Borders:攻撃されるサイバースペース

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Deep Dive: Crossing the borders

グローバル経済の地政学

[qz-japan-author usernames=” Odanga Madung”]

アフリカ諸国における「ネットの分断(Sprinternet)」が、いま、大陸全土の民主主義と経済に大きな影響をもたらしています。毎週水曜夕方のニュースレター「Deep Dive」では、国境を越えて動き続けているビジネスの変化を追います(英語版はこちら)。

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Image: REUTERS/BAZ RATNER

フェイスブックとツイッターが、ウガンダの情報当局が運営していた複数のアカウントやネットワークを凍結すると明らかにしたのは、1月11日のことでした。偽アカウントや重複アカウントが確認されたためで、選挙前に世論操作を狙った「組織的な不正行為」があったとしています。

通信分野の監督機関であるウガンダ通信委員会(UCC)はこれを受け、ただちにインターネットを遮断することを決定、翌12日からはソーシャルメディア(SNS)やメッセージアプリが使えなくなりました。

a splinternet on the Africa

わかりやすいシナリオ

権威主義体制がソーシャルメディア企業と戦うときによく使う手段がネットの遮断です。権威主義とインターネットへの自由なアクセスが並存することに、そもそも無理があるのでしょう。

アフリカでのネット規制は当初は個人を対象としたもので、ヘイトスピーチや偽情報の拡散を禁じる法律の制定、デジタル税の導入といった措置が取られました。しかし、現在では規制はプラットフォームを狙ったものになっています。

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Image: REUTERS

アフリカでは、各国政府が言論の自由を侵害してきた歴史があり、当局がネットの遮断により市民への影響力を強めることに意欲的なのは明らかです。SNSは従来型メディアと比べて規制がはるかに困難ですが、政府はいまだに両者を似たようなものだと捉えています。

ネットの遮断だけでなく、SNS企業が投稿の削除命令などに対応するためのローカルオフィスを開設したり、データ管理を国内で行うよう求められることもあります。ウガンダでいま起きていることを観察すると、アフリカ大陸で権威主義国家がどうやってサイバー空間の分断(splinternet)を進めているかがよくわかります。

Big tech meets big government

テックと大きな政府

ウガンダでは1月14日に大統領選が行われ、以来、政府と米国のSNS大手との間で独特の緊張が高まっています。その中心となるのが、SNSプラットフォームでは何が許されるのか、またコンテンツ管理はどうあるべきかという議論です。

フェイスブックは2016年から、ファクトチェックを行う個人や組織の世界的なネットワークと協力して偽情報の特定と拡散防止に向けた取り組みを進めてきました。ただ、こうした動きは言論統制を行おうとする権威主義国家からは歓迎されていません。

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Image: REUTERS

大統領選では現職のヨウェリ・ムセベニ(Yoweri Museveni)大統領が勝利を収めましたが、フェイスブックはその直後、ケニアのウフル・ケニヤッタ(Uhuru Kenyatta)大統領が投稿した祝辞に対し、誤って「フェイク」であるとするフラグを立ててしまいました。ウガンダでのコンテンツ管理で提携しているローカルネットワークのペサチェック(PesaCheck)のミスによるもので、すぐに取り消されましたが、ウガンダ政府はここぞとばかりに、SNS企業は傲慢だと非難しています。

フェイスブックの透明性を高める上でファクトチェックは重要ですが、問題も浮き彫りになっています。コンテンツの監視を強化する取り組みが言論統制を当たり前に行う政府の怒りを買ったとき、何が起きるのでしょう。わたしたちがこれまで慣れ親しんできたインターネットが変質していく可能性があります。

SNS企業はアフリカでは巨大な富と権力を持っています。彼らは「真実の裁定者」であり、コンテンツのモデレーションやファクトチェックを委託された企業は事実上、その権力の一部を移譲されることになります。そして、真偽の判断や人びとがネットで目にするコンテンツを決める力は、政治的な武器とみなされます。

How tech companies respond

誰がタブーを犯すか

アフリカ諸国の政府はインターネットとSNSを規制しようとしますが、これは「世界を編集する力」との戦いだといえるでしょう。ただし、SNS企業が現地に物理的な拠点を置いていることは珍しく、法や規制による取り締まりは困難です。

結果として、政府は民間のプラットフォームの力を弱めるためにSNSの完全なブロックという手段を選びます。ウガンダではネットは1月18日に再び使えるようになりましたが、2月10日時点でSNSのブロックは解除されておらず、VPN(仮想私設網)経由でなければ接続することはできません。同国ではVPNを使えば逮捕の可能性もあります。

政府にとって、ネットやSNSの遮断は社会をコントロールする力を取り戻すことにほかなりません。ただ、日々の生活でこうしたサービスを利用している多くの人が影響を受けるのは必至で、今回のような措置はウガンダ経済に大きな損失をもたらします

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Image: REUTERS

一方、ウガンダと米国の外交関係の貧弱さを考えれば、テック大手が米政府に助けを求める可能性は低いでしょう。ウガンダ政府は内政干渉で米国を非難したほか、ムセベニ大統領は、フェイスブックは米国の「傲慢さ」を象徴していると発言しました。

しかし、フェイスブックやツイッターがウガンダ市場から撤退するかと言えば、それほど単純な話ではありません。アフリカ大陸はその人口に加えインターネットの利用も拡大しており、巨大市場に成長しつつあるからです。そこで問題になるのは、誰がタブーを犯すのかという点でしょう。

将来的に、アフリカ諸国が物やサービスに加えプラットフォームの輸出入を可能にする貿易協定を結ぶ可能性はあります。中国はかなり前に権威主義体制の維持に役立つ検閲システムをつくり上げていますが、これはアフリカでも成果を上げています。ウガンダでは華為技術(ファーウェイ)が開発した顔認識システムが反政府デモの監視に使われていることが明らかになっています。

SNSプラットフォームを運営するのは営利企業であり、現行の政府への抵抗運動では当てにはできないということは念頭に置いておくべきでしょう。また、SNS大手は正しい判断を下せる人たちを雇おうとしていますが、ファクトチェックやモデレーションを請け負う組織が政治的に無関心だという保証はありません。フェイスブックは過去にも、米国のコンテンツモデレーターの政治的偏見という問題に対処しなければなりませんでした。

With more than 17 more elections

今年、アフリカでは

ネットの分断は避けられない運命であり、民主主義ではなく権威主義が支配し、政府は国民を保護するではなく搾取するという未来がやってくる恐れはあります。

ただ、アフリカでの分断がどのように進展するかは、ビッグテックがそのプラットフォームで何を拡散させ、何を禁止するかによって変わっていくでしょう。

2月のソマリア、ニジェール。3月のコートジボワール、コンゴと、アフリカでは今年、17カ国で大統領選挙や議会選挙が予定されており、ウガンダで起きたのと同じような戦いが各地で繰り広げられることが見込まれます。テック業界の巨人たちの行動は、社会での議論や人々の自由だけでなく、開かれたネット全体に重大な影響を及ぼしていくはずです。

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Image: 02/24/2021, PRESIDENTIAL ELECTION IN NIGER, REUTERS

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Column: What to watch for

中国製クローンの運命

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Image: REUTERS/FLORENCE LO/ILLUSTRATION

オーディオチャットアプリ「Clubhouse」は、中国のユーザーにこれまでにないかたちの言論の自由をもたらしました。しかし、当局は8日にも同アプリをブロック。短かった春は早々に終焉を迎えました。一方で、中国のテック企業は独自のClubhouseを開発する機会を手に入れたようで、中国のコンサルタント会社iiMedia ResearchのCEOによると、中国にはオーディオベースのソーシャルメディア製品を開発しているチームが100以上確認されているといいます(リンク先は中国語)。

例えば、ライブストリーミングサービスを展開する香港上場企業のInkeが開発した「Duibhuaba」は、Clubhouseがブロックされたわずか2日後にAndroidとAppleのアプリストアに登場(中国のテック系ニュースサイト『36Kr』の報道による)。同社によると、2月20日現在でDuihuabaには4,000人以上の登録ユーザーがおり、そのうち約1,000人が毎日アクティブに活動しているとされていました。ただし、22日にも、同アプリはGoogle PlayとApp Store双方から削除されています。

(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)


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