Impact:グーグル労組が世界にもたらすもの

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Deep Dive: Impact Economy

始まっている未来

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毎週火曜の「Deep Dive」では、今世界が直面しているビジネスの変化を捉えるトピックを深掘りしています。2021年は、企業にとって常に責任が問われる年になりそうです。「従業員アクティビズム」の10年史年表もお届けします(英語版はこちら)。

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Image: REUTERS/STEPHEN LAM

今年の仕事始めとなった4日、『The New York Times』はグーグルの従業員が新たな労働組合を結成したという驚くべきニュースを伝えました。

エンジニアなど200人以上が集結し、通信・メディア分野の業界団体である米国通信労働者組合(CWA)と協力して「アルファベット労働者組合(Alphabet Workers Union)」を立ち上げています。

グーグルの従業員は派遣社員なども含めて26万人を超えるため、新労組の規模や力は微々たるものです。それでも関係者は1年前から密かに準備を進めており、グーグル内部でこうした動きがひろまるきっかけになるかもしれません。

employee activism

拡大するアクティビズム

『The New York Times』によれば、新労組は自らを「契約交渉のためではなく、従業員のアクティビズムを組織化して継続させるための努力」と位置付けています。代表者2人は同紙への寄稿のなかで、「派遣社員、ベンダー、契約業者、正社員など全員が集まって、労働者として声を上げていくのです」と述べました。「アルファベットには、そこで働く人たちが自分や社会に影響を及ぼす決定についてきちんと意見を述べられるような企業になって欲しいと考えています」

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米国では「従業員アクティビズム(employee activism)」という動きが広まりつつあります。

『Quartz』はこれについて、活動家や組織の代表者、研究者などさまざまな人に話を聞きましたが、ある点において、全員が同じ見解を示しています──企業は今年、従業員からの圧力の高まりに備える必要があるようです。

Pandemic pressure

パンデミックの影響

米国ではここ数年、労組結成まではいかないにしても、従業員が企業に積極的に働きかけるという動きが活発になっています。背景には、自社が掲げる価値観に反するようなことが起きている場合に、従業員やギグワーカーがソーシャルメディアで異議申し立てをすることに対して寛容な態度を取る企業が増えていることがあるとみられます。

そして、そこに新型コロナウイルスのパンデミックが発生しました。

2020年のクリスマスツリーには、おもちゃの兵隊などの伝統的なオーナメントだけでなく、国立アレルギー・感染症研究所を率いるアンソニー・ファウチや、名もなきエッセンシャルワーカーが飾りつけられていました。これは、スーパーの店員やバスの運転手、介護施設職員、配達員など、命をかけて最前線で働いている人たちへの感謝の気持ちを示したものです。

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Image: VIA AMAZON

こうしたオーナメントは今後に起きるであろうことの予兆として捉えることもできます。エッセンシャルワーカーに対する注目が高まり、労働条件の改善が求められるようになるでしょう。ジェフ・ベゾスは世界有数の富豪ですが、アマゾンの倉庫スタッフは生活賃金すら得られていないのです。

労組非組合員によるキャンペーン活動などを支援するNPO「Coworker.org」の共同創始者であるミシェル・ミラー(Michelle Miller)は、「米国の幅広い層」が時給制の下で働く人たちを助けようとしていると話します。

一方、労働組合一般への支持も2003年以降で最高水準に達しています。ギャラップが昨年9月に行った世論調査では、米国民の65%が労組を支持すると答えました(ただ、労組に好意的なのは民主党の支持者に偏っています)。

ミラーは「労働者の権利拡大を求めているのは、最前線で働く人たちだけではありません。この動きは、これまでは低賃金労働者に対して福利厚生を提供することを拒んできた経営幹部を含むあらゆる人たちに広がっています」と指摘します。

先進国では、都市生活を維持する上で必要不可欠な職業に従事する人たちは文字通り過小評価されてきました。彼らの実質賃金は過去40年間ほとんど上がっていません。わたしたち自身も、こうした仕事の重要さをきちんと認識していません

ただ、社会の意識改革が進み、ホールフーズ・マーケットトレーダー・ジョーズの店員、インスタカートの配達員、ファーストフード店の店員、倉庫スタッフといった人たちを応援する声が高まっています。パンデミックを受けて、彼らは現実世界とオンラインの両方で、賃上げや職場の安全確保など労働条件の改善を求める運動を続けてきました。

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Image: 10/25/2020, REUTERS/EMILY ELCONIN

社会が働く人たちをサポートしようとする傾向は、最高の職場環境で高い給料をもらって仕事をするグーグルの従業員のような人たちも対象になっているようです。ただ、彼らはパンデミック以前から、一般からの支持の有無とは関係なく行動を起こしてきました。また、今後も特別な支援を必要とはしないでしょう。エンジニアなどの高技能人材は貴重で、企業は必死になって彼らをなだめようとするからです。

What comes next

ストがなくなっても

パンデミックはやがては沈静化し、安全性をめぐる議論は過去のものとなるはずです。ただ、『Quartz』が取材したアクティビストらは、ストライキや労組結成の動きは新たなエネルギーを得て続いていくだろうと話しています。

パンデミックにより、オートメーションやロボティクス、人工知能(AI)の活用が加速しておりアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)のリズ・シューラー(Liz Shurer)は、従業員たちはこの点で「さらに踏み込んだ」議論を望んでいると指摘します。

テクノロジー活用を巡る懸念は、グーグルの従業員たちに行動を起こさせました。彼らは自分たちが書いたコードが引き起こす事態を憂慮し、職を失うことも辞さずに抗議したのです。また、女性差別への抗議やブラック・ライブズ・マターといった社会運動気候変動対策を求める環境運動も、テック業界の従業員アクティビズムを呼び起こしています。この傾向は今後も続くでしょう。

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Image: 11/09/2020, REUTERS/LEAH MILLIS

マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院教授のトマス・コーキャン(Thomas Kochan)は、こう話します。「抗議が増えていくでしょう。必ずしも全従業員を代表するような従来の労組でなく、それぞれの従業員の職場での社会的アイデンティティを反映したグループが声を上げていくはずです」

職場でアイデンティティに沿ったネットワークが形成され、役職に関係なくさまざまな人が参加し、組織内での関係はフラットになると、コーキャンと説明します。「これが組織形成における流動化をさらに促進するのです。そして、企業は職場で新たな動きが起きていることを理解するようになります」

新大統領の就任によって、アイデンティティ問題や移民法、国境をどう管理するかといった政策が変われば、個人の感情に及ぼす影響も薄まる可能性があります。そうなれば、社会的もしくは政治的な理由でのストライキは減るかもしれません。またコロナ禍を受けた経済の悪化が続けば、従業員は実力行使に出ることは難しいと感じるようになるかもしれません。

それでも、テック企業が黒人を平等に扱わないソフトウェアを警察当局に販売するのをやめることはないでしょう。雇用における差別やAIによる偏った評価といった問題の解決も、当面は見込めません。声を上げる決断をした従業員は企業から嫌がらせを受けるはずです。

こうした慣行は今後も続き、社会はそれに強く反応していくでしょう。わたしたちが2020年に何かを学んだとすれば、それは新たな火種がどこで生じるかを知るのは不可能だということです。

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Image: 11/02/2018, REUTERS/STEPHEN LAM

A timeline of employee activism

アクティビズムの10年

最後に、この10年、米国を中心に起きた「従業員アクティズム」を年表にして紹介します。誰の何が問題として挙げられ、誰がどのように立ち上がったのでしょうか(そして、問題を突きつけられた者は、どう振る舞ったのでしょうか)。

  • 2011年 米小売大手ターゲットでブラックフライデー・セールの早期開始に対し、従業員がChange.orgで嘆願書を立ち上げ。約19万人の署名を集める
  • 2012年 ニューヨーク市のファーストフード店で働く200人の従業員が、賃上げを要求しボイコット。市民運動「Fight for $15(15ドル のために戦おう)」へ
  • 2013年 非組合員グループにプロボノのトレーニングやコンサルティングを提供する非営利団体「Coworker.org」が設立される
  • 2015年6月4日 デジタルメディア『Gawker』のジャーナリストたちが組合結成
  • 2016年8月26日 サンフランシスコ・49ersのクォーターバック、コリン・キャパニックが、黒人に対する警察の残虐行為に抗議するため、国歌斉唱時の起立を辞退
  • 2016年11月8日 ドナルド・トランプが米国大統領に。移民女性のリプロダクティブ・ライツトランスの権利国境管理をめぐる政策が、アクティビズムに火をつけることに
  • 2017年2月19日 ウーバーで働いていたエンジニアがセクハラの体験談を個人ブログで公開。マネジャー数人が解雇され、CEOのトラビス・カラニックは最終的に辞任を余儀なくされる
  • 2017年10月5日 『The New York Times』『The New Yorker』が、ハーヴェイ・ワインスタインのハリウッドでの女性への暴行についての暴露記事を掲載し、#MeToo運動が再燃
  • 2018年4月4日 グーグル社員数千人が、米国防総省と契約のうえですすめられていたドローン兵器に利用される可能性のあるソフトウェア開発「Project Maven」の中止を求める請願書に署名
  • 2018年6月19日 マイクロソフトの一部社員がサティア・ナデラCEOに公開書簡。米移民税関執行局(ICE)との業務提携に抗議するもの
  • 2018年11月1日 世界40カ国の推定2万人のグーグル社員が、同社のセクハラ対応とアンディ・ルービンへの9,000万ドルの退職金支払いを巡りウォークアウトを実施
  • 2018年11月27日 フェイスブックの元従業員のマーク・ラッキーが、Facebook上で黒人が不当な扱いを受けていることを告発
  • 2019年2月22日 100人以上のマイクロソフトの従業員が、米軍にMRヘッドセットを納入する4億8,000万ドルの契約について、同社経営陣に抗議文書を送付
  • 2019年5月8日 IPOを2日後に控え、英米各都市のウーバードライバーが、同社の低賃金と劣悪な労働条件に抗議するストライキを実施。ギグワーカーによる多くの抗議活動のひとつ
  • 2019年6月26日 家具通販ウェイフェア(Wayfair)の従業員数百人が、メキシコとの国境から入国し拘束された移民の子どもたちの収容施設に家具を納品するという計画を巡りウォークアウトを実施
  • 2019年9月20日 アマゾン従業員の有志団体「Amazon Employees for Climate Justice」がウォークアウト実施
  • 2019年11月26日 グーグルは、社内の私文書にアクセスしたとして告発された4人「サンクスギビング・フォー」を解雇
  • 2019年12月10日 ナイキの従業員が、同社の女性や女性アスリートの扱いに抗議してウォークアウト実施
  • 2020年2月18日 キックスターターの従業員が労働組合を組織。大手テック企業で初めての正社員による労働組合となる
  • 2020年5月1日 アマゾン、ホールフーズ、ターゲット、インスタカートの小売・倉庫従業員が、雇用主に給与の増額とより良い防護措置の提供を求めてウォークアウトを行う
  • 2020年6月1日 フェイスブック従業員が、トランプ大統領がFacebook上で更新したフェイクニュースの削除が実施されなかったことを理由に、バーチャルウォークアウトを実施。2週間足らずで、同投稿に対するマーク・ザッカーバーグの対応に疑問を呈した従業員1人が解雇される
  • 2020年6月10日 米国各都市でBlack Lives Matterのマーチが盛んなころに、マイクロソフトの従業員数百人が、顔認証をはじめとするソフトウェアを警察に提供する契約に抗議
  • 2020年7月17日 シアトルのスターバックス従業員がマーチ。同社による地元警察財団への投資を引き上げることを要求
  • 2020年7月 ホールフーズの従業員が、Black Lives Matterのマスク着用を禁止したことを理由に雇用主を集団訴訟で訴える
  • 2020年8月 ナイキの黒人従業員がウォークアウトを実施。同社における黒人従業員の扱いに対して異議を唱える声が上がり続けていた
  • 2020年9月30日 新たに組合に加入した『New Yorker』のジャーナリストたちに対し、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスならびにエリザベス・ウォーレンら民主党政治家が支持を表明。彼ら政治家は、連帯を示すために『New Yorker』のイベントをボイコットすることに同意
  • 2020年10月27日 アラバマ州ベッセマーのアマゾンの倉庫従業員が全米労働関係委員会(National Labor Relations Board)に労働組合化を求める請願書を提出
  • 2020年12月2日 グーグルが著名な研究者ティムニット・ゲブルを解雇。同社のマイノリティ雇用における欠陥や人工知能の偏りを指摘したあとのことだった
  • 2020年12月3日 全米労働関係委員会(NLRB)は、グーグルが抗議活動を組織した従業員を違法に監視し、その後サンクスギビングフォーの1人を含む2人の従業員を不当に解雇したとする告発状を提出

This week’s top stories

今週の注目ニュース

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  1. 2020年の自然災害(世界)。コロナに象徴される2020年。しかし、パンデミックと並行して、何百万人もの人びとが自然災害に対処することを余儀なくされました。昨年末に再保険大手スイス・リーが発表した分析によると、今年の自然災害による世界の経済損失は1,750億ドル(約18.2兆円)に達しています。保険金は760億ドル(約8兆円)を数え、1970年以降で5番目に高かったようです。
  2. 2020年の自然災害(米国)。とくに米国における自然災害をみると、2020年は、大西洋で非常に多くのハリケーンが発生した年でもありました。中西部では暴風雨が起き、西部各州では記録的な山火事が繰り返し発生しています。NOAA(米海洋大気庁)が1月8日に発表したところによると、2020年の米国での気象・気候災害は、220億ドル(約2.3兆円)規模ともいわれています。

(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)


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