Asia:若者たちの「TikTokハック」

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Asia Explosion

爆発するアジア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。米国でも人気のTikTokそのタイムライン上に「中国賞賛」動画があふれる理由とは、いったい? 英語版(参考)はこちら

REUTERS/STRINGER
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Image: REUTERS/STRINGER

TikTokは、“国際的アプリ”というイメージをつくろうと躍起になっているようです。

ディズニーの元幹部を米TikTokの新CEO起用したほか、母体のByteDance(バイトダンス)はNew York Timesに対して、同社は中国企業ではないと主張。ケイマン諸島で法人化されていると指摘しています。

しかし、この4月ごろを境にネット上に姿を現した風刺的なミームが、その思惑を裏切るかのように増殖しています。

#ilovechina

魔法のハッシュタグ

今、欧米を中心とするユーザーが、中国国歌に合わせて中国や習近平国家主席を「褒め称える」動画を何百本も投稿しています。十代の若者たちが中国の国旗と習近平の画像を背景に、中国の指導者と交流しているかのように頬にキスをし、ともに乾杯しているのです。

この動画にどんな意図があるのか。自分が“シャドーバニング”を受けているという前提でこうした動画をつくっているというユーザーもいれば、アプリの「For You」フィードに掲載されるがために、というユーザーもいるようです。

プラットフォーム側が他のユーザーに投稿を見えなくする措置、シャドーバニングShadow banning, stealth banningとも)は、多くのソーシャルメディアプラットフォームに存在していると考えられています。

これらの動画には、〈#ilovechina〉というハッシュタグが付けられていることがほとんどで、その思惑はともかく、ユーザーはこうした動画を投稿することで、閲覧数やフォロワーを獲得できると考えているようです。

その理由は、「TikTokの母体は中国にあるのだから」。投稿主の多くは、こうした動画を“本気”で投稿しているわけではないのです。

IMAGE VIA TIKTOK
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Image: IMAGE VIA TIKTOK

「自分の動画の再生回数が減っていたので、中国を賞賛する動画がアルゴリズム的にうまくいくかどうか見てみたかったんです。不思議なことに、うまくいきました」

そうQuartzに語るのは、米国在住の19歳、TikTokユーザーのMatt Norrisです。

彼のフォロワー数は、約9,000。流暢な北京語で「中国が大好き…習近平はぼくの親友…」などと話す動画は、彼の投稿したなかでも最も人気のあるもののひとつです。

Norrisは、4月12日にこの動画を投稿したのは、中国のプロパガンダを“ちゃんと考える”ためだと言いますが、同時に、こうしたコンテンツを投稿することでアプリ上での知名度を上げることができると本気で考えている人もいるだろうとも言います。

wild theories

好かれたいなら褒めろ

ハッシュタグ #ilovechina は、先週木曜日(5月28日)の時点で約5,000万回の再生回数を獲得しています。そのためか、中国とは関係のない動画にこのハッシュタグを追加したユーザーもいます。

Norrisは、こうも言います。

「TikTokのアルゴリズムを理解している人はいません。だから僕らは常に何が好まれるかを把握しようとしています」

他のプラットフォームと同様に、TikTokのアルゴリズムは厳重に守られています。が、そこで“人気”を得るのは、他のソーシャルメディアプラットフォームに比べて容易だと思われているようで、ユーザーたちは、いくつもの荒唐無稽な理論を用意しています。

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英国の大学に通っている18歳の香港人Cher Lauが投稿した「中国を褒める」動画もまた、彼女にとっては“冗談”にすぎません。

実際、この動画を投稿する前に、彼女は中国が香港に対して実施しようとしていたいわゆる「国家安全法」に関する動画を投稿していました。

以前のビデオは「めちゃくちゃ炎上した」ようで、反政府、親政府双方の香港人・中国本土の人からコメントを受けた彼女。「だから、中国共産党を風刺したビデオをつくったら面白いだろうと思った」と、Quartzに語ります。

このような動画を投稿したユーザーが実際にシャドウバニングの対象になっているのか、あるいは、中国を褒め称えることが本当に知名度を上げることになるかどうかは不明です。こうした中国動画の再生回数が、中国関連以外の動画に比べて著しく低いケースもあります。

この件についてQuartzはTikTokにコメントを求めましたが、期限内に返答は得られませんでした。

Despite such efforts…

努力にもかかわらず

こうしたミームは、アプリのアルゴリズムを解読しようとするユーザーの飽くなき探究心の一例であると同時に、中国の親会社から距離を置こうとするTikTokの“困難”を、思わせます。

米中関係が着実に悪化し、米国の法律家は中国のテック企業を目の敵にしています。皮肉にも、米国内のユーザーデータや国家安全保障へのリスクが懸念されるなかで、TikTokの世界的な知名度は上がってきました

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2018年ごろから米国で人気を博すようになったTikTokは、北京が好まないコンテンツを検閲しているのではないか、中国本土の親会社とユーザーデータを共有する可能性があるのではないかといった憶測を呼んでいます。

TikTokはこうした主張を強く否定していますが、ユーザーはいまだByteDanceとの関係を強く実感しているようです。この中国のユニコーンの創始者でありながらも、知名度の低い張一鳴(Zhang Yimingは、いくつかのTikTok動画の背景画像として登場していますが、投稿主たちは〈 #chinaisawesome 〉などといった中国関連のハッシュタグをつけて、彼が中国人であることをアピールしています。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 中国が米農産物の購入を一時停止。中国の農産物輸入で中心的役割を担う国有食糧企業(COFCO)と中国儲備糧管理(シノグレイン)は、大豆を含む米国産の農産品の購入を停止するよう命じられました。豚肉の注文がキャンセルされたとの情報もあります。背景には、香港の「国家安全法」導入計画に対し、トランプ米大統領が中国批判を加速させたことが…。米中間で1月に署名された第1段階の貿易協定が履行されるか、暗雲が立ち込めています。
  2. 今年の韓国の成長は実質停止。韓国の今年の経済成長率は、新型コロナウイルスのパンデミック前の2.4%の成長予測から大幅に下方修正され、0.1%にとどまる(実質的には止まる)と見られています。新型コロナウイルスによる、工場閉鎖など社会活動の制限が、家計と企業の支出に打撃を与えています。2020年の個人消費は前年比1.2%減少すると予想されます。
  3. インドで飛行機に乗るなら…。約2カ月ぶりに一部で運行が再開されたインド国内線。再開に際しインド民間航空総局(DGCA)は、1座席を開けての搭乗、手袋とマスクの装着、接触追跡アプリ「Aarogya Setu」をダウンロードする(14歳未満の子供は除く)などの徹底を各社に要請しています。
  4. マレー高速鉄道計画さらに遅れ。シンガポールとマレーシアを結ぶマレー半島高速鉄道計画は、マレーシア側の財政困難を理由に、12月31日まで事業を延期する決定をしました。両政府は2018年、今年5月31日までの事業延期に合意していましたが、再開はさらにずれ込みます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)


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