Friday: New Normal
新しい「あたりまえ」
毎週金曜日の夕方のニュースレター「Deep Dive」では、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。いまやサイクルの変化が必定となったファッション産業。そこで注目されるのが、そもそも「サステイナブル」を意識した(あるいは余儀なくされてきた)服づくりをしてきたアフリカのファッション業界です。原文記事はこちら(参考)。
ファッション産業は、何十年にもわたって地球に悪影響を与えてきました。今や石油産業に次いで、世界で2番目の“環境汚染産業”になっています。生産に水を大量に消費し有毒な染料を使用、ショーに関連した移動は大気汚染を伴うとあって、環境破壊に拍車をかけています。
WWF(世界自然保護基金)のレポートによると、2015年、ファッション産業は790億立方メートル(79兆リットル)の水を消費し、17億1,500万トンのCO2を排出、そして9,200万トンの廃棄物を排出しているといいます。従来のシナリオでは、これらの数値は2030年までに少なくとも50%増加し、すでに破綻しつつあるシステムにさらなる圧力をかけることになると推定されていました。
もちろん、この産業はこれまでも環境問題に対して向き合ってきました。しかし、COVID-19のパンデミックが発生したことで、今までよりもサステイナブルな方向へ進まざるをえなくなりました。
DIGITAL OPPORTUNITY
加速するデジタル化
アフリカ各地のファッション業界関係者は、新たな持続可能な解決法を模索しています。なかでも“伝統的な事例”を活用することで、経済的にも環境保護にも貢献しています。
アフリカのファッション業界における非倫理的な慣行に対する最大の懸念は、危険な化学物質を多く使っているアジアや欧米からの輸入衣料品や素材への依存度が高いこと。そして、プラスチックや、漂白剤や洗剤にも含まれる毒性のある化学物質を染料として使用していることです。
アフリカで最も権威あるファッション事業体のひとつとして22年の歴史をもつ「South African Fashion Week(サウス・アフリカン・ファッション・ウィーク、以下SAFW)」は、創設者で最高経営責任者のルシラ・ボイゼン(Lucilla Booyzen)のヴィジョンのもと、ファッションショーをデジタル化して再構築することで、「エシカルファッションのビジネス」としてブランド化されています。
10月22〜24日に開催されるショーは、何千人もの人々が会場につめかけるような通常のショーに代わり、60万人のソーシャルメディアユーザーをもつSAFWのウェブプラットフォーム上で見られるようになります。
「観客を集めない方が節約できる場合もあります。大きなランウェイ、たくさんの照明、素晴らしい音響など……。多くの人を雇ったり、大人数を収容するための会場を予約するためのコストを考えると、とてもサステイナブルとは言えません」と、ボイゼンは話します。
次のSAFWのショーは、ヨハネスブルグのミッドラントにあるモール・オブ・アフリカで上演される、これまでとは違う、環境に優しいデジタルエクスペリエンスになります。ショーで使用される照明は従来のほんの一部で、より小さなサウンドシステムやミニマルなチーム、そして最小限のモデル人数にすることで、イベントにおけるCO2排出量を削減するとボイゼンは述べています。
パンデミックの不確実性を考慮し、現段階ではランウェイイベントの実施に関しての方針は各地で異なります。
ナイジェリア・ラゴスで開催されている「Arise Fashion Week(アライズ・ファッション・ウィーク)」は、イベントを4月から10月に延期しています。過去にはアンドレ・レオン・タリー(André Leon Talley)やナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)などのセレブリティも登場したこともあります。
11月にはガーナのアクラで「Glitz Africa Fashion Week(グリッツ・アフリカ・ファッション・ウィーク)」が開催される予定。 セネガルの首都で行われている「Dakar Fashion Week(ダカール・ファッション・ウィーク)」、ウガンダの首都で行われている「Kampala Fashion Week(カンパラ・ファッション・ウィーク)」の主催者はショーを延期しており、新しい日程はまだ発表されていません。
4月、Lagos Fashion Week(ラゴス・ファッション・ウィーク)では、「Wovened Threads」と題したデジタルプレゼンテーションをソーシャルメディア上で展開。サステイナブルな衣服生産を促進するための方法として、テキスタイルと伝統的な職人技を探求することを目的に、選出された10人のデザイナーとともにデジタルライブトークやワークショップなどが実施されました。
Hanifa(ハニファ)を手がける29歳のコンゴ人デザイナー、アニファ・ムヴェンバ(Anifa Mvuemba)は、5月に「CLO3D」デザインのデジタルモデルをフィーチャーしたバーチャルランウェイショーをインスタライブで開催し、高い評価を受けました。ショークリップは100万回以上の再生回数を記録し、パンデミック中やパンデミック後にキャットウォークがどのように適応していくかについての議論を巻き起こしました。
Made-to-order
“スロー”なビジネス
オンラインのファッション起業家も、サステナビリティについて考えています。
英国を拠点とするアフリカのオンラインファッション小売店Jendaya(ジェンダヤ)はプラスチックを使用せず、最近ではリサイクル可能で再利用もできる段ボールのような梱包材を取り入れています。JendayaのCEOを務めるのは、銀行員からファッション起業家に転身したアヨトゥンデ・ルフェイ(Ayotunde Rufai)。彼は、より小さい規模、小ロットで生産するアフリカのデザイナーを支援しているといいます。
「今、業界ではサステナビリティという言葉が流行していますが、アフリカのデザイナーは常にサステナビリティを実践してきました。アフリカのデザイナーは生地を使用する際に、より資源を有効活用し、廃棄物を最小限に抑えるように配慮しています。オーダーメイドが一般的で、アフリカのファッション市場は、欧米の主流の市場ほど季節感がありません」と、ルフェイは話します。
人気のある小売店や有名ブランドを含む主流の業界では、シーズンに合わせ、毎年、大量生産によって1,000億着以上の衣料品がつくられています。いわゆる「ファストファッション」として知られる無駄の多いシステムでは、莫大な数の衣類が埋め立て地に捨てられているのです。
対照的に、アフリカのファッションデザイナーは、よりゆっくりとした、より意図的なアプローチを取る傾向があり、オーダーメイドのビジネスモデルは、在庫が余る可能性を減らし、小規模な企業にとってはより経済的です。
アフリカでは長いあいだ伝統的に行われてきたオーダーメイドですが、現在では環境保護主義者やビジネスアナリストから、持続可能なファッションの未来として推奨されています。
「アフリカ人には欧米人のような資源へのアクセスがないため、必然的にサステイナブルなのです。それゆえ、一貫して持続可能な方法を実践してきたのです」と、ニューヨークを拠点とするオンラインストアと卸売ショールームの「The Folklore(ザ・フォルクローレ)」創設者アミラ・ラスール(Amira Rasool)は話します。
Homegrown industries
現地生産
環境に優しく、持続可能な慣行としてもうひとつ重要なのは、現地生産と調達を優先させることです。ただ、アフリカ国内の国産ファッション産業の多くは、アパレルやアクセサリーに対する国内の需要を満たす能力がありません。
しかし、それは必ずしもそうではなかったのです。
アフリカ諸国の中には、かつて大規模な繊維産業を有していた国もありました。ナイジェリアは180以上の繊維工場をもつ最大の国です。1945年には、ケニアには75の繊維・衣料品工場が存在。繊維部門は1984年にピークを迎え、織物と糸の生産のための52の工場が稼働しており、雇用者の数において、公務員に次ぐ国内第2位の業界になりました。
織物や編み物工場は資本集約型の“ベンチャー”であり、アフリカ政府は保護主義的な貿易政策でそれらを支援してきました。しかし、1980年代から90年代にかけてアフリカ経済が自由化され、世界銀行や国際通貨基金が推奨する構造調整プログラムが実行され外国貿易が開放されると、多くの工場が崩壊しました。
アジアからの安価な衣料品や欧米からの古着がすぐにアフリカ市場に殺到し、地元の産業は競争に苦戦しました。2013年までにケニアで稼働していた主要な繊維工場は15社のみとなり、52社から減少し、2019年現在では、ナイジェリアが25社となっています。
現在、ジンバブエのNehanda & Co(ネハンダ&カンパニー)、南アフリカのNaked Ape(ネイキッド・エイプ)、ナイジェリアのNkwo(ンクウォ)、マリのAwa Meité(アワ・メイテ)などのブランドが、現地生産やオーダーメイドモデルをはじめ、竹、麻、樹皮、シルクなどの天然素材をブレンドした高品質な生地を推進しています。
エチオピア政府は産業政策として、同国を繊維製品や衣料品の純輸出国にすることを目指しています。
2009年にナイロビで設立されたコミュティ「Ethical Fashion Initiative」は、持続可能な素材の調達と最小限の化学処理を行っているアフリカのファッションブランドを対象とした、メンター育成プログラムを実施しています。
ナイジェリアを拠点とするシューズとアクセサリーのブランド「Shekudo(シェクド)」は、シンプルなシルエットとファンキーな色使いが特徴のモダンなデザインの生地を作るために、織物などの伝統的な技術を取り入れています。シューズのヒールには地元の職人が木彫りを施していて、ラゴス、パリ、ニューヨークのファッションショーにも登場しています。
Shekudoの創始者でクリエイティブディレクターのアクド・イヘアカンワ(Akudo Iheakanwa)にとって、現地調達はより費用対効果の高いものでした。
「設立当初は、中国から2,000足のインソールを購入する余裕がなかったので、資金面では本当に助かりました」と彼女は言います。「刺繍やイヤリング、バッグがつくられるのも、シルバーやブロンズが調達されるのも、すべてはここ。商品の98%がナイジェリアでつくられていることを、わたしたちはとても誇りに思っています」
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 安楽死に対する新たな方針。オランダ政府は、1歳から12歳までの末期症状の子どもに対する安楽死を認める計画を承認しました。10月13日(火)、保健大臣フーゴー・デ・ヨング(Hugo de Jonge)は、「ルールの変更は、絶望的かつ耐え難い苦しみから一部の子どもたちを助けるだろう」と述べました。オランダでは現在、12歳以上の安楽死が認められています。
- 無料トライアルを廃止へ。Netflixは、米国におけるサービスを試すための無料トライアルのオプションを廃止したようです。代わりに、同社はYouTubeに教育的なコンテンツを無料で投稿したり、その他のかたちでコンテンツをサンプリングするなど、潜在的な加入者を引き付けるための新しい方法を導入しているといいます。
- ニュースレターブーム。南アジアのニュースを展開する有料ニュースレター「The Juggernaut」は、新たなプロジェクトを拡大するために、Precursor Venturesが主導するシードラウンドで200万ドル(約2.1億円)を調達したと発表しました。このラウンドの他の投資家には、Unpopular Ventures、Backstage Capital、New Media Ventures、Old Town Mediaが含まれています。
- 「Olli 2.0」がテスト走行。カナダのトロント市は、米Local Motors(ローカル・モーターズ)と契約し、同社が手がける3Dプリンター製自動運転EVシャトル「Olli 2.0」の運行を、2021年春から試験的に開始する予定です。6〜12カ月間のテスト走行では、トロントの大量輸送システムをどれだけ強化できるかを評価するといいます。
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