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Tuesday: Asia Explosion
爆発するアジア
Quartz読者の皆さん、こんにちは。中国のデジタル通貨、デジタル人民元のテストが、いよいよ本格的な最終段階に入ります。世界をリードするキャッシュレス大国の目論見と、その現時点での評価をお伝えします。英語版(参考)はこちら。
今から数年後、2020年を振り返ったときにこの年を象徴する出来事として挙がるのは、新型コロナウイルスの大流行ともうひとつ、中国におけるデジタル通貨の導入だろう──北京大学の財政学教授である徐元は、そう語ります。
徐氏曰く、デジタル人民元が正式に導入されたなら、2020年は、世界の通貨の歴史において重要な出来事になるといいます。
それこそ、金本位制が確立された1816年や、ブレトンウッズ制度が確立されて米ドルが事実上の世界通貨となった1944年と同じくらいに。
issued and backed by a central bank
暗号通貨、ではない
国際決済銀行(BIS)によると、現在世界各地で進められている中央銀行のデジタル通貨プロジェクトの中でも、中国のプロジェクトが最も進んでいるといえます。
中国における取組みには、現在、6つの主要国有銀行が参加しています。中国人民銀行(PBOC)が基幹インフラを提供し、商業銀行が通貨の配布や支払いの実行などのサービスを一般市民に提供することになっています。
試験プログラムが今年初めに始まっています。現在のところは北京及び上海を含む本土の主要都市をカバーしていますが、香港及びマカオに拡大する予定です。もっとも、本格展開に向けたタイムラインは、まだ公表されていません。
ひとつ明確にしておきましょう。これは、いわゆる「暗号通貨(cryptocurrency)」ではありません。暗号通貨が分散型のブロックチェーン上での取引となる一方で、デジタル人民元の取引は中央銀行によって裏付けられています。
中国当局にとって、世界の金融システムにおける人民元の地位向上は宿願ともいうべきものでした。SWIFT(国際銀行間通信協会)における国際決済の40%が米ドルで占められているなか、人民元の比率は2% 以下にすぎません。これからより多くの国がデジタル人民元を採用することで米ドルの優位性に勝る日も来る──という筋書きもありえはしますが、それもこれも、中国当局による人民元の管理に抜本的な変更がない限り、仮定の話でしかありません。
not be a game changer
北京の目論見
中国で計画されているデジタル通貨の特性は、人民元とは少し趣を異にしています。それゆえ「国際金融における人民元の地位を高めるゲームチェンジャーにはなりえない」と、コーネル大学の貿易政策学教授のエスワー・プラサドは述べています。
「なんだかんだいっても、中国政府はいまだに資本の流入と流出を制限しているし、中国人民銀行はいまだに人民元の為替レートを管理している。いずれの政策も、すぐに大きく改められるような事態にはならないだろう」
つまるところ、投資家が基軸通貨に求めるのはテクノロジーではありません。安定していて、強い経済に支えられていて、自由に換金でき、広く利用できる通貨、なのです。
中国の政治経済の専門家でカリフォルニア大学サンディエゴ校教授のビクター・シーは、単にデジタル通貨を導入しただけでは、「海外に住む人民元保有者が人民元を売って米ドルに交換したいという要求は解決しない」と説明しています。
この点における人民元と米ドルの格差は、先ほど挙げた国際決済におけるそれよりも、さらに大きなものです。世界の外貨準備の3分の2近くが米ドルで保有されているのに対し、人民元は2%に留まっているのです。
仮に、イランが中国に大量の石油を売り、その支払いとしてデジタル人民元を受け入れたとしたら。そうなれば、国際取引での人民元普及を目指す中国当局の目論見は達成されるでしょう。
しかし、イランはそれによる収入のうち少なくとも4分の1を、ヨーロッパからの輸入に充てたいだろうと、シー教授は言います。そうなれば、テヘラン側には受け取ったデジタル人民元の一部を、ドルやユーロに変換する必要が出てきます。そうした事態が大規模に起きれば、大量の元が別の通貨に替えられたとき、PBOCは為替を維持するために介入を余儀なくされるでしょう。
Everything is potentially linkable
強大なポテンシャル
デジタル人民元は、国家がデジタル決済のコントロールを私企業から取り戻すための方便となるかもしれません。中国国内の2つの強大なデジタルウォレット──「Alipay」および、電子決済取引の94%を扱う「WeChat Pay」──にとってデジタル人民元が意味するものは、今のところ不明です。しかし、中央銀行がそうした民間企業のウォレットを全面排除することは、理論上、可能です。「そうなったら目も当てられないが」と、シー教授は言います。
シー教授は、デジタル人民元による重要なアドバンテージとして、中国の中央銀行が今まで以上にカネの流れを正確に追跡できることを挙げています。
イランがデジタル人民元建ての収益で何かを購入したら、PBOCはいったい何を買ったのか、誰から買ったのかをセント単位で知ることができるでしょう。それは逆効果に働く可能性もあります。完全なる遵法者であっても、政府に何をしているかを知られたくない状況はいくらでもあるはずです。
デジタル人民元が強大なポテンシャルを発揮する可能性は、他にも考えられます。
たとえば、中国の大手テック企業ByteDanceが所有し、数億人のユーザーを誇るバイラル動画アプリ「TikTok」や、中国のテック企業Tencentが40%出資するEpic Gamesが開発した人気ビデオゲーム「Fortnite」。それらの決済システムにデジタル人民元が組み込まれたとしたら。
「それがデジタルの世界の特徴です」とシー教授は述べています。「すべてのものは潜在的に“リンク可能”です。あるプラットフォームでの人気をテコに、別のプラットフォームでの人気を獲得できるのです」
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
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- “ペットボトルの水”成金。中国で生まれる億万長者の多くはテック絡みの企業ですが、ある飲料メーカーが定説を覆しました。9月8日に香港株式市場で上場初日を迎えた農夫山泉(Nongfu Spring)の株価は一時85%上昇。同社株の84%をもつ創業者のZhong Shanshan(鍾睒睒)の保有資産は537億ドル(約5兆6570億円)に達し、中国の富豪ランキング2位に躍り出ました。
- 警戒レベル「最高」でも大学入試試験は予定通り。韓国教育省は9月28日、今年の大学修学能力試験(スヌン)を予定通り12月3日に実施すると発表しました。試験会場では一室あたりの受験者数を24人に制限、全ての机に仕切りが設置するなど「徹底した予防策を講じる」と話します。試験前の感染を防ぐためにスヌン1週間前の11月26日から、全国の高校生はオンライン授業に切り替えられます。
- インドネシア最大のクラウドキッチン管理スタートアップが12.6億円調達。Yummy Corporationは、ソフトバンクグループのソフトバンク・ビジョン・ファンドとアリババが主導するシリーズBラウンドにおいて1,200万ドル(約12億6,000万円)の資金調達を実施。2019年6月にスタートしたクラウドキッチンのネットワークには、ジャカルタ、バンドン、メダンに70を超えるHACCP認定を受けた施設が登録されています。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)
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