Deep Dive: Impact Economy
気候テックの衝撃
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気候変動への手立ては、誰が担うべきなのか? そのための資金を誰が捻出すべきなのか? 今日のニュースレターでは、哲学者と気候政策コンサルタントの対話をお届けします(英語版はこちら)。
以下のテキストは、ジョージタウン大学准教授(哲学)のオルフェミ・タイウォ(Olúfẹ́mi Táíwò)と気候政策コンサルティング企業Climate Focusのディレクター、シャーロット・ストレック(Charlotte Streck)の2人を迎えた対談のダイジェスト版。約60分の対談の様子は、こちらのページの末尾にて音声を公開しています。。
米国の前大統領ドナルド・トランプは、その4年間の任期中で気候変動対策のための国際的な資金援助をほぼすべて打ち切りました。4月22日、バイデン政権はこの方針を転換。米国は2024年までに気候変動対策のための拠出金を年間56億ドルに増額することを発表しています。
この資金には、米国開発金融公社など連邦機関からの拠出金と、国際連合枠組条約(UNFCCC)に基づく「緑の気候基金」への拠出金が含まれ、貧困国がクリーンエネルギーを導入し、気候変動の影響に適応できるよう支援することを目的としています。
この数字に、多くのアナリストは落胆しました。バイデンの計画は、米国がこれまでの排出量に対する責任を負うことに近づけるものですが、まだその基準を満たしていません。
2015年のパリ気候サミットでは、途上国への自主的な資金提供として、経済協力開発機構(OECD)加盟国全体で、2020年までに年間1,000億ドルを下限として調達することが約束されました。
しかし、これまで集まったのは約800億ドル。しかも、その多くには高額な“ヒモ”がついています。2020年10月に発表されたオックスファムの報告書によると、2017〜18年の間に気候変動対策資金として交付された600億ドルのうち、途上国が最終的に懐に入れることができたのは、ローンの返済や利子を差し引いても250億ドルに過ぎないと結論づけています。
stingy and inequitable
ケチで不公平
「気候変動対策を考えるうえで大前提となるのは、これまでの温室効果ガスの排出量の大部分を、米国を中心とした富める国が担っているということ」。ジョージタウン大学准教授(哲学)のオルフェミ・タイウォ(Olúfẹ́mi Táíwò)は、Quartzが主催したソーシャルメディアアプリ「Clubhouse」で行われた対話のなかで、気候変動の「ツケ」についてそう説明しています(対談の全音声はこちらから聴けます)。
タイウォは、「気候変動を取り巻く公平性には、お金以外の問題がある」とも言います。実際、気候変動に適応していくために必要なテクノロジーや知的財産へのアクセスは偏っているといわざるをえません。さらに、国連や世界銀行をはじめとする多国籍機関での議決権は富裕国に集中しています。「わたしたちがこの地球をほんとうの意味で共有するためには、あらゆることを再び議論する必要がある」と、タイウォは指摘します。
国際的な気候政策コンサルティング企業Climate Focusのディレクター、シャーロット・ストレック(Charlotte Streck)は、途上国の気候政策や資金調達に関するアドバイザーを務めています。彼女は、「資金の問題がまず取り組むべきポイントであるのは確か。ただし、途上国の政府が最も望んでいるのは、条件のない現金給付・補助金」だと指摘しています。
「一方の先進国は、これを望んではいません。先進国は、気候変動資金を特定の投資に結びつけたいと考えています。その縛りはあまりに多く、使える資金を得るために途上国が乗り越えなければならない壁は無限にあるのです」
先に挙げたオックスファムの報告書によると、気候変動対策資金の80%は「補助金」ではなく「融資」として提供されています。そして、その資金は、熱帯雨林の保護や産業の脱炭素化など、特定の環境上の成果を達成することを条件としていることが多いのです。しかし、この仕組みは気候変動対策に逆行しているとストレックは指摘します。貧困国が環境保護対策を実施するには、何よりも先に現金が必要だからです。
「このモデルでは、過去10年間で森林減少への手立てを、ほとんど実現できていません」と、彼女は言います。
先に挙げた1,000億ドルという目標は、実際のところ“頭金”でしかありません。国連は、途上国が気候変動に適応するためにかかるコストは、2050年までで年間5,000億ドルに達する可能性があるとしています。フランス開発庁のCEOであるレミー・リウー(Rémy Rioux)は、それだけの金額を調達するには、収益性の高い投資に対して融資を行うしかないと主張しています。4月22日のインタビューで彼は、次のように語っています。「経済の変革を、助成金だけで賄うと考えるのはナンセンス。持続可能なものにするためには、助成金は無駄遣いにほかなりません。多くの民間セクターにはビジネスモデルがあって、着実にローンを返済できるのです」
The limits of private-sector
民間の限界
実際のところ、民間セクターによる気候変動対策をどう見ればいいのでしょう。例えばアマゾンやネスレなどの企業は、今年、ブラジルなどの熱帯林保護を目的としたカーボンオフセットに累計10億ドルを投じるという新たな計画を発表しています。
カーボンオフセットへの需要が高まるなか、民間セクターが排出量の多いサプライヤーに圧力をかけるようになれば、途上国での環境保全やクリーンエネルギーへの取り組みに資金を供給できるようになるかもしれません。
しかし、この方法では、公共であるべき自然資源を私的に管理することになり、そもそも気候変動の原因となった「不公平」が払拭されないと、タイウォは言います。つまるところ、米国をはじめとする各国政府がこれまでよりもはるかに多くの資金を提供し、資金の使い道についてはある程度譲歩すること。この2点に尽きるというのです。
「プロセスは、公的な資金で行われなければならないのです」と、タイウォは語っています。「いまある気候危機は、株主や企業経営者が何世紀にもわたって経済活動のコストを社会化し、一方で利益を私有化してきた結果として起こったものです。つまり、民間企業が何かに投資するということは、根本的に──それがグリーンでも、オレンジでも紫でもその他の色でも──、気候危機を引き起こしたものと同じなのです」
(翻訳・編集:年吉聡太)
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