こうした「Subscription box」(サブスクボックス)のビジネスは大きく成長しました

サブスクボックスのサービスは現在、3,500〜5,000ほどあるとされています。2018年にはサービス数も前年比で40%増加。市場規模は150億ドル(約1.6兆円)と推定されていて、2018年の売上は、前年比30%増の75億ドル(約7,970億円)となりました

セックストイ、犬のおもちゃ、女性のPMS(月経前症候群)にアプローチしたもの、50歳以上の女性のためのライフスタイル製品、お茶、独身女性のためのもの、工芸品、スコッチ、韓国のスナック、ロックバンドのグレイトフル・デッドにインスパイアされたファッションなど、箱の“中身”は数え切れないほどです。

サブスクリプション戦争の勝者として台頭してきたブランドもあります。

Ipsyは、ビューティーインフルエンサーに製品の使い方を広告として実演するビデオを制作してもらうことで、ブランドの売上につなげています。Sephora Playは、店舗をもつSephoraの顧客のロイヤリティをサブスクボックスを展開することでさらに高めます。Birchboxは化粧品サンプルを提供することで、ウェブサイトや店舗での購入にもつなげています。

消費者はエンド・ツー・エンドの優れた体験を求めており、自動化された購買がコスト削減やパーソナライゼーションの向上などの具体的なメリットをもたらす場合にのみ、購読する意思があるとのこと。

実際、マッキンゼーの調査によると、28%の消費者が、パーソナライズされた体験が購読を継続する最も重要な理由であると答えています。そして消費者は、優れた体験を提供しない購読ボックスはすぐに解約してしまうのです。

Next stage

次のフェーズ

昨年時点で、サブスクボックスの加入者層をリードしているのはミレニアル世代ですが(38%が登録)、ベビーブーマー世代も8%から22%に登録者数が増加しています。

しかし、ウェブサイトMy Subscription Addictionによると、ここ数年で急増した多くの新しいサブスクボックスのうち、少なくとも13%は運営を停止しています。消費者のニーズに応えられず、ビジネスモデルをうまく機能させることができずに終わってしまったものも多くあるのです。

サブスクボックスは、果たして飽和状態なのでしょうか?

Subscription Trade Association会長のクリストファー・ジョージは、次のように述べています。

「新しいサブスクリプションのスタートアップが急速に市場に参入しているという点で、この傾向はピークに達している。サブスクボックスを展開する小規模スタートアップにとって、もう一つの潜在的な問題は、NikeWalmartのような既存の小売ブランドも、独自の消費者への直接配信サービスを開始することで、この分野での競争をはじめていることだ」

デロイトの米国コンシューマープロダクツ・リーダーであるバーブ・レナーは「サブスクボックスのサービスの課題は、競争が激化するなかで、既存の顧客を維持しながら、いかにして新規顧客を獲得するかということです」と話しています。

しかし、サブスクボックスに対する消費者の認知はまだ浸透しておらず、成長の余地はありそうです。

2018年のマッキンゼーの調査によると、米国の消費者のうち、人気のあるサブスクボックスサービスのひとつでも聞いたことがあるという人は約半数にとどまりました。オンラインショッピング利用者に限っても、サブスクリプションサービスを定期的に購読したことがある人は約15%にすぎませんでした。対照的に、この調査によると、消費者の46%がNetflixのようなオンラインストリーミングメディアサービスに加入しています。

COURTESY OF RENT THE RUNWAY
COURTESY OF RENT THE RUNWAY

Fuelの業界専門家であるケン・フェニョは、今後のサブスクボックスビジネス関して、次のように語ります。

「初期にあったような誇大広告はなく、現在では、どのようにしてサステイナブルなビジネスを構築できるかに焦点が移っている。新しいコンセプトも登場している。そのなかでも特に、パーソナルケアオーラルケア製品は熱い成長分野だ。Rent the Runwayのような衣料品レンタルサービスも、ミレニアル世代が優先するサステイナビリティの価値観を取り入れている」

ピークは過ぎたが需要はまだまだある、という判断が正しいのでしょう。

During the pandemic

食品のサブスク

新型コロナウイルスの流行下では、食品のサブスクが好調です。

ミールキットを提供するBlue Apronは2017年のIPOが失敗に終わり、その後も不調が続き、最近では身売りを考えているとも報じられていました。しかし、今年3月には、パンデミックの影響もあり、株式が4倍に。同社は息を吹き返しました。

COURTESY OF BLUE APRON
COURTESY OF BLUE APRON

最近では、グラノーラや青果の定期購読のほか、Amazonは2007年から「定期おトク便」プログラムを提供しており、ポテトチップスからドッグフードまで、何も考えずに毎月届くようになっています。

今や食品業界には、パッケージ化されたスナックから野菜まで次々と参入していて、マサチューセッツ州で設立されたスペシャルなチョコレートを提供するSomervilleもサブスクに乗り出しました。

COURTESY OF SOMERVILLE
COURTESY OF SOMERVILLE

企業にとってもメリットがあります。ビジネスの観点から見ると、キャッシュフローを得られ、生産すべきアイテムが事前に分かっているので、新たな営業の必要がありません。

食品以外にも、ロックダウン下のニューヨーカーは「緑」をより多く買うようになり、観葉植物をサブスクすることも。外に出られないからこそ、自宅に定期的に届けてくれるサービスは、生活を支える必須なものとなっているのです。

To establish your identity

サブスクと
アイデンティティ

こうした生活の利便性だけでなく、サブスクは人々の心理状況にも深く関係しているようです。

Journal of Consumer Research誌に発表された研究では、「自分たちのアイデンティティを肯定し、構築し、伝える方法」として、定期購読するブランドを選んでいるのだとする結果が明らかになっています。

米国人は毎月平均240ドル(約25,500円)近くをサブスクに費やしていますが、自分が本当は欲しくない、使ってもいないサービスや製品にお金を払い続けている人も少なくありません

「自分が何者なのかはっきりしている人もいれば、はっきりしていない人もいます。後者に属する人は、サービスや製品が自分のアイデンティティを確固たるものにするのに役立つと信じて、購読します。そして、解約をためらってしまうのです」と言うのは、上記の研究論文の著者の一人でありアリゾナ大学のマーケティング助教授でもあるジェニファー・サヴァリーです。

「一方、企業は人々の揺らぎやすい自己認識の感覚を餌食にしている場合も多く、ステータスや権力、魅力、実用性といった消費者が欲しいものをすべて理解しているのです」

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私たちはサブスクのジャンルによって、自分自身がほかの人からどう見られているかも考えながら、アイデンティティを確立しているのかもしれません。

経済・時事ネタを日常的に得るためにThe EconomistやThe New Yorkerを、ファッションに精通するためにWWDやBusiness of Fashionなどといったメディアを購読し、話題になったことを話してコミュニケーションをはかる。サステイナブルに特化した衣料品レンタルRent the Runwayや家具レンタルのFeatherを利用することで、環境に優しくトレンドにも乗っている「自分」をつくりあげる。女性に人気のGlobeInで、メキシコや南アフリカ、モロッコ、インドを含む世界各地のコミュニティの職人がつくった製品が入った箱を受け取り、エシカルな活動をする。産地直送で野菜をサブスクするFarm Fresh To Youで、オーガニックの食材を得るとともに、農家に貢献することができる──。

ミニマリズムがトレンドの昨今。人々が自分自身に向き合う時間がパンデミックの影響で増えたことで、本当に自分にとって必要なものなのか、外からの判断だけでなく、自分に見合ったものを選ぶサブスクの「断捨離」も行われていくでしょう。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. TikTokが人気爆発。TikTokはパンデミック下で #HappyAtHomeのようなプロモーションを仕掛け、Instagramで人気のインフルエンサーをも取り込み、成果をあげています。Sensor Towerによると、TikTokは1〜3月にかけて3億1,500万回ダウンロードされました。現在、全体で20億ダウンロードされており、15カ月前の2倍になっています。
  2. パンデミックで成長した女性向けアプリ。新しい「ママ友」を見つけるためのツールとして始まったアプリPeanutが、欧米の企業に投資を行うEQT Venturesが主導する1,200万ドルのシリーズAラウンドの資金調達を完了したことを発表しました。Peanutは、現在では160万人の女性が利用するソーシャルネットワークへと発展し、妊娠や子育て、結婚、更年期障害など、さまざまなトピックについて話し合う場として利用されています。
  3. シンプソンズがまた予言? 30年間放送されてきた『ザ・シンプソンズ』は、9.11のテロ攻撃や『ゲーム・オブ・スローンズ』のフィナーレ、トランプ大統領の大統領就任やギリシャ危機など、すべてを予言しているかのように見えるエピソードを放送してきました。今回の新型コロナウイルスに関しては、視聴者が1993年のエピソード「Marge in Chains」のエピソードをピックアップ。「大阪風邪 」の流行のなかで唯一の治療法は「ベッドで寝ること」と話しています。
  4. 中国の若者は物を売る。中国では、不必要なものを売るために #ditchyourstuff と投稿するのが、最近の数週間でソーシャルメディア上で話題になっています。最近のマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、中国では20%から30%の回答者が、買い物をわずかに減らしたり、場合によっては大幅に減らしたりして、引き続き慎重になっていると回答。また、政府の研究者は、中国での中古品の取引が今年1兆元(1,410億ドル)を超える可能性があると予測しており、コロナ後の世界では、ミニマリズムのトレンドが続きそうです。

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