Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
[qz-japan-author usernames=”qz.com”]
明らかにされない取り締まりをアップし続ける若い中国人男性が、フルネームを明かさないことを条件にQuartzのインタビューに応じてくれました。毎週水曜夕方のニュースレター「Deep Dive」では、国境を越えて動き続けているビジネスの変化を追います(英語版はこちら)。

このニュースレターは、現在、期間限定で配信から24時間、ウェブ上で無料で閲覧できます。ニュースレター末尾のボタンからぜひシェアしてください。
中国では、言論統制が表立って語られることはほとんどありません。警察当局の通告や海外メディアで取り上げられることで話題になるのは全体のごく一部で、政府が「問題」とみなした言論の大半は誰の目にも留まらないまま消えて行くのです。
こうしたなか、言論統制に違反したために罰せられた事例のデータベースを作成している若い男性がいます。この男性については苗字がワン(Wang)であることしかわかっていませんが、彼はメディア報道と裁判記録を元に、2019年10月から2,000件近くの言論弾圧を記録してきました。
ワンが作成したGoogleスプレッドシートはネットに公開されていますが、中国ではネット検閲などのためにこうした情報を見つけるのは容易ではありません。また、このようなデータベースを作成すれば処罰の対象となる可能性が高く、大半の人はあえて危険を冒そうとはしないのです。
One levied against dissidents
何が、どう罪になるのか
ワンのスプレッドシートでは、規制違反が2種類に分けられています。一方はCOVID-19関連で、新型コロナウイルスを巡る情報を発信したことで罰せられた人たちの記録です。この中には、政府の公式発表の前に武漢から警鐘を鳴らし、感染によって死亡した医師の李文亮(Li Wenliang)の名も含まれています。

もう一方のカテゴリーは多様で、例えば日常の会話で交通警察に対して文句を言った、米国との貿易摩擦に関する政策を批判した、建物の取り壊しを巡る抗議運動を撮影してネットにアップロードした、「ウェイボ」(Weibo、微博)で毛沢東に批判的な投稿をシェアした、などといったことで投獄された事例が並びます。
このように内容はさまざまですが、中国では反体制的とみなされた行為には一般的に「尋衅滋事(意図的に騒乱を引き起こす)」という罪状が付きます。自身のブログで各地で起きているストライキや抗議デモについて書いたために、2017年に4年の実刑判決を受けた市民記者の盧昱宇(Lu Yuyu)の罪状もこれでした。
また、2018年には「英雄烈士保護法」という新しい法律ができ、革命の英雄とみなされる人物を侮辱することが罪に問われるようになりました。そして先月には、この法律に絡む初の刑事裁判が行われています。被告は昨年5月に起きた中印国境でのインド軍との武力衝突について、当局の公式発表に疑問を投げかけるブログ記事を投稿したとして起訴されました。

ワンのスプレッドシートを見ていくと、数日間の勾留から数年の実刑判決まで、刑の軽重も事例によって大きく異なることがわかります。外国メディアに対して政府への批判的なコメントをしたために、新疆ウイグル自治区の男性に19年の実刑判決が下された例もあります。
ワンは当局からの締め付けを恐れてフルネームを明かしていませんが、Quartzは今回、彼に話を聞くことができました。
interview with a young web sleuth
それは「最後の防衛戦」
──言論弾圧の事例を収集し始めたきっかけは何ですか。
中国の国民は何でも簡単に忘れてしまうと思ったからです。きょうは怒りを感じても、半年後には覚えていないでしょう。それに、世界の人たちに(共産)党がどのようにして言論の自由を組織的に奪ってきたかを見てもらいたいと思ったんです。一つひとつの事例を記録すれば、それは北京(の中央政府による言論弾圧)に対する告発を議論するときに証拠になります。
──中国では、一般的にどのような理由で発言が処罰の対象となるのでしょう。
個人的には、問題になるのは「政治的に間違った」コメントだと思っています。具体的には、政府を批判したり、抗議運動や当局への請願を呼びかけたりといったことです。1989年に起きた天安門事件のように「微妙な」トピックに触れるのもいけません。中国では一部の人がTwitterを使うようになっていますが、香港の民主化運動や新疆のウイグル人収容施設、チベットや台湾の独立問題など、特定の話題にコメントしたために罰せられた事例があります。
ただ、当局は政治とは無関係の分野でも取り締まりを強めています。超えてはいけない「レッドライン」が増えているのです。
──中国での言論の自由の現状についてどう思いますか。
明らかに非常に悪化しています。例えば警察を侮辱すると罪に問われますが、2015年以前は実際にそうしたことで処罰された事例はほとんどありませんでした。それがいまでは普通に行われており、ニュースでもよく報じられています。それに、戦争の英雄たちの評価を傷つけるような発言を犯罪化する新しい法律もあります。
去年からは、これにCOVID-19に関する話題が加わりました。新型コロナに関するコメントで罰せられたケースが、わたしが集めたものだけで600件以上あります。

──Googleスプレッドシートを使っているのはなぜでしょう。
何を使うかについては、最初は特に考えていなかったんです。Googleスプレッドシートを選んだのは、外国の大手テック企業はまだ比較的信頼できると考えているからです。Twitterで言論統制の違反事例をつぶやいているのも、そのためです。……ただもちろん、Googleは安全ではないと感じるようになれば使うのをやめるつもりです。
Googleスプレッドシートや外国のソーシャルメディアは、言論の自由の最後の防衛線です。中国ではこうしたプラットフォームは検閲を受け入れています。政府は外国のサービスを禁止したり、国内企業には政治的なコンテンツを削除するように求めているのです。
──中国のテック大手は政府による言論統制においてどのような役割を果たしているのでしょうか。
以前は消極的な協力にとどまっていました。なぜなら、サイバー警察に協力してユーザーが逮捕されれば企業の評価に傷がつき、ユーザーエクスペリエンスにも影響するからです。ただ、政府はテック企業が中途半端な対応しかしていないことに気づくようになり、圧力を強めています。ルール違反のコンテンツを見つければ企業の責任者を呼び出したり、企業内に党組織を置くように要求したりしているのです。こうした状況では、これまでのような「受け身の協力」という選択肢はなくなります。
──今後もデータベースの更新を続けていきますか?
中国で言論弾圧がなくなるまでは続けます。言論の自由に関しては、わたしは中国だけでなく世界の反応に対しても悲観的でいます。政府はテクノロジーを駆使して言論弾圧を強めているのに、中国国民が抗議したり、外国政府が(言論弾圧に)制裁を科すといった動きはありません。
一方で、検閲はどんどん組織的かつ専門的になっています。中国は「デジタル独裁」というモデルを最初に採用した国であり、他国にもこれを輸出していくはずです。
🌍 ウェビナーシリーズ「Next Startup Guides」への参加申込みを受付中です。4月28日(水)に開催する第6回では、Global Brainの上前田直樹さんをゲストに迎え、英国を中心としたヨーロッパにフォーカスします。詳細・お申込みはこちらから。
Column: What to watch for
スニーカー転売と愛国

新疆綿拒否をめぐり、中国の消費者はナイキやアディダスなどの海外ブランドをボイコット。これは中国国内のプレイヤー、特にプレミアムスニーカーメーカーにとって新たなチャンスをもたらしています。国内スニーカー再販プラットフォーム「Dewu」では、中国のスポーツブランドLi-NingとNBAのスター選手がコラボしたスニーカーが販売価格の約30倍の約48,889元(7,474ドル)の値を付けたほか、日本のアニメキャラクター「ドラえもん」をモチーフにした中国ブランドAntaのスニーカーシリーズも、約9倍の価格に跳ね上がったようです。
国内紙『Global Times』では、「新疆綿事件以降、海外ブランドが態度をあいまいにすることで市場は不確実性を増している。投機リスクが高まっているため、転売屋の多くがリスクを回避するために国内ブランドに移行している」との中国のシューズコレクターのコメントを紹介しています。一方で、スニーカーブローカーが国民の愛国精神を利用しているとする見方もあります。国営紙『the Paper.cn』の6日付けの社説では、「この機会を利用して、靴の価格をつり上げる一部のスニーカー業者がいる」とも指摘されています。
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
🚀 このニュースレターは、現在、期間限定で配信から24時間、ウェブ上で無料で閲覧できます。ニュースレター末尾のボタンからぜひシェアしてください。シェアいただいた方にはQuartzオリジナルステッカーと、ご友人をQuartzメンバーにお誘いいただける特別クーポンをお送りいたします。
🎧 Podcastもぜひチェックを。 Apple|Spotify
👀 Twitter、Facebookでも最新ニュースをお届け。
👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。