Wednesday: Africa Rising
躍動するアフリカ
人工知能が黒人よりも白人をよく識別できるのはなぜなのか? 26歳のエンジニア率いるチームの取り組みが、注目されています。英文記事はこちら(参考)。
アフリカにおいて、顔認証技術はそれほど広く採用されているとはいえません。
その理由のひとつとして挙げられるのが、既存のテクノロジーは黒人の顔を識別・区別するのに適していなかったということ。欧米で開発された現時点最高の顔認識システムですら、米国政府によるテストでは、白人に比べて最大で5~10倍の確率で黒人を誤認してしまうことが示されています。
これらのシステムを支える生体認証向け人工知能テクノロジーの“人種格差”は、あるひとつの明らかな問題に起因しています。つまり、これらのほとんどが、白人の顔をもとにしたデータセットを使ってトレーニングされているのです。
a more diverse dataset
データセットの多様性
2018年、ガーナで起業した4人のソフトウェアエンジニアが、一般向けの顔認識ソフトウェアが抱える限界に挑みました。
彼らは独自の調査を実施。そこで明らかになった実態──ガーナの銀行がID詐欺やサイバー犯罪に悩まされており、顧客を特定するために年間4億ドル近くを費やしていることに対して、立ち上がることにしました。
グループを率いるのは、隣国コートジボワール出身のエンジニア、シャーレッテ・エンゲソン。彼らは、人工知能を使った独自の顔認識ソフトウェア「BACE API」を開発しました。欧米の開発者とは対照的に、BACE APIのトレーニングは、アフリカの黒人の顔を多く含む多様なデータセットを用いて行われているため、現地の市場に適したかたちで提供できるというのです。
BACE APIの主な強みは、ユーザーの身元を遠隔で確認できることにあります。BACE APIは既存のアプリやシステムに統合することができるため、専用のハードウェアは不要。もう一つの特徴として、既存の写真ではなく、ライヴ画像やショートビデオを使用して、画像が実在の人物のものであるかどうかを判断します。
同グループのソフトウェアは、英国の王立工学アカデミーが毎年授与する「2020 Africa Prize for Engineering Innovation」において、競合他社を打ち負かすことになります。当時26歳のエンゲソンは、この名誉ある賞の初の女性受賞者として名を挙げ、賞金25,000ポンド(約340万円)を授与されました。
AI startups around the world
アフリカンAIの現在地
「アフリカにはもっとローカルなAIソリューションが必要です」と、彼女は言います。「ソリューションのほとんどは外部からもたらされています。若者の間でAIへの関心を高めることで、必要なスキルを早期に開発しなければならないのです」
AIソリューションの輸入に対するエンゲソンの懸念は、アフリカ人のみならず世界の安全保障アナリストも同じく抱いています。
2018年、ジンバブエ政府は、主に大量監視システムに用いられる顔認識ソフトウェア開発の契約の一環として、中国企業CloudWalk Technologyにジンバブエ人数百万人の顔データベースへのアクセスを許可する決定を下しました。これに対して、一部のジンバブエ人は警鐘を鳴らしています。
同じく中国企業Huawei(ファーウェイ、華為)の「Safe City」プログラムの一環として、ケニア、ウガンダ、南アフリカなどの国でCCTVにまたがって展開されている顔認証ソフトウェアの精度には、疑問の声が上がっています。
アフリカはAIスタートアップやテクノロジー競争において、まだはるかに遅れていると言わざるをえません。
2018年の時点で、世界のAIスタートアップの95%は世界のわずか20カ国をベースとしており、そのうちの1カ国もアフリカには存在していませんでした。
また、新興市場において、2008年から2017年にかけてもっともAIスタートアップが資金調達を受けた国はインドで、その総額は500億ドル(約5.24兆円)にのぼります。一方、同じ期間にサブサハラ・アフリカ(サハラ以南)のAIスタートアップが受けた資金は、わずか13億ドル(約1,360億円)に留まっています。
local businesses, local innovations
灯台もと暗し
しかし、ここ数年の間で、アフリカ各地にもAIの中核的な拠点がいくつか誕生しています。
エチオピアは、世界でもよく知られているAIロボット「Sophia(ソフィア)」(2017年にサウジアラビアで市民権を与えられたロボット)の開発に一部関わっていますが、同国政府が製造業に賭ける一方で、未来学者や篤志家たちがAIの可能性に賭けている様子がみてとれます。
ガーナでは2018年にGoogleがアフリカ初のAI研究センターを開設。ルワンダのキガリにあるアフリカ数理科学研究所は、FacebookとGoogleの支援を受けて、大陸初の機械学習と人工知能のための専用の修士号プログラムを立ち上げています。
「現在、アフリカのあらゆる産業で、AIソリューションへの認知・応用の声が高まっています。しかし、地元の企業は、地元のイノベーションをあまり“信頼”していません」と、前出のエンゲソンは語ります。
「プロダクトをつくり続けること。そして、それが十分に機能していることに気づいてもらうこと。時間が経てば、事態は変わると思っています。実際、賞を受賞して以来、アフリカ全土の多くの企業がBACE APIに興味を示していますから」
headlines from Quartz Africa
今週のヘッドライン
- 犯人はバクテリア。アフリカ南部のボツワナで330頭以上の野生のゾウが死んでいることが発見された問題で、21日月曜、国立公園野生生物局は、死因はゾウの水飲み場を汚染していたシアノバクテリアにあると発表しています。専門家は、温暖化による水温の上昇と細菌の繁殖を指摘していますが、隣国ジンバブエでも同じく起きているゾウの大量死には、まだ解答は見出せていません。──September 22
- ナイジェリアのスタートアップは救われない。ナイジェリア政府のパンデミック支援プログラムは、貧困層への現金救済から中小企業向けの与信まで導入されていますが、これまでのところ、テック系スタートアップはその対象から除外されています。同国のテックシーンを牽引してきたJumiaやIrokoTV、Andelaのような大規模スタートアップでさえ、ここ数カ月で何百人ものスタッフを解雇しているなか、その成長を維持する支援策が待たれています。──September 21
- …それでもナイジェリアは輝いている。そのナイジェリアで、2021年下半期までのオフィス開設を目指しているのがFacebookです。アフリカの人口は、2100年までに3倍に増加すると予想されていますが、なかでもナイジェリアに期待されている役割は非常に大きいのです。同オフィスでは、セールスやコミュニケーション、法務からエンジニアリングに至るまで、あらゆるスタッフが結集する予定だと伝えられています。──September 19
- パンアフリカン・ポップアンセム。南アフリカのミュージシャン、当年とって24歳のMaster KGが2019年12月にリリースした楽曲「Jerusalema」の世界的ヒットはよく知られたところですが、今月、同曲は“世界で最もShazamされた曲”となりました。YouTubeやTikTokでは #JerusalemaDanceChallenge がつけられた動画が、文字通り席巻。楽曲だけでも、Spotifyではが6,600万回以上、YouTubeでは1億4,000万回以上再生されています(記事執筆時点)。──September 19
(翻訳・編集:年吉聡太)
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