Deep Dive: Future of Work
「働く」の未来図
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2021年第3四半期でのCEO退任を明らかにしているアマゾンのジェフ・ベゾス。退任を前に、彼は同社が抱える大きな課題──アマゾンで働く労働者からの労働環境の改善を求める声にどう答えるつもりなのでしょうか(原文)。
言わずと知れた1兆7,000億ドル規模のEC界の巨人、アマゾン。創業者でCEOのジェフ・ベゾスは、現職として最新にして最後の株主に宛てた書簡において、アマゾンの新たなゴールは「地球上で最高の従業員とともに、地球上で最も安全な職場」となることにあると記しています。同時に、この目標を達成するには、まだまだ課題があると認めています。
なかでも、以下に紹介する書簡の一部は、米国で起きている議論に対するアマゾンの明確な回答だといえるでしょう。
米国では、アマゾンが同社倉庫で働くワーカーをどのように扱っているかについて、国民的な議論が続いています。この議論が活発化したのは昨年以降のことで、COVID-19に関して労働者の安全性に対する懸念が浮上したのがきっかけでした。
ここ数カ月では、アラバマ州ベッセマーのアマゾン倉庫で働く労働者が組合結成の是非を問う投票を行ったことで、さらに注目を集めました(4/15配信)。この投票では、最終的にワーカーのうち1,798人が組合結成に反対し、賛成は738人と反対票を下回ることになりました。
rhetorical trick
ベゾスの文章術
ベゾスは、アマゾンで取締役会長の役職を担っています。
この会社の取締役会は、最近ベッセマーで起きた組合投票の結果について、心安らかに思ってはいません。わたしたちは、従業員のためによりよい仕事をしなければなりません。従業員のためにどんな価値を生み出すべきなのか、従業員の成功のためにどのようなビジョンをもつべきなのか。そこによりよいビジョンが必要であることは明らかです。
もっとも書簡の文面からは、そのビジョンが具体的にどのようなものなのかは触れられていません。「詳細については、アマゾンは常に柔軟に対応しています」と書かれているにすぎません。
ほかに書かれていることとしては、従業員が携わる単純な反復作業からくるケガを防ぐべくアマゾンが行っている施策を紹介。「従業員のシフトをローテーションで回せるよう、高度なアルゴリズムを使用して自動化された人員配置スケジュールを開発」し、「反復作業を減らしてMSD(筋骨格障害)のリスクから従業員を保護するのに役立てています」と伝えています。あるいは「賃金、福利厚生、スキルアップの機会を提供し、さらにほかの方法を時間をかけて検討することで、従業員の満足度向上に努めていく」とも。
ベゾスが、雇用主としてのアマゾンに欠点が全くないわけではないと認めていることは注目に値します。しかし、この書簡はアマゾンの経営陣にとって、さまざまな批判から自身を擁護するものともなります。メディア各紙は、一部のワーカーからの声として、過酷な生産ノルマやそれによるケガのことや、あるいはトイレに行く時間もないとする声を取り上げています。しかしこの書簡では、アマゾンが倉庫で働くワーカーに対して、スケジュールに組み込まれた30分の休憩やその他の「報告されることのない休憩」を認めていることや、ワーカーに求められる生産ノルマも不合理ではないことが説明されています(「従業員に課せられる生産性についての目標は、その従業員の在職期間や実際の業績データを考慮して達成可能な目標として設定しています」)。
また、この書簡では、アマゾンの劣悪な労働環境を訴えるニュース報道がワーカー自身を蔑視しているのだと示唆するような、巧妙な修辞法も用いられています。次のような記述です。
いくつかの報道をお読みになれば、当社が従業員を大切にしていないと思われるかもしれません。それらの報道では、従業員はロボットのように扱われていて、その魂は絶望的な状態にあると非難されています。しかし、それは正確ではありません。彼らは洗練された思慮深い人びとであり、働く場所を自ら選ぶことができるのです。
growing focus on Amazon workers
ベゾス、7年の変心
今回のベゾスの書簡は、アマゾンに対する圧力が高まっていることを反映しているといえます。アマゾンのワーカーが抗議活動を起こして組織化への努力を重ね、メディアやアクティビスト、あるいは政治家が監視の目を強めるようになるなかで、同社はワーカーが直面する問題に取り組むべきだとする声は大きくなっています。さかのぼること2月にも、エリザベス・ウォーレンやバーニー・サンダースを含む15人の民主党上院議員が、ベゾスに対する公開書簡において、特に労働者を悩ますケガを減らすことにフォーカスし「利益を追求する文化」を変えるよう求めました。
ここ数年のベゾスからの書簡をみれば、年を追うごとにアマゾン倉庫で働くワーカーにふれたボリュームが増えていることに気づくでしょう。昨年の書簡では、COVID-19が会社および労働者に与える影響に焦点をあて、アマゾンが倉庫やホールフーズの店舗で実施した安全対策や、米国で一時的に時給を2ドル引き上げ、残業代を増額するという決定を強調していました。
※ もっとも、同社は2020年6月1日、パンデミックが続いていたにもかかわらず危険手当制度を終了。倉庫で働くワーカーを新型コロナから守るための対策として不十分だとする批判に晒されています。今年2月には、ニューヨーク州の司法長官レティシア・ジェームズ(Letitia James)が、パンデミックにあたってアマゾンは「健康と安全の要求を著しく無視した」とされる事柄においてアマゾンを提訴しています。
2018年の書簡では、アマゾンが米国において、ワーカーの最低賃金を時給15ドルに引き上げる決定をしたことをピックアップ。競合他社に対して挑発的なメッセージを発信しています(「いっそのこと16ドルにして、われわれに挑戦状を叩き返してみては」)。
対照的に、それ以前の数年間(2015〜2017年)の書簡では、ブルーカラーワーカーへの言及は最小限にとどまっています。代わりに、同社がいかにして高水準の文化を維持し、停滞を回避し、「Amazonプライム」を成長させたかといったトピックに焦点をあてていました。
従業員が自ら働く大企業に対し、改革を迫るにはどうすればいいのか。この数年の流れをみて学ぶべきことがあるとすれば、それは、組合を結成することだけが唯一の方法ではないということでしょう。広報活動を行うこと、そして組合結成による脅威を正しく伝えること。それだけでも、企業がワーカーの抱く懸念に応えるよう働きかけることができるのです。
さらにアマゾンに限っていえば、消費者の行動が、倉庫ではたらくワーカーの運命に影響を与えるのは間違いありません。アマゾンのショッピングカートに荷物を入れたことのあるすべての人が、アマゾンという会社が果たすべき「責任」というものについて再考を促す手助けをすることができるのです。
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COLUMN: What to watch for
就活はTikTokで
いま、TikTokでは「キャリアアドバイス」動画が大人気。マーケターやキャリアコーチなどが発信するティップス動画(「インターンシップを獲得するには?」「就職面接を成功させるには」…etc.)が次々投稿されています。仕事/キャリアについてのネットワーキングといえば「LinkedIn」の独擅場と思われてきましたが、この手の動画がいま、TikTokのなかでも成長著しいカテゴリーとして注目されています。
失業率が高止まりするなかで仕事を探す若い世代の行動に着目したのは『Washington Post』。同紙は、「孤立感が募るなか、何時間も無心でスクロールしているときにTikTokがその力を発揮している」と指摘。さらに『Axios』は、就職希望者が投稿した短尺の自己PR動画を通じて採用側が候補者を見つけ出すサービスを、TikTokが試験的に開始すると報じています。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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