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Tuesday: Asia Explosion
爆発するアジア
Quartz読者のみなさん、こんにちは。インドで『TikTok』が禁止されてから約2カ月が経ちましたが、インド独自のサービスがその地位に取って代わる状況が訪れているとはいえません。英語版(参考)はこちら。
6月29日(現地時間)にモディ政府が「データセキュリティの観点から」TikTokを禁止するまで、インドはTikTokにとって、2億人以上のユーザーをもつ最大規模の海外市場でした。そして、禁止によって、ユーザーはもちろん、20万人以上のインフルエンサーが窮地に立たされることになりました。
TikTokにアクセスできないとなったとき、インドのユーザーやクリエイターがまず乗り換えた先は、YouTubeやInstagramでした。さらに『Chingari』や『Mitron』、『Roposo』(Glanceが買収)、『Bolo Indya』といった国産アプリが、ユーザーを取り込もうと躍起になりました。さらに、現地語ソーシャルプラットフォームShareChatが『Moj』を、エンタテインメント企業 Zee5は『HiPi』を、音楽ストリーミング大手のGaanaは『HotShots』を発表しました。
しかし、今のところ、それら国産アプリはひとつとして成功していません。市場調査・データ分析会社YouGovが発表した最近の調査によると、インド人の60%以上がいまだにTikTok解禁を望んでいるともいいます。
Blurry vision
ビジョンがあいまい
インド生まれのアプリがユーザーに強い印象を残せていないのは、なぜでしょうか。失敗の理由は、単に“インドのTikTok”になろうとしただけの、近視眼的なビジョンにあるといえそうです。
「彼ら(インドのアプリ)は、代替品をつくる能力はもっています」と語るのは、クラウドセキュリティ企業ApproyoのCEOクリス・カーターです。「しかし、特定の層から支持を得るには、正しい話法や正しいマーケティングをはじめ、必要とされる項目がいくつもあるのです」
実際、TikTok禁止からの数週間、インドにおける競合アプリの戦略は、中印間の国境線をめぐる緊張関係から生じていた反中感情に“乗った”ものでした。
Mitronの成長戦略は、「インド生まれ」というナラティブに頼ったものでした。TikTok禁止後、一夜にして有名になったChingariも、“インドらしさ”を確立しようと試行錯誤していました。Chingariの共同創業者スミット・ゴーシュは7月、Quartzのインタビューに次のように答えています。
「我々は、中国や中国企業から1セントたりとも調達するつもりはありません。中国企業から資金を調達したなら、彼らは取締役会に参加し、あらゆる情報をすべて保持することになりますから」
しかし、こうしたアプリのほとんどが、数百人単位で増えていく新規ユーザーに対して、約束された品質を提供するのに苦労することになりました。アプリが負荷を処理できずにクラッシュし続け、その弱点を晒すことになったのです。
さらに、これらのアプリの多くには、そのインターフェイスや機能においてTikTokとほぼ大した違いを見出せません。ユーザーに新しい価値を提供し、ユーザーのロイヤルティを長期的に維持するような明確なビジョンがないことを露呈したのです。
数週間も経たずに市場は混迷を極め、「Made in India」のタグはなんの差別化要因にもならなくなりました。
「もっとも重要な指標は、最初のダウンロード数などではなく、オーディエンスのエンゲージメントと再訪数です」と語るのは、7月にHotShotsを立ち上げた音楽ストリーミングアプリ『Gaana』のCEO、プラシャン・アガーワルです。
「ショートビデオカテゴリーのアプリのうち、トップ3に入っていたアプリのいくつもが、リリースから1カ月を待たずにチャートから外れています。初期のダウンロードラッシュは、まったく効果がなかったということです」
問題はそれだけではありません。
7月、あるセキュリティ関連の研究者がChingariの欠陥(カギつきの動画を誰もが共有/コメントできる。同社はその後、この問題を修正)を暴露しました。
一方、4月にローンチしたMitronは、プライバシーポリシーを設けずにスタートしたためGoogleアプリストアから削除されました(6月にようやくプライバシーポリシーを追加)。
Funding frenzy freeze
資金調達も「凍結」
TikTokの後釜を狙うインド産のアプリによる資金調達の報道はいくつもあって、一部のプレイヤーにとっては明るい話題だったといえるでしょう。しかし、それが長期的なトレンドになる可能性は低そうです。
7月には、Mitronが26万8,000ドル(約2,850万円)のシードファンディングを受けたことで注目を集めました。8月17日のBloombergのレポートによると、MitronはNexus Venture Partnersからさらに500万ドル(約5.3億円)を調達しています。ほかにも、8月初旬に、競合であるChingariが130万ドル(約1.4億円)のシード資金を調達しました。
しかし、専門家は、資金調達の流れも続かないだろうとしています。というのも、TikTokが解禁されライバルたちの命運が逆転する日もそう遠くはないと見られているからです。実際、投資家は様子見モードに入っており、インドの富豪ムケシュ・アンバニが率いるリライアンス・インダストリーズがインドにおけるTikTokの事業を買収する可能性を伝える報道もあります。
Reel it in
結局、インスタ
Instagramは、TikTokがインドで禁止された直後、“TikTok風”の新機能「リール」を発表しました。さらに、米国に拠点を置くアプリ『Triller』も、インドへの進出を加速させました。
Chingariのスミット・ゴーシュは、先述のインタビューにおいてもInstagramのリール機能については無視する姿勢を見せていました(「ユーザーは、ランダムな人々のランダムな動画をみようとInstagramを開くわけではない」)。彼曰く、リールは「YouTubeの地位を奪えなかったIGTVの二の轍を踏む」ことになるし、Trillerも「Chingariが追求している『インド人のスピリット』を理解していない」というのです。
しかし、数字はまったく異なる結果を示しています。
複数のクリエイターがQuartzに対して、リールへの投稿は、Instagramの他の投稿よりもはるかに多くのトラクションを得ていると語っているほか、Trillerは、TikTok禁止以降、インドにおけるユーザー数を100万人未満から約3,000万人にまで伸ばしました。かたやChingariは2,500万ユーザーに留まっています。
インドのユーザーは、アプリがインドのものであるかは気にしていないというのが現実で、2020年8月のYouGovの調査は、ユーザーが海外のアプリに夢中だという結果を示しています。
専門家は、MitronやChingariといったインドのプレイヤーたちの資金調達やアップデートに関わらず、8,800万人のインド人ユーザーを抱えるInstagramこそが、TikTokの後釜候補としてもっとも有力だと語っています。
成熟したプラットフォームには、すでにそれを利用するユーザーがいる。そして、リールをはじめとする新たな機能を立ち上げることで、さらに若いオーディエンスを獲得できる。インフルエンサーマーケティング企業Yaapのパートナー、イルファン ・ カーンは、そのように語っています。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- この1年でAI関連21万社増。リサーチ会社Tianyancha.comがまとめたデータによると、中国国内で今年新たに登録されたAI関連企業は前年比45.27%増で21万社を超えます(8月20日時点)。およそ95万社の企業がロボット、データ処理、画像認識、自然言語処理といった分野でビジネスを展開していることが示されました。中国のAIソフトウェア、アプリ市場は、2024年までに127億5,000万ドル(約1兆3,500億円)規模に拡大すると見られます。
- 権力を増す妹。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、実妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長に対して、「一般的な国政」を監督する権限の一部を委譲したと、韓国の国会議員やメディアが伝えています。対米と南北交渉を担当するようです。国家情報院は今回の権限委譲について、正恩の健康問題や後継者問題、権力の把握に関するあらゆる情報と関連がないことを強調していますが、実は正恩は昏睡状態にあり表に出ているのは偽物だとする声も…。
- ビジネス拡大に勤しむ億万長者。経済の先行きが不透明なインドでも、リライアンス・インダストリーズ(RIL)の会長Mukesh Ambani(ムケシュ・アンバニ)は歩みを止めません。この1カ月だけで、RILはオンラインランジェリーの小売業者であるZivameの株式15%、そしてオンライン薬局Netmedsの過半数の株式を62億ルピー(約88億円)で取得しました。TikTokのインド事業への出資(または買収)について交渉中との報道もあります。
- 入国制限を緩和へ。シンガポール政府は8月21日、5つの国からの旅行者の入国制限を緩和することを発表しました。ベトナム、マカオ、オーストラリアの大部分を含む「リスクの低い」地域からの乗客は7日間の隔離が義務付けられ、隔離期間が終了する前に検査を受けます。ブルネイとニュージーランドからの旅行者は空港での検査のみで入国できるそうです。渡航申請は9月1日に開始される予定です。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)
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