Impact:ちっちゃなEVが売れたワケ

Impact:ちっちゃなEVが売れたワケ

Deep Dive: Impact Economy

これからの経済

[qz-japan-author usernames=”Janelilinjin911″]

先週のニュースレターでは、米国で歓迎されている「ハマー」の電気自動車版を紹介しましたが、今週は中国の「テスラキラー」について。毎週火曜夕方のニュースレターでは、気候変動をはじめとするグローバル経済の大転換点をお伝えしています(英語版はこちら)。

Auto Shanghai show in Shanghai
Pint-sized competitor.
Image: Reuters/Aly Song

宏光Mini」(HongGuang Mini)は、小さな箱型の電気自動車(EV)です。EVの多くが洗練されたスピード感のある見た目をしているなかでも珍しい控えめなかわいらしさと、控えめな価格。それこそが宏光Miniの成功の秘訣です。

宏光Miniが中国で発売開始したのは昨年7月下旬のことでしたが、それからわずか数週間でテスラを上回る販売台数を記録しています。9月の宏光Miniの販売台数は1万4,495台(EV-Volumes調べ)ですが、同月のテスラの、「モデル3」を中心とする販売台数は1万1,329台です(中国乗用車協会〈CPCA〉調べ。両者の月次データを比較できる単一ソースはなし)。

両者の差はその後も続き、今年に入ってからも拡大しているようです。EV-Volumesのデータによると、2021年1月の宏光Miniの販売台数が3万6,760台なのに対し、CPCAによると、中国国内におけるモデル3の販売台数は1万4,554台です(テスラ全体でも1万6,521台)。2021年の現時点において、中国が世界最大のEV市場であることを考えると、「世界で最も売れているEV」は宏光Miniであるといってもいいのかもしれません。

A safe, clean space

コロナを商機に

業界分析会社Canalysのチーフアナリスト、クリス・ジョーンズ(Chris Jones)は、2020年の中国EV市場を「2台のクルマの物語」と表現しています。つまり、上半期にはテスラの中国製モデルが圧倒的な強さを見せた一方で、「下半期には宏光Miniが市場をリードした」というのです。

Quartzによるメールインタビューに対して、ジョーンズは次のように付け加えています。「渡航制限が行われ、自宅で仕事をする人が増えたパンデミック中の2020年に新車を発売するのは、メーカーにとって明らかなリスクでした。しかし、低価格で発売された宏光Miniは、非常に便利な移動手段となりました。公共交通機関やライドシェアとは異なる、安全で清潔な空間です」

Calling out to Generation Z

ようこそZ世代

宏光Miniは、国営自動車大手の上海汽車(SAIC)、ゼネラルモーターズ、広西汽車(旧:五菱)の合弁会社である上汽通用五菱汽車(SGMW)が開発しています。価格は2万8,800元約45万円)で、環境意識が高いものの資金を潤沢にもっているわけではないZ世代にとって、ぴったりのクルマです。

小さく安いクルマではありますが、メーカーは宏光Miniを「単なる実用的な移動手段」ではなく「ファッショナブルなアイテム」として位置づけていました。そして、それが若い世代の購買者にウケたようです。SGMWによると、購入者の実に7割以上が1990年以降生まれ。さらに、6割以上が女性だったといいます。中国のソーシャルメディア「ウェイボー」(微博、Weibo)やSNS型ECアプリ「小紅書」(Xiaohongshu)などでは、内外装を改造するなどして楽しむ動画が数千万回も再生されています。

Image for article titled Impact:ちっちゃなEVが売れたワケ
Image: PHOTO VIA SGMW

中国ではこれまで、小型・低速のEVは、コストパフォーマンスを求める農村部の高齢者に多く利用されてきました。また、そうした小型・低速のEVは、近場での往来には便利なものの公道での走行ができないケースもあったようです。しかし、宏光Miniはそれらとの差別化に成功しました。マーケティングイベントが開催され、イメージを一新することに成功したのです。例えば3月には上海でオーナー向けのパーティが開かれ、カスタム車数百台が展示されました。

今月には、フランス菓子をイメージした鮮やかなカラーリングの新モデル「マカロン」(Macaron)が発表されています。マカロンシリーズの価格は3万6,800元(約61万円)からで、コンバーチブルモデルもあります。

宏光Miniの累計販売台数は20万台以上。2020年、テスラの全世界での出荷台数が約50万台だったことを考えると、この数字は驚くべきものです。

A rising EV tide

EVを求める声

宏光Miniの販売台数がテスラを上回ったという事実は、とくに自動車業界の報道を賑わせています。もっとも、宏光Miniのターゲットは「テスラを買えなかった人たち」。SGMWが達成したこの成功が、テスラの犠牲の上に成り立っているわけではありません。

EV購入を検討する人が増えるのは、中国のみならず世界の電気自動車産業にとって歓迎すべきことでしょう。

前出のCanalysのアナリスト、ジョーンズは、「宏光Miniは中国におけるEVの認知度を大きく向上させました。他の国でも同じような都市型EVが発売されれば、その影響は小さくないはずです」と述べています。

Image for article titled Impact:ちっちゃなEVが売れたワケ
Image: REUTERS/ALY SONG

🌍 明日開催! Quartz Japanメンバーシップ読者であれば無料で参加できるウェビナーシリーズ「Next Startup Guides」の第6回は、4月28日(水)、Global Brainの上前田直樹さんをゲストに迎え、英国を中心としたヨーロッパにフォーカスします。詳細・お申込みはこちらからどうぞ。


Column: What to watch for

気候変動へのコミット

Image for article titled Impact:ちっちゃなEVが売れたワケ

先週開催された気候変動サミットで、ジョー・バイデン米大統領は、自国の温室効果ガス(GHG)排出量を2030年までに2005年比で少なくとも50%削減すると発表しています。ブルームバーグNEFはG20諸国の気候変動に関する公約を分析。米国の目標は、BAU比において「最も野心的な目標のひとつである」と評価しています。米国の総排出量は、現時点においても2005年比で約20%減少しています。今後、パンデミックを経て経済回復を期するなかで排出量が増加する可能性もありますが、米国では今後10年間、脱炭素化による経済・社会の変化が最も急速に進むと考えられます。

総排出量および1人あたりの排出量について圧倒的に高い目標を目指すのは、英国です。一方、米国の1人あたりの排出量は依然として世界最高水準にあり、2030年に目標を達成したとしても、依然として高い水準にあるといわざるをえないようです。

(翻訳・編集:年吉聡太)


🎧 Podcastでは、月2回、新エピソードを配信しています。 AppleSpotify

👀 TwitterFacebookでも最新ニュースをお届け。

👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。