Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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2020年、中国を超える経済成長を遂げた台湾。それを支えた半導体産業の成功の背景とは? 毎週水曜夕方のニュースレター「Deep Dive」では、国境を越えて動き続けているビジネスの変化を追います(英語版はこちら)。
台湾の昨年の国内総生産(GDP)成長率は2.98%となり、COVID-19に苦しんだアジア諸国では最高となりました。ほぼ30年ぶりに中国の経済成長をも抜き去ったのです。
背景には、パンデミックへの対応で成功を収めたおかげで(人口2,400万人の台湾での累計感染者数は1,000人弱で、死者数も10人以下にとどまっています)、世界が感染対策で足踏みをしている間にも自国経済を動かせたことがあります。
そして、その成長の重要な推進力となっているのが半導体産業です。
ripple effects on car production
クルマが伸びるにつれ
統計当局である行政院主計総処はGDP速報値のリポートで、輸出が好調だった要因として「電子機器部品への高い需要」を挙げています。昨年第3四半期のGDPについても、半導体が製造業の成長を後押ししたと述べました。
電子製品の中核をなす半導体は、現在ではすべての産業で欠かせないものになっています。業界団体の米半導体工業会(Semiconductor Industry Association)によると、昨年の半導体の売上高は世界全体で6.5%増加しました。こうしたなか、サプライチェーンで重要な位置を占める台湾は急拡大する世界需要を満たすだけの能力を備えていたのです。
半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の生産拠点は大半が台湾国内にあります。同社は前四半期に過去最高益をたたき出しただけでなく、今年は開発と生産能力の強化に総額280億ドル(約2兆9,300億円)を投じる方針を示しています。
世界経済における台湾の重要性は、半導体の需給が自動車産業に及ぼす影響を見ればわかります。トヨタやフォルクスワーゲンを含む大手自動車メーカーは最近、半導体不足のために生産調整に追い込まれました。自動車は車載情報通信システムからパーキングセンサーまで、あらゆるものにチップが使われているからです。
現状の打破に向け、各国政府や業界のトップが相次いで台湾に生産拡大を要請しています。2月には米国と台湾の間で政府高官レベルの協議が行われ、米政権は半導体分野での台湾の協力に謝意を表しました。
independent chip foundry model
勝ち筋と、迫る脅威
2013年に発表されたある論文によると、台湾が半導体分野で世界をリードしている理由のひとつに、受託生産(ファウンドリ・サービス)というビジネスモデルがあります。TSMCは世界を代表するファウンドリーであり、他社が設計したチップの生産に特化しています。
また、台湾の他の半導体メーカーもそれぞれが生産過程の特定の段階で高度に専門化された役割をこなしており、半導体産業全体で技術や知見が蓄積されてきました。さらに、補助金や税制優遇措置、化学団地や工業団地などのインフラ整備といった政策が後押しして産業のエコシステムが形成され、台湾は世界有数の半導体大国となったのです。
しかし、米中対立が台湾の半導体産業の未来に暗い影を落としています。
ワシントンと北京は戦略分野である半導体技術をめぐり激しい争いを繰り広げており、TSMCをはじめとする台湾企業は今後も難しい地政学的な綱渡りを強いられるでしょう。TSMCはすでに、トランプ前政権の経済制裁によってファーウェイ(Huawei、華為技術)と取引ができなくなっています。TSMCにとって華為技術は2019年時点でアップルに次ぐ大口顧客でした。
ただ、シンクタンクの外交政策研究所(Foreign Policy Research Institute)のトーマス・シャタック(Thomas Shattuck)は、TSMC(および台湾の半導体産業)は米中の板挟みとなることで、ある程度の安定を確保できていると指摘します。
シャタックは最新のレポートにおいて、「米中の技術覇権争いの只中で身動きが取れない現状は理想的ではないにしても、TSMCはおそらくもっとも安定した位置に立っている」と書いています。なぜなら、米国も中国もTSMCを失うわけにはいかないからです。
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Column: What to watch for
ハリウッドはいらない
パンデミック下でも、中国の映画産業は繁栄しています。春節中の週末、興行収入は7億7,500万ドル(50億元)に達し、週末の興行収入として過去最高を記録したほどです。そして、その多くは、中国国内で製作されたクライムコメディ『唐人街探案 3(Detective Chinatown 3)』によるものでした。『唐人街探案 3』の興行収入は4億2,400万ドル。比較のためにハリウッド大作『アベンジャーズ エンドゲーム』を挙げると、同作が2019年4月の公開週の週末にアメリカ国内で打ち立てた記録は3億5,700万ドルでした。
中国が国外映画の上映を許可したのは1994年のことでしたが、以来、海外制作の(主にハリウッド)映画は、中国国内の興行収入において40%以上のシェアを占めてきました。しかし、2017年時点の46%をピークに、そのシェアは年々低下。2020年には、海外映画はわずか16%を占めるに留まっています。Quartzの動画シリーズ「Because China」で昨年公開したドキュメンタリー(メンバーシップ会員限定、日本語字幕付き)では、中国国内の映画興行収入が2020年までに米国を追い抜くとの予想をしていましたが、それは決して大げさな話ではなかったのです。
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
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