Deep Dive: Quartz at Work
グローバル経済の地政学
[qz-japan-author usernames=”Jay Coen Gilbert”]
毎週木曜夕方は、新世代のビジネスパーソンのためのマインドセットやティップスを週替わりでお届けします。今週は「いい会社」を見分けるための認証制度「B Corp」を運営するB Labの共同設立者からの寄稿文です(英語版はこちら)。
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世間で「気候変動は存亡の危機」と叫ばれるようになって以来、気候変動に関する組織の力学は大きく変化しているという見方があります。しかし、わたしはそうは思いません。
米国は、100万種の生物が絶滅の危機に瀕していると警告した最近の国連報告書に署名した132カ国のうちのひとつでした。報告書の筆頭著者は、地球上の生物多様性が失われることで「世界中の経済、生活、食料安全保障、健康、生活の質の根幹が侵食されている」と述べています。
この報告書が意味するのは、つまるところ、わたしたちは自分たちの生存に必要なものを殺している、ということです。
to act as if the house was on fire
声を上げること
各国政府に求められるのは、ただ報告書に署名するだけではありません。必要な変化をもたらすためには、経済的なインセンティブを調整する政策が必要です。しかし、同時に、行政の手が届かない部分を企業がリードする必要もあると、わたしは強く思います。ビジネスリーダーたちは、国家や議会と同様に、いまが気候変動の緊急事態であると宣言すべきなのです。
ビジネスリーダーのなかには、この事態に対応している人たちがもちろんいます。その方法は素晴らしく、独創的なものばかりです。そして、これらの企業の多くが「Bコーポレーション」(B Corp、Bコープ)として認定されており、「ビジネスをよい方向に導く力」としてのビジネスモデルを確立しています。2006年にB Labを設立して以来、わたしたちは「意思決定の際に環境への影響を考慮する」という要件に同意する約3,000社の企業からなるグローバルコミュニティの育成を支援してきました。
Bコープに認められた企業は、利益と目的のバランスをとるために、社会的・環境的パフォーマンス、公的な透明性、法的な説明責任を果たさなければなりません。
この最後の要件が、気候変動という緊急事態に対処するカギとなります。Bコープが求める環境への配慮義務は、「選択肢」ではなく「法的な要求」です。
Bコープの認証を受けた企業だけをみれば、他の多くの企業よりも環境に配慮しているといえるでしょう。しかし、Bコープの数はわずか数千にすぎません。一人ひとりが発揮するリーダーシップだけでは不十分ななか、ビジネスリーダーに求められる役割とはいったい何でしょうか?
必要なのは、業界やセクター、地理的な境界を超えて、ビジネスリーダーが集団で声を上げ、集団で行動することにほかなりません。若きスウェーデン人気候変動活動家、グレタ・トゥーンベリの言葉を借りれば、企業が政府に影響を与え、「家が火事になったかのように行動する」ことが必要なのです。
Climate as a business strategy
ビジネス戦略にする
世界には、大胆な行動を起こすことで、自らの信頼性を高めながら、正しい道を歩んでいる企業があります。2019年初め、7,700万ドル以上の資金を調達して10億ドルの評価額に達した人気シューズメーカーのオールバーズ(Allbirds)は、同年、カーボンニュートラルを実現すると発表しました。この目標を達成するために、まずカーボンオフセットを購入し、それに加えて社内で炭素税を課すことを計画しました。
内部炭素税(Internal carbon pricing、ICP)で得られた資金は、炭素を吸収・蓄積するための植林や、化石燃料に代わる風力発電所の建設など、排出量を削減するためのプロジェクトに使われます。これらの取り組みは、Allbirdsがサプライチェーンや事業活動を通じて排出する1トンの炭素に相当します。
ベン&ジェリーズ(BEN&JERRY’S)は、2015年、排出量1トンあたり10ドルのICPを設定し、さまざまな持続可能性プロジェクトに投資をしています。Bコープ以外にも、ディズニーやマイクロソフト、シェルなど、ICPを導入している大規模な上場企業は数多くあります。
しかし、ICPを本当に効果的なものとして実現するためには、副次的なプロジェクトではなく、ビジネスビジョン全体を支える中心的な戦略として取り入れる必要があります。
先見の明と勇気のあるビジネスリーダーは、困難な選択をすることを恐れません。人類すべてが依存している健全な生態系、社会・経済システムを支えるために、ビジネスモデル全体を転換することを恐れていません。もしビジネスが有限な資源に依存しているのであれば、ビジネスのやり方だけでなく、何を、どう変えるかを考えなければならないのです。
パタゴニアは、ファッション・アパレル業界に蔓延する廃棄物問題に悩まされていました。そこで、「Worn Wear」プログラムを立ち上げ、破れたり傷ついたりした製品の代わりに新たな製品を生産するのではなく、スタッフを訓練して衣類の修理に従事できるようにしました。また、自らの企業理念(「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」)を達成するためには再生可能な農業が必要だと考え、食品分野にも進出しています。
「マジックソープ」で知られるドクターブロナーズ(Dr.Bronner’s)も、環境を第一に考えている企業のひとつです。同社は70年以上の歴史をもつ同族企業ですが、少なくともさらにもう70年存続するために、再生原理に根ざした製品、ビジネスモデル、サプライチェーンを構築してきました。
これらのモデルは、それぞれ素晴らしいといえます。しかし、それ以上の影響力が、各企業がそれぞれのリソースを組み合わせることで生まれます。ドクターブロナーズとパタゴニアはまさにそれを実践しており、新たなオーガニック認証「環境再生型オーガニック認証」(Regenerative Organic Certification)を通じて業界全体のシフトチェンジを推進しています。
自らのビジネスモデル全体を再考するのはもちろん、声を上げること。それによって、ビジネスリーダーは変化の必要性を株主に対して正当化できます。さらに、より重要なこととして、政策立案者がインセンティブを調整し、資本市場が健全な長期計画に報いることができる状況をつくり出すことができます。
「家が燃えているかのように」行動すること。そうすることで、わたしたちは人類が直面しうる最悪の事態を避けるために、すぐに行動に移ることができるのです。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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