Guides:ポストトランプ、もうひとつの論点

Guides:ポストトランプ、もうひとつの論点

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。米国版Quartzの特集〈Field Guides〉から1つをピックアップし、編集者の若林恵さんが解題する週末の連載は、今週までお休みです。今週はその代わりに、最新〈Field Guides〉の“The Status of the H-1B”のサマリーをお届けします。

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Image: TARA ANAND FOR QUARTZ

🤔 Here’s Why

選挙で問われたもの

「アメリカを再び世界で尊敬される国にするために選ばれた」。

11月8日午前(日本時間)、そう高らかに勝利宣言した、ジョー・バイデン。今回の大統領選挙は、“現職大統領に対する信任投票”であったと指摘する声も多く聞かれますが、トランプ大統領の目立った政策のひとつが、移民排斥でした。

今回Quartzがフォーカスを当てる「H-1Bビザ」(以下、H-1B)は、いわば「ハイテクビザ(high-tech viza)」。就労ビザのなかでも、特にIT関連分野の外国人労働者を対象としています。

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6月22日、トランプ大統領は一部の就労ビザの発給を今年末まで停止すると発表していますが、H-1Bもその対象に含まれていました。

さらに10月6日には発給要件を厳格化することを発表。雇用企業に対して賃金の引き上げを義務づけるほか、該当する職種の範囲を狭めるこの内容は、上記が一時的な措置であったのに対して、恒久的な効力をもつとされています。

新型コロナウイルス危機により、戦後最悪の失業率を記録した米国。国内労働者を守ることを名目に、移民に対して強硬な発言を繰り返してきた現職大統領の時代が終わり、来たるべき新政権はどのような態度をみせるのでしょうか。

米国版Quartzの〈Field Guides〉、“The Status of the H-1B”では、以下のように論点が整理されています。より詳細をみていきましょう。

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1️⃣ H-1Bビザが米国に与えた影響

2️⃣ 米国経済を成長をさせたH-1Bビザ

3️⃣ H-1Bに必要な「改革」

4️⃣ インドに生まれる膨大な利益!?

5️⃣ 大統領選挙で問われたもの

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📝 The Details

移民がもたらす価値

1️⃣ H-1Bビザが米国に与えた影響

H-1Bビザは、シリコンバレーに世界最大のテックハブを築くためのパイプライン──。米国人の多くが、そう認識しています。

過去30年間でこのビザの恩恵を受けた人びとの数は、数百万人に上ります。結果、サイエンスやテックをはじめ、エンジニアリングや数学分野におけるスキルギャップを埋めてきました。

しかし、そのH-1Bビザは今、非常に大きな逆風に晒されています。数十年前の共和党の大統領がこのビザを創設し、現職の共和党の大統領は自ら掲げる移民排斥の一環として、このビザを標的にしてきました。

この4年間、トランプ政権は、国民の一部に渦巻く外国人労働者に対する憤りと、このプログラムによって企業が海外から安い労働力を雇用しているとする批判を利用し、ビザ取得に厳しい制限を課してきました。

2️⃣ 米国経済を成長をさせたH-1Bビザ

トランプ政権による締め付けが強まる一方、H-1Bの“魅力”が揺らぐものではないこともデータが示しています。ビザ発行を待つ人びとの列は、ビザ発行数を大きく超えています。

そうした背景から、移民局から500年の歴史をもつ「H-1B駆け込み寺」に至るまで、ビザ申請の援助を謳う産業が生まれています。

H-1Bが不正に利用されているケースももちろんあります。しかし、全体をみればこのプログラムがより多くの仕事、より高い賃金、米国人労働者の見通しの向上にもつながっていることを、調査結果が示しています。また、このプログラムを支持する人たちは、外国人労働者が何十億ドルもの税金を納め、社会保障やメディケアに貢献していることを指摘しています。

3️⃣ H-1Bに必要な「改革」

H-1Bビザは完璧ではありません。専門家たちは、“制限”するのではなく“改革”することで、H-1Bがもたらす生産性とイノベーションを最大化できると述べています。

米シンクタンクPolicy Migration Instituteの政策アナリストであるサラ・ピアース(Sarah Pierce)は、次のように書いています。

「このプログラムが、米国人労働者の居場所を奪う結果となった事実も否定はできない。しかし、H-1Bの方向性に対する賢明かつ実行可能な修正策があるのも間違いない。それは、現政権が進めている広範かつ鈍い改革よりも、米国経済と競争力を発展させ、米国人労働者の利益に適うものとなるだろう」

4️⃣ インドに生まれる膨大な利益!?

ビザ取得に制限がかかる一方、インドから米国を訪れた高度なスキルをもつ若い労働者たちは、“アメリカンドリーム”を見限り、母国へと回帰しています(インドからの移住者は、H-1B 受給者のなかでも大多数を占めています)。

そして、それに伴い、彼らが担っていた専門的な仕事もまた、インドへ向かうことになるかもしれません。

ビザ取得がより制限されるような政策が実施されれば、H-1B保有者が現在担っている仕事は、それに適う才能のあるところに“出荷”されることになるでしょう。そうなれば、得をするのはインドだけ。もっとも、インドがどれだけの利益を得られるかは、帰国する専門家の流入に対し、どれだけ対応できるかにもかかっています。

5️⃣ 大統領選挙で問われたもの

ドナルド・トランプとジョー・バイデンの移民政策は、H-1Bの将来を含め、大きく異なっています。バイデンが勝利を収めても、彼のアイデアを100%実行に移せるかというと、そうではありません。それは、「選挙後の議会の構成に大きく左右される」(移民法に特化した国際法律事務所Davies & Associates会長のマーク・デイヴィーズ〈Mark Davies〉)のです。

H-1Bそのものは、決して時流に完全に沿った新しいものではありません。欠陥があることも否定はできません。しかし、海外人材が米国で活躍するために重要な手段であることに変わりはありません。今回の選挙は、米国市民が「外国人の優れた能力から恩恵を受けていると感じているかどうか」を問う国民投票でもあったのです。


※ 若林恵さんによる週末の連載「Guidesのガイド」は本日8日まで配信をお休みし、11月15日よりリニューアルして配信を再開します。12月初旬刊行予定の書籍版も予約がスタート。どうちらも、ご期待ください。


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